人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第6回(後編)

2013.12.27

  • 実施レポート
  • 明石研究会

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林 玲子
「補充移民から社会統合へ:グローカル視点の有効性」について、世界の中で国際人口移動がどのような状況かをお話したい。「グローカル」とした理由は、国際人口移動とは、日本の人口が減るので外国人を、という視点から卒業して、国際的な人口移動の潮流からの、また日本の地方レベルでの実情、ニーズからの視点が重要である、というところを強調したい、ということがある。

近年の国際人口移動の特徴

移動人口の総数は着実に増加して、2010年には世界人口70億人のうち2億1000万人に達し、女性も男性同様に国際移動している。国際人口移動を地球規模課題と考え、2015年が期限のミレニアム開発目標に続く開発目標に、高齢化問題のほか人口移動の問題も入れておくほうがよいのではないかという議論が国連に起きている。

還流移動(日本でいうUターン、Jターン)、短期移動、Urban Rural Linkageといった移動元と先の有機的な結びつきが進み、途上国から先進国へという流れだけではなく、すべての方向への移動、地域統合による移動が活発化している。

2000年くらいから、国際移民による仕送り額が援助額を超えるようになっており、帰国民による技術移転など、途上国経済開発効果も注目されている。一方で頭脳流出の問題、また最近ではアフリカの国々では自国に雇用機会が少ないことによる「強いられた移出」に対する懸念もアフリカ自身から出てきている状況である。

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日本の外国人登録者数は上図に示す通り、2008年をピークに総数は減少しているが、これはリーマンショック、さらに東日本大震災によるもので、リーマンショックによる国際人口移動の減少は諸外国でも認められている。永住者数は増加の一途をたどって100万人に届きそうである。

国際移動の自由化は正しいか

国際移動の自由化についてはいくつか議論がある。国の主権が重要視されていた20世紀と違い、現在は国際的なルールと普遍的な人権が重要視されている(Goldin 2011)。しかし国際移動を全く自由化するのは不公正ではないかと思う。子どもの将来を考えて子ども数を減らす国とそうでない国がある。一方で、ニジェールの例では、たくさん子どもを産めば誰かが外国に行き大金を稼いでくる、という発想の、いわば「ばくち型高出生」ともいえる現象があるようである。これは国内に働き場所がないために海外に行かざるを得ない、という状況が一番の問題であるが(堀井2013)国際人口移動は、人口転換を進め人間開発を進めるための足かせとなるとも考えられるのではないか。国際人口移動のみが経済開発の有効策、というのは、本来の国の開発プロセスを阻害するのではないだろうか。

日本の外国人割合は低いといわれてはいるものの、外国人割合をみると、マレーシアとシンガポールを除いて、日本のみならず韓国を含め一般的にアジアでは低い。

世界で一番移民の割合が高い国々は湾岸アラブ諸国であるが、移民の人権問題などを抱えており、国連などを通じて改善を進めている。次にオーストラリア、カナダといった移民国家では移民の割合が大きい。ヨーロッパ諸国の外国人割合はその次くらいのレベルである。たくさんの移民を受入れると極右政党、テロの台頭を招くのではないかと懸念する向きもある。余談であるが、2011年にノルウェーのブレイビク(Breivik)事件があったが、ブレイビクは、自身のマニフェストのなかで日本と韓国をもてはやしているが、これはなんともいいがたいものがある。
各国の移民政策の例として、オーストラリアの移民政策は、一世代の間に白豪主義から多民族融和型へと、少しずつ時間をかけて社会の合意をとっていく、という方法をとった。学ぶべきことも多い。

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日本の入国管理制度の特徴

日本の入国管理制度の特徴としては、日本には移民はないということになっていて、「移民政策」は不在である。労働力不足を補う単純労働者の受け入れについては、どこの国でも「単純労働者を受入れる」という国はなく、日本独自ではない。ただ、難民として来た人が単純労働者として働いていたり、国境線の長いアメリカのような国では管理しきれなくてそこで働いている人もいる。

技能研修制度の関連では、3年間研修を受けて技術を身につけて自国に帰るという本来の形で進めることはよい。知識労働者(高度人材)・留学生受入れの推進については、アジアの高齢化が始まっていて、経済格差も縮小している中で、新しい受入戦略を考えなければいけない。

難民の受入れ

日本は難民受入れが少なく、新規難民認定件数は18人(2012年)、人道的配慮による在留許可が122人(2012年)となっている。しかし難民を遠くに連れて行くのは正しいのか。追い出した政権の思うツボになるのではないか。遠い日本に受入れをして、一部の難民受入れ国に見られるように単純労働力とすることはせず、国連難民高等弁務官事務所に拠出し、現地での紛争解決を含めた支援を行うほうがよいではないだろうか。

日本における国際結婚

外国人の受入れに関する日本の制度・社会は、血統主義、二重国籍の禁止、少ない家族呼び寄せ、といった特徴がある。
結婚総数に対する国際結婚の割合は、2006年をピークに大きく減ってきており、「夫日本人・妻外国人」に顕著にみられる。これは、フィリピンの「興業」が減少、中国人女性との見合い結婚が減っていることによると考えられる。中国では「日本に来るより、自国の沿岸地域に嫁ぐほうがよい」という傾向も強くなっているのではないか。

日本が外国人を受け入れようとするなら、本格的に戦略を考えていかなければならない。日本には元々「雑種民族」という性格があり、遺伝子型を見てもマジョリティがない。グローバリゼーションが進む結果として、急激ではなく「夫外国人・妻日本人」の緩やかな増大にみられるような、多様化により日本社会の活力が出るのではないかと思う。

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上図に示すとおり、市区町村別に外国人割合は大きな偏りが見られる。

「補充移民」

「補充移民」という言葉は、2000年ころ国連で提案された。これによって人口減少を完全に食い止めることは非現実的であるが、「All or nothing」で日本では最初からオプションとして議論されなくなった、という経緯がある。数合わせではいけないが、減った人口を移民で補充するという発想は根強い。

保健人材

日本では人口減少は地域ではかなり前から進んでいたため、すでに「患者すらいない」という状況も出てきて、都市部の高齢化が今後進行することで医療供給体制の地域格差が広がる。また、若者の失業は深刻と言われるが、本当に労働力は足りないのかという議論もある。

EPA(経済連携協定):フィリピンやインドネシア、ヴェトナムの医療技術者の受入れが制度化されたが、2008年から12年までで看護師と介護福祉士の候補者合計は1562人と少ない。

 

 

保健人材の国際状況についてであるが、発展途上国ではグローバル・ヘルスの文脈において、保健システム強化、その中でも特に保健人材の充実は中心的な課題である。医師はもとより、看護師、助産師、その他医療技術者の育成、雇用をどのように確保するかは、ミレニアム開発目標達成の必要条件となっている。
先進国では、少子高齢化により、医療人材、特に介護人材は不足している。多くの途上国の医療技術者が先進国へ人口移動して医療人材が足りなくなるという問題が出てきた。WHOは「保健人材の国際雇用に関する行動規範」(2010)によって、先進国の節度ある受入れ、を求めている。すでにノルウェーでは保健人材不足国からの保健人材受入れを中止、ケニアではアフリカ受入国との共同教育制度や還流移動の促進策を打ち出している。

保健医療人材の国際交流からみた国際人口移動の意義と課題として、技能者はすぐに来るわけではないので、数合わせではなく国際的な資格のharmonization(調和)、働く場所の国際化と質の向上、高い流動性を保てる状況など国際交流、グローバル戦略が必要となる。

外国人に対する登録・社会保障制度

国連人口開発委員会決議(2013/1)で、外国人に対する教育、保健、社会サービスの充実を謳っている。
日本では国民健康保険や生活保護の外国人割合が高い、といった批判もある位、基本的に外国人の社会保障は整備されているといえる。

外国人の住民登録(2012年7月~)、年金受給資格期間を25年から10年に短縮(2012年8月~)、マイナンバー制度(2016年1月~)、社会保障協定の広がり(現在14カ国+署名済み・交渉中11カ国)というように、多くの施策が予定・実施されており、こうしたきちんとした外国人に対する社会保障の整備については国際的に発信していくべきではないかと思う。

そもそも戸籍、住民登録といった、登録制度がある日本では、外国人登録も「頑丈」。これをもとにスマートかつ適切な外国人に対する社会サービスの普及を図れば世界に誇れる制度となるのではないか。

両先生の報告の後、人口減少社会における社会減・社会増、小学校からの人権教育が必要、いわゆる「単純労働者」というのは正式には使わない言葉である、外国人に対してどこまでが合理的な不平等か、参政権について、外国人労働者としてではなく「移民」として受入れるとすれば違った形になるのでは、など、参加者たちとの活発な質疑・討論があり、明石会長は次のように結びました。

研究会の座長を務める阿藤誠・人口問題協議会代表幹事(右)と、明石康会長

研究会の座長を務める阿藤誠・人口問題協議会代表幹事(右)と、明石康会長

明石 康
鈴木さんと林さんから、大変意欲的な問題提起をいただいた。

最近出席してきたジュネーブの人権関係の国連機関や各国代表との協議で、ヨーロッパでは、EUを中心に普遍的なルールに基づいて国家政策が決められなくてはならないという基本的な立場をとっているのに対し、アジア諸国、特にインドなどでは、国家主権がまだ中心の国々とはっきり分かれていると感じた。米国はヨーロッパと同じ政策に立ちつつも、現実は無視できないので、前向きに少しずつ進んでいくならばそれを認めてもよいという、ヨーロッパとアジアの中間の立場ではないかと思う。

本日の討論でも、以上のジュネーブにおける各国の姿勢と共通のことが言えると思った。一種のプラグマティズムの中に埋没してしまうのか。いろいろな変化をしても、普遍的原則を当てはめるだけでは立ちいかない。従って妥協的で中道的、しかも前向きの線で進めるのが重要である。日本のように少子・高齢化に立ち向かう場合、何らかの形でもう少し長期的なターゲットではないまでも、ある程度の多様性を受入れて対処する柔軟性をもちながら、同時に方向性をきちんと出していくのが望ましいのではないだろうか。

文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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