人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第3回(後編)

2013.6.25

  • 実施レポート
  • 明石研究会

阿藤 誠
では次に北村先生にお願いしたい。

北村 邦夫

 

 

私は、研究者ではなく産婦人科医の立場でお話したい。最近の出来事として、野田聖子・自民党総務会長が2013年2月23日、佐賀県で、「少子化対策をするなら、年間20万人が妊娠中絶をしている問題からやっていかなければ…」と発言したことを受けて、いても立ってもいられずに「野田聖子シンパの杞憂」という手紙を用意して面会を求め、真意を聞いた。アドボカシーの基本は、攻撃ではなく友好の姿勢で臨むことによって、歯止めをかけるという役割は果たせる。読売新聞社の医療サイト「ヨミドクター」で「Dr北村の『性』の診察室」というブログを、今までに115週間続けており、ここでも野田発言を取り上げた。

さて、「深刻化する少子化問題」と言うことで、産婦人科医としてその原因を追求してみる。少子化が進行しているのが事実かと言えば、私の立場では、①結婚に対して消極的?、②妊娠の可能性が低下している?不妊カップルが増えている?、③子育て環境が悪化している?、④人工妊娠中絶が増加している?、⑤確実な避妊法が普及している?、⑥性交頻度が減少している?などの仮説を立てて分析をしている。

毎日新聞社が1950年から2000年まで25回にわたって実施してきた「全国家族計画世論調査」を引き継いだ形で、2002年から「男女の生活と意識に関する調査」という日本人の性意識と性行動などについての意識調査を2年おきに実施(第5回までは厚労省の研究費)した。2012年の第6回からは日本家族計画協会の公益目的支出計画事業のなかで継続することとして、昨年12月に結果を発表した。

日本の少子化が進行しているのは事実かということと、少子化の要因は何かについて考えてみる。

1.結婚に対して消極的?

事実、2011年の婚姻数は66万1895組、離婚数は23万5719組と、婚姻数は減ってきている。

結婚に対して消極的かに関連して、最初の人工妊娠中絶手術を受けた理由を尋ねると「相手と結婚していないので産めない」が3割を占めているのは結婚していれば産めたのかもしれないという可能性がある。母体保護法による中絶の許可条件には、「経済的余裕がない」、「身体が妊娠・出産に耐えられない」「暴力・脅迫による妊娠」という3要件があるが、国民は実に素直にそれ以外の理由を挙げてくるのは興味深い。

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婚外子の割合は、日本では2.1%と極めて低いのに比べて、フランス52.6%、スウェーデン54.7%である。おそらくこれらの国のTFRが高いのは、婚外子が認められる社会であることが影響していると思われる。仮に婚外子を認められる社会になることで、少子化問題解決の一助になるのではないか。

2.妊娠の可能性が低下している?不妊カップルが増えている?

妊娠の可能性は事実低下しており、妊娠数(出生+人工死産+自然死産+人工妊娠中絶)が減少していることがわかる。また卵巣における原始卵胞数は加齢によってどんどん減少して、40歳を過ぎると5000個を割り、妊娠は叶わないということになる。加えて、体外受精・顕微授精など生殖補助医療による妊娠率・生産率を見ても、30歳を超えるころから減少し、40歳になるとその方法をもってしても妊娠・出産はとても難しい状況になる。このような状況から、不妊治療に対する公的援助は39歳を限度にしようということが話題に上っており、物議をかもしている。生殖補助医療による出生児の占める割合は現在2%という状況にある。

3.子育て環境が悪化している?

一例を挙げれば、福島の原発の影響もあるかもしれない。

4.人工妊娠中絶が増加している?

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妊娠が、生物として一定量であるとしたら、また出生数が減っているとしたら、中絶が増えるかもしれないが、1955年に117万件だった中絶件数が、1954年の日本家族計画協会の創立を機に、減少の一途をたどり、2011年には20万2000件になった。中絶数が増えているわけではなく、出生数も中絶数も減り、さらに性感染症も減少ということになれば、性交頻度の減少(セックスレス)を話題にせざるを得ない。

5.確実な避妊法が普及している?

確実な避妊法が普及しているかと言えば、日本ではピルが1999年に承認され、新しい避妊法が登場するとかつての避妊法の製造や発売が中止にされるという不思議な国だ。日本は、男性に避妊を委ねるというきわめて特殊な国と言える。避妊法はコンドーム、腟外射精が多く、残念ながら女性が主体的に取り組める方法として勧めている経口避妊薬の使用は3.5%と非常に低い。

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確実な避妊法があるから妊娠しないのではないことは調査データからも明らかで、出生数が減っているということにはならない。

6.性交頻度が減少している?

セックスレスは、「特殊な事情が認められないにもかかわらずカップルが合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1カ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合」と定義されている(1991年、阿部輝夫氏による)。1カ月は短いという議論もあるが、1カ月なければ、その後も3カ月ないし、6カ月たってもない。

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上図が示す通り、セックスレスは2004年の31.9%から2012年の41.3%へと毎回の調査ごとに増えている。異性とのコミュニケーションを図ることに消極的である、またはセックスに対して前向きな姿勢が保てないと、セックスレス傾向が一段と高まるのは当然だ。

もっと心配なのは若い世代でもセックス離れをしていて、セックスすることに「関心がない+嫌悪している」割合は若い世代ほど多い。男性の場合、16~19歳、20~24歳で2008年から2010年で約2倍近く増えている。これでは将来のさらなるセックスレス化を招くのではないかが危惧される。若者の車、タバコ、アルコール離れも進んでおり、健康のためというより携帯電話代につぎ込んでいるとの指摘がある。

それではセックスレスからどう脱却すればよいか。仕事と生活の調和(ワークライフバランス)はもちろん必要で、企業の関係者もこの問題に目を向けていかなければならない。フランスでは時間外勤務を許さないそうだ。日本では、週の勤務時間が49時間を超えるとセックスレスが起こってくるというデータがある。

妊娠中・出産後のセックスに対する意識改革、「強迫的なセックス」から「楽しめるセックス」へ、望まない妊娠や性感染症からの解放、異性間のコミュニケーション・スキルの向上などを今後目指していこうと思っている。

さらに愛の処方箋としては、コミュニケーション・スキルを高めることが重要だ。パートナーとセックスについて話し合えることとセックスの満足度はきれいに相関している。

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上記のことは、日本家族計画協会が設立以来唱えてきている。

討論2

阿藤
では、質問、ご意見などどうぞ。

榊真理子(毎日新聞)
養子縁組の条件が整えば、生む人が増えて少子化対策のひとつの解決になるではないかということについてはどうか。

北村
過去の調査の中で産むことを支えることができれば産むかどうか聞いた調査があるが、結果はほぼ半々くらいだった。養子縁組によって出生数を増やすのは容易なことではないという気がする。婚外子のことは重要なテーマと思っている。戸籍法の改正など、生まれてくる子どもが経済的社会的に平等に扱われるようにできれば、出生率を上げる原動力になるかもしれないという気持ちは持っている。また、不妊の人でも「自分の腹を痛めて産む」ことにこだわりがあるようで、養子に結び付かないことが多い。

樋口
血縁信仰は強いと思う。もうひとつ、「子どもの権利条約」を批准していながら日本社会が嫡出子と非嫡出子をいまだに法的に変えていないことを遺憾に思っているが、相続を含めすべての差別がないようにするべきだと考えている。20年以上前、企業の幹部や労働組合に「未婚の女性から育児休業申請があれば、それを認めるか」と聞いた時期があったが、聞かれたほうは絶句して全く考えていなかった。幸せなカップルが妊娠するのと同じように、シングルマザーでも企業や制度がサポートして経済的不安がなく妊娠・出産できるのでなければ少子化対策にはならない。

明石
婚外子の問題について、フランスやスウェーデンでは当初婚外子であっても、生まれた後でカップルが結婚するケースが多いとも聞いた。北欧や西ヨーロッパの婚外子の実態を知ることも必要ではないか。
もうひとつ、カップル文化が成立すると出生率上昇に結び付くということに、佐藤さんと北村さんのお二人が違うアプローチからでも一致しているのは興味深かった。

北村
シングルマザーと婚外子については、混同しないように注意深く扱わなければならない。婚外子は、結婚という制度によらずに持っている子どもを指す。

阿藤
北欧や英語圏、フランス語圏では、同棲で子どもを産む人が増えていて、最初の子どもは同棲で産み、第2子は結婚してから産む場合が多いので、毎年の婚外子割合が50%に近くなる。最終的には平均で子どもを2人産む。結婚すれば、子どものステータスは変わる。

北村
デズモンド・モリスというイギリスの行動科学者の「触れ合いの12段階」というのがあるが、「目から体」、「目から目」から始めて、「声から声」と順を追って12番目のセックスに至るまでのプロセスに意味がある。性教育の場でも、異性との人間関係を築いていく過程で、結果としてセックスが起こる、そのための条件として相手のことを認められるか、避妊や性感染症を知っているか、大人でも難しいけどね、と話す。セックスレスのカップルも、これらの段階を今一度たどってみることが必要と思う。

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佐藤
日本では雑誌・ビデオやインターネットなどでポルノが日常的にあふれていて、生身の触れ合いとセックスが減っているのではないか。とはいえ、性と生殖の問題はセンシティブなことがらであり、国や政治家がそれについて言ったりするのは、いささか問題である。

明石

 

 

エロスについてあまりにもわかりすぎるのは逆効果で、本来のセックスはお互いのミステリーな感覚も必要ではないか。カップルのコミュニケーションがよすぎるからセックスをしない現象が起こることはないのか。モリスの12段階を上るプロセスのスリルが階段を上らせるわけで、頂点まで登りきったらこれ以上にする気がなくなるのではないか。人生の機微とセックスの問題がどこかでつながるように思う。

北村
人間には60兆個の細胞があり、パートナーの60兆個の細胞に触れ合うのは、生涯をかけてもできない。セックスに至った後は、60兆の細胞との微妙な関わり方のなかで、新しい発見が起こってくるというメッセージを伝えたい。

阿藤

 

 

議論は尽きないが、愛の処方箋といった話題も出てくるなど、今日のトピックに沿って大変盛り上がった。性の問題は、日本社会の根底にある文化とつながっているため、対応は容易でないが、少子化問題の理解には欠かせない。今日の研究会の議論も最終的なまとめに活かしていければと思う。

文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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