一人でも多くの女性が、安心して出産にのぞめるように。
2011.7.11
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支援プロジェクト計画会議から
「施設分娩がなぜ重要なのか、地域の女性と男性にメッセージをしっかりと伝えて行く。さらに、実際に診療所に行くように人々の意識に働きかけ、女性がここで出産したいと思うような、安全な出産のための環境を整えていかなければ、状況は改善しない。」
2010年11月17日と18日の2日間、ザンビアのプロジェクト地域の母子保健関係者が集まったプロジェクト計画会議の中で、繰り返し発言されたコメントです。計画会議の参加者は、マサイティ郡保健局長、フィワレ地区診療所の助産師、母子保健推進員、地域住民の代表など、最前線で、安全な妊娠・出産を目指し、日々努力を続けている人たちです。
ジョイセフが2011年からプロジェクトを実施するコッパーベルト州マサイティ郡のフィワレ地区では、妊婦さんのうち約60%(2009年)が、不衛生な環境の中、助産師さんの立ち会いもなく自宅で出産しています。技能を持った助産師による立ち会いや施設分娩の大切さが村人の間で十分に理解されていないなど、様々な理由が背景にあります。
診療所までの距離が遠く、歩くこと以外に交通手段があまりないため、診療所に行きたくても行けないこと、また、行っても陣痛が始まるまでの期間、体を休めるスペースが診療所に十分に整備されていない。このような状況のため、結局、不衛生な環境の中、十分な知識や技能を備えていない産婆さんや周辺の人々の助けで自宅出産するしかなく、緊急ケアが必要になった時に対応が手遅れになり命を落としてしまうことになります。
そこで、ジョイセフでは、ザンビアの女性がより安心して安全な出産ができるように、訓練されたスタッフの介助による施設での分娩を推進することを目的に、2011年1月から、現地の協力NGOであるIPPFザンビアとともに、妊産婦支援プロジェクトを開始します。
プロジェクト計画会議では、施設での出産をいかに増やすことができるのかについて、意見を交わしました。現地の関係者が中心となり、妊婦さんが施設で出産しない理由とその背景の問題を検証し、改善するための活動計画を一つ一つ確認していく。このプロセスが人々のプロジェクトへの参加意識を高め、効果的なプロジェクト活動の実施へとつながります。ジョイセフは、住民の意思を活動につなげていくために、必要なアドバイスと技術支援を行います
計画会議参加者との話し合いから、妊婦さんが施設で出産しない理由として、次の3つが大きな課題として挙げられました。
・施設分娩に対する住民の意識が低い。
・施設が遠く、施設内に出産を待機する
・スペースが整備されていない。
・施設で提供されるサービスの質が低い。
これらの課題を改善するために、ジョイセフは以下の3本の柱でプロジェクトを展開していきます。
1)母子保健推進員の育成
2)マタニティハウスの建設とトライサイクル(荷台つきバイク)の活用
3)診療所でのサービスの質の向上
支援プロジェクト計画会議から
産前健診をきちんと行う事で早期にリスクを発見し、適切なケアができるようにすること。また、マタニティハウスで出産を待ち、施設分娩を行うことで、万が一の時にも緊急治療ケアができるようになり、お母さんと赤ちゃんの両方の命を守れること。このような産前健診や施設分娩の大切さを、村人たち一人ひとりに伝え働きかけていくのが、地域で選ばれた母子保健推進員です。
女性だけでなく男性も加わった母子保健推進員は、マタニティハウスとトライサイクルの利用についても、情報を伝え、必要なアレンジを行います。時には、母子保健推進員の男性が、トライサイクルを運転し、妊婦さんを迎えに行きます。
ジョイセフでは、IPPFザンビアや現地関係者と協力し、すでに村々で家族計画や母子保健に関わる情報を伝える活動を行っている住民ヘルスボランティアの中から、2011年には140人を母子保健推進員として選定・育成し、マタニティハウスの活用と施設分娩の促進に取り組んでいきます。
マタニティハウスの建設とトライサイクルの活用
出産予定日の前に、妊婦さんがやって来て待機できる場所。それが、マタニティハウスです。診療所までの遠い距離の課題と妊婦さんが陣痛が来るまで体を休めることができるスペースの整備に取り組む活動です。
妊婦さんは出産予定日の2週間前を目安にマタニティハウスに来所します。妊婦さんの世話をする夫や親せきなどの同伴者もハウス内の部屋で一緒に滞在できます。診療所に隣接した場所にあるため、妊婦さんは陣痛が来たらすぐに診療所に移され、助産師のケアを受けることができます。また、万が一、出産時や出産直後に緊急事態が生じたときにも、診療所の救急車で高次の医療施設へ搬送し、治療が受けられるようになります。
診療所までの遠い距離を歩いてくることができない、また貧しいために交通手段を利用することができない妊婦さんにマタニティハウスに来てもらうために、トライサイクルも用意します。
自動二輪車に荷台が付いたトライサイクルは、出産予定日の約2週間前に、妊婦さんを迎えに村々を訪れます。診療所での産前健診や移動クリニックで助産師が村々を訪問し産前健診を行った時に、トライサイクルで妊婦さんを迎えに行く日について調整します。
トライサイクルの燃料代やメンテナンス費用は、プロジェクトの一環で行われる地域の収入創出活動により賄います。まず、地域から選ばれた人々で構成するコミュニティサポートチームに対し、ジョイセフがヤギを寄贈します。サポートチームのメンバーがヤギを大切に育て、生まれた子ヤギがある程度大きくなったときに市場で売り、得られた現金収入を燃料代などに活用していくという仕組みです。
日本の専門家による技術指導
誰もが来たくなるような魅力的なマタニティハウスを作りたい。しかも、コストをできるだけ抑えて環境にも配慮し、地域の住民が建設に参加できる形で。この条件に応えるものとして、物資支援の輸送で利用したコンテナ(*)を活用したマタニティハウスの建設案が出来上がりました。
コンテナを使ってどんなマタニティハウスが出来上がるのかイメージがつかめない。このような現地の声に応えてくれたのが、建築家の遠藤幹子さんです。遠藤さんは、ジョイセフの「ヤギさんプロジェクト」を通して、ザンビアのHIV陽性者への自立支援活動にも取り組んでいただいています。
今回はマタニティハウスの設計と空間デザインについて現地の関係者に説明し、職人さんとの打合せを行うために、ジョイセフスタッフと一緒に現地入りし、計画会議に参加しました。
実際の建設地を視察し、どのようなマタニティハウスが望ましいか、現地の声を吸い上げ、遠藤さんが考案してくれたのが、このマタニティハウスです。
マタニティハウスは、2本の40フィートコンテナを活用します。それぞれのコンテナを4つの小部屋に分け、それぞれに妊婦さんと同伴者が宿泊できます。台所とトイレは共同です。2本平行に並べたコンテナを覆う形で大きな屋根を作り、暑いザンビアの気候でも快適に過ごせるように、窓の位置などの設計にも工夫をこらします。
2011年5月ころの完成を目指して、まもなく建設準備が始まるマタニティハウスのコンテナの最終仕上げのステージでは、遠藤さんの指導のもとに地域住民が参加し、子どもたちを含めた多くの人々に、思い思いにコンテナに絵を描いてもらう予定です。妊婦さんが安全に出産に臨むことができるように、地域のみんなの思いがこもったコンテナ。どんなコンテナができ上がるのが、今から楽しみです。
(*)ジョイセフは、豊島区をはじめ13の自治体と協力し、ザンビアなどの途上国に再生自転車を寄贈しています。また、子ども靴や救援衣料など、保健にかかわる物資も贈っています。寄贈物資はコンテナに詰められ船舶で現地まで輸送します。
マタニティハウスのできるまで
診療所でのサービスの質の向上
施設分娩を行うためには、消毒液やゴム手袋などが必要になりますが、国としての保健医療を支える基盤が十分に整っていないザンビアでは、このような備品が診療所に十分に用意されていません。そのため、出産自体は無料であっても、妊婦さんが出産に必要な備品を自ら用意しないといけない場合が少なくなく、施設での出産促進を阻む要因ともなります。そのため、ジョイセフでは、消毒液やゴム手袋などの出産に係る備品の提供も、プロジェクトの中で行っていきます。
建築家・遠藤幹子さんと office mikikoの主催で、ザンビアでHIV陽性者を支援するアートプロジェクト「ヤギさんワークショップ」を行っています。ワークショップでは、親子の参加者などが新聞紙でヤギの人形を作ります。その収益の一部は、「ヤギさんプロジェクト」として、ザンビアのHIV陽性者一人ひとりに贈るヤギのつがいの購入費に充てられます。ヤギを育てることで、HIV陽性者らとその家族たちは、ヤギのミルクを飲んだり、増えたヤギを売って生活の糧を得られるという自立支援のしくみです。
自身もHIVに感染しているグロリアさんは、現在マサイティ郡ミシキシ村で、HIVエイズ感染予防の啓発活動を行っています。特に、妊婦さんには、感染していても出産でき、赤ちゃんにうつさない方法があるということを教えます。2007年に「ヤギさんプロジェクト」を通してヤギのつがいを寄贈され、2010年には12匹まで増えました。子ヤギを売ったお金で家を建てたりなど、生活が向上しました。
ヤギさんワークショップについては下記WEBサイトをご覧ください。
http://www.officemikiko.com/yagisan/