2011.11.30 人口問題協議会・明石研究会シリーズ 「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」 5
2011.12.26
- 実施レポート
- 明石研究会
2011年11月1日に国連人口基金(UNFPA)東京事務所長に着任された佐崎淳子氏を招いて、国連人口基金の人口・リプロダクティブ・ヘルス分野の新展開についてお話を伺いました。2011年1月1日に就任したババトゥンデ・オショティメイン新事務局長のもとでの新たな戦略作り、日本の役割についての期待などが講演の主な内容でした。
発表後、ジャーナリスト・専門家・オピニオンリーダー・NGO代表など27名の参加の下に活発な議論が交わされました。
■テーマ:国連人口基金(UNFPA)の新展開と日本の役割
■発表者:佐崎 淳子(国連人口基金東京事務所長)
■進行役:阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授)
以下は概要です。
はじめに
国連人口基金は1969年に設立され、人口爆発の時代と言われた60~70年代には「急増する世界人口」への対応を中心的な課題としていた。その後、先進国の少子・高齢化問題、途上国の都市化など「多様化する人口問題」へと課題を拡げてきた。
1994年の国際人口開発会議(ICPD・ カイロ会議)をきっかけに、国連人口基金では人口に対するとらえ方がマクロからミクロの視点へと変わり、さらに人権の観点から、リプロダクティブ・ヘルス、ジェンダー分野への投資が始められた。1980年代までは「妊産婦保健(母子保健)」のために投資していたが、母親としての女性ではなく思春期から49歳までの出産可能年齢の女性をプログラムの対象とするようになった。
ご承知とおり、2011年10月31日に「人口70億人の世界」を迎えたが、2050年には93億人へとさらに増える見込みである。
◆国連人口基金の新しい戦略方針とフォーカス
国連人口基金は、オショティメイン事務局長の就任後、リプロダクティブ・ヘルスをさらに推進する方針で、1994年の国際人口開発会議を受けて2014年のICPD +20、その後のICPDについて検討中である。その他、以下の国連全体の大きな課題等への取り組みも進めていく。
・ミレニアム開発目標 MDGs(2015)・ポストMDGs(2015 +)
・リオ+ 20 (2012年 環境問題と人口)
・開発の援助効果(Aid Effectiveness)―(2005年の援助効果に関する)パリ宣言、アクラ行動計画 (2008年)
・国連改革/UN Reform(UN Women)
・厳しい外部環境(Challenging External Environment)
ODA減少、ドナー国の財政難への対処法
・国際人口開発会議の行動計画の不十分な実行と成果
また、2012~2013年にかけて、戦略方針の改定および実施計画・予算(Revision of Strategic DirectionやBusiness Plan and Budget)について、外部組織(コミュニケーションの専門家グループ、NGO諮問グループ、国連人口基金関係部局等)による査定・評価を行っている。
国連人口基金の中心目標は、MDG 5「妊産婦の健康の改善」である。具体的には、ターゲットA(1990年と比較して妊産婦死亡率を2015年までに4分の3を削減させる)と、ターゲットB(2015年までにリプロダクティブ・ヘルスへの普遍的アクセスを実現―必要とする人がサービスと情報を利用できる状態にする)を目指している。
実施の枠組みとしては、人口ダイナミクス、ジェンダーの平等、人権の面で、思春期の若者・青少年・女性を対象に、サービスと教育への投資の不足を改善していくために、各国のニーズと状況を尊重しつつプログラムを進める。
◆開発の枠組み(Development Results Framework)
国連人口基金の協力パートナーは、次のとおりであり、特に民間セクターに注目していくこととしている。
NGOs/Faith Based Organization/CSO
国連機関/UNCT
各国政府(Governments)
拠出国/機関(Donors)
民間セクター(Private Sector)
現在世界で2億1500万人の女性が、家族計画サービスを得られていないが、「Hand to Hand キャンペーン」では、さまざまな組織と連携して取り組んでいる 。
国連人口基金は、人口/リプロダクティブ・ヘルス分野のリーダー的存在として、アドボカシーをしていき、カイロ会議の行動計画とMDGsに取り組むパートナー(オピニオン・リーダー、政策提言者)を連携させていく役割を担っている。
7項目の成果
人口ダイナミクス
1)人口ダイナミクス:人口ダイナミクスおよび思春期の若者や青少年のニーズに合致した、家族計画を含むセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス、ジェンダーの平等と貧困削減を、国や部門別開発計画と戦略に反映する。
2)人口データとその分析:根拠に基づくデータと分析によって、人口ダイナミクス、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス、ジェンダーの平等に関する意思決定と政策決定をしていく。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、家族計画、妊産婦保健
3)妊産婦保健
国連事務総長がMDGsの中でも明確に打ち出している「妊産婦保健と新生児の健康イニシアティブ」を「H4+」のなかでも中心になって特に進めていく(H4:ユニセフ、世界保健機関、国連人口基金、世界銀行)。
4)家族計画
個人とカップルが生殖に関する意思決定をするにあたって、質の高い家族計画サービスの活用にアクセスできるようにする。
5)エイズ・性感染症予防
HIVと性感染症の質の高い予防のために、特に思春期の若者と青少年、およびコマーシャル・セックスワーカーのようなリスクの高い人が、サービスを受けやすくする。
ジェンダー、リプロダクティブ・ライツ、性教育
6)ジェンダーとリプロダクティブ・ライツ
法律と政策の実施をとおして、ジェンダーの平等とリプロダクティブ・ライツを向上させる。
7)若者へのリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と性教育
若者がリプロダクティブ・ヘルスサービスと性教育へのアクセスができるように改善する。
その他の課題(Cross-cutting Issues)
1) 青少年と思春期の若者の主流化
2) 人権とジェンダーの平等
3) 各国のオーナーシップ
4) 人道援助
5) 国連改革
6) 南南協力
地域ごとの重点課題
- ラテンアメリカ・カリブ海地域:優先事項―思春期の若者のリプロダクティブ・ヘルス、家族計画のアンメットニーズ、アフロディセンデント(Afro-descendents)、先住民、妊産婦死亡率の削減、南南協力、拠出金の増額、人口ダイナミクス―移住
- アフリカ:MDG 5 妊産婦死亡率の削減・緊急産科ケア
- アジア太平洋地域:MDG 5妊産婦死亡率の削減・人口ダイナミクス
- アラブ地域:青少年
人道援助/Humanitarian Assistance
- 緊急時のリプロダクティブ・ヘルスケア、緊急産科ケア、国連安全保障理事会決議1325号(女性、紛争、平和、開発)
- 緊急援助における他の国連機関との協力体制(世界食糧計画、ユニセフ、国連人道問題調整事務所)
国連カントリー・チーム(UNCT)、国連開発援助枠組み(UNDAF)、国連開発機関の合同プログラム(資金調達)、UN Women、バスケット・ファンド(パリ宣言・援助効果・保健健康と教育)、思春期の若者(国際年2010)、アフロディセンデント(2011)、開発技術協力の新しいシステム(Regionalization:TA―今までに国連人口基金によって強化された開発途上国の組織を利用)等を強化していく
◆マネージメントの枠組み
資金調達(Fund raising)
近年、ドナー国の財政難の問題が大きい。
私企業のCSR(Cooperate Social Responsibility)活動として、例えば日本では、「Hellosmile プロジェクト(子宮頚がん啓発予防)」が東京FM・サンリオ・ユニクロが連携、また「From Papa to Mama」では資生堂と連携した実績。
財団、中国・インド・ブラジル・ロシア(BRICS)、南ア共和国、韓国、南米諸国(アルゼンチン、チリ)、のほか、途上国も含めて多くの国からの拠出金の貢献を求めている。
コミュニケーション(UNFPA内部・外部)
- “Speak with one Voice” – Communicate shared a common vision
- ソーシャル・メディア
- 報道関係者 (テレビ・ラジオ・雑誌・新聞)
- グローバルな課題を国、コミュニティー、個人の課題と連携
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- 今年の「70億人のキャンペーン」成功の秘訣―「70億人の世界×70億人のキャンペーン」と「認定書」の発行によって、報道関係とのネットワークが拡がるなど大きな成果があった。50億人、60億人の時とは違う新しい試みが成功した。グローバルな課題を一人ひとりのアクションにつなげられた。
- 政治的・経済的なニュースと人口問題の連携-「週刊ダイヤモンド」の特集記事が波紋を広げた。
- 一般の国民の興味・外務省・財務省・国会議員の関心とつなげる。
- 投資―トレーニング、 専門組織(デンマーク US$1.5 million)
- 人口問題に関連する組織を政治的スキャンニングして、開発に対して、どこの組織にどのような投資をするか見極める。
マネージメント・Management:
次のような項目によって、強化している。
- フィールド中心の組織(Field Centered Organization)
- 開発途上国のプログラム中心・中核
- 結果を基にしたマネージメント(Result based management )
- プログラムの結果を重視したアドボカシー(Result Oriented Advocacy)
- 成果の説明責任・説明報告義務(Accountability for results)
- トレーニングに投資し、実績を基にしたマネージメント
- プログラムとオペレーションの単純・合理化
- 刷新的・革新的な考えを取り入れ、その結果を認識
- 幹部の説明責任と義務・任務の強化
◆日本の役割と日本への期待
国・政府に対して
国連人口基金への日本の拠出金は1997年に過去最高額の5540万米ドルで、1999年まで1位だった。 現在(2011年)は半減して8位 (2400万米ドル)である。
日本政府の補正予算は、ほとんど 緊急援助に使われているため、それに対応するには、国連人口基金東京事務所スタッフ増員や、カントリー事務所の緊急援助体制強化が必要。
先に述べたように、私企業の開発への貢献・CSR 活動の拡がりも期待している。
バスケット・ファンディングへの参加によって、日本がさらに貢献できるのではないか。金額の問題ではなく、プログラムをどうするかに関しては日本の経験を活かしていけると考える。
国際世論の形成に、より積極的に参加・貢献―人口問題、保健医療、リプロダクティブ・ヘルス、ジェンダー、ICPD+20 の分野に、政府・NGO・大学・研究所・政治家に参加してほしい。
メディアに対して
国連のグローバルな問題をもっとお茶の間に分かりやすくもっていき、関心を高める。人口問題、保健、リプロダクティブ・ヘルス、女性問題、開発援助の意味、日本との関連などがテーマとなるだろう。
東日本大震災の時、163カ国と43の国際機関からの援助(約175億円の物資寄付金)があったように、世界はつながっている。
人口を通して歴史、日本と世界の政策、地政学、市場経済(BoP市場)、気候変動・エネルギー、食糧危機、を取り上げるのはどうか。
学校での教育―小学生に、例えば「現在60歳以上の人は世界全体で8億9300万人います。それは何を意味するのですか」など、人口問題を考えるきっかけをつくってほしい。
質疑から
Q. 国連人口基金の新事務局長の下では、カイロ会議以降のリプロダクティブ・ヘルスの概念を中心とする政策から離れていく変化があったのか。
A. 18億人の若者の存在は大きく、若者に対するリプロダクティブ・ヘルスの観点からミクロの視点も重要であることに変わりない。
Q. リプロダクティブ・ヘルス/ライツについて、中絶問題は避けて通れない。カイロ会議は、まるで中絶会議のようだった」とも言われていたが、ライツについてもう少し聞きたい。
A. 国連機関は中絶を進めるアドボカシーはしないが、違法の中絶による合併症で命を落とすのを救うことに取り組んでいる。国連人口基金のプログラムは、国独自の政策を尊重する立場である。
Q. ICPD+20 の後はどのように考えているのか。
A. 国連人口基金は今、ICPD+20のために新しく担当局をつくっている。国レベルと国際レベルでの討論、そして行動計画の達成状況を調査して明確にしていく。プログラム実施に向けては、ドナーからのファンドだけでなく当事者国も資金を出す、バスケット・ファンドに加わることを検討している。
例えばニカラグアでは、家族計画とリプロダクティブ・ヘルスプログラムのために国の予算でから2007年には11%、2011年には70%を使った。バスケット・ファンドのグループメンバーになることで、オピニオン形成に有効な活動である。
©人口問題協議会明石研究会
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