人口問題協議会・明石研究会新シリーズ 「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第5回(前編)
2013.10.17
- 実施レポート
- 明石研究会
人口問題協議会・明石研究会では、2013年の共通テーマを「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」に基づき、関連分野の専門家・オピニオンリーダーの皆さまから所見を伺い、後日「提言」としてまとめていきたいと考えています。
1月から開始している本研究会の第5回目として「日本の女性の地位向上―私の提言」のセッションテーマのもと、2013年9月20日に関連分野の専門家・オピニオンリーダーの皆さまと共に、議論を深めました。
■ テーマ:日本の女性の地位向上-私の提言:男女共同参画社会の実現を目指して
■ 講 師:内海房子(独立行政法人国立女性教育会館 理事長)
■ 座 長:阿藤 誠(人口問題協議会代表幹事、国立社会保障・人口問題研究所名誉所長)
発言の概要は次のとおりです。
阿藤 誠
本日の研究会には2011年度から国立女性教育会館理事長の内海房子さんをお招きした。内海さんは日本電気株式会社に入社以来要職を務められ、後にNECラーニング株式会社で代表取締役社長として役員を務め、民間企業でご自身が男女共同参画を実践してこられた。現在はその経験の上に、会館の理事長として男女共同参画の実現を目指して活動されている。では、どうぞお願いします。
内海 房子
私は40年間企業で仕事をした後、2年前に国立女性教育会館(NWEC)理事長に就任したが、民間企業出身者は初めてとのことで珍しい経歴と言われる。はじめに、NWECについて簡単に紹介してから、日本の男女共同参画の問題についてお話ししたい。
1. 国立女性教育会館(NWEC:National Women’s Education Center)について
1977年に文部省の附属機関として設立され、2001年に独立行政法人化した、わが国唯一の女性教育のナショナルセンターである。当初は、女性の地位向上を図り、女性の力が発揮できる社会づくりを目的に教育に重心をおいていたが、1999年に施行された男女共同参画社会基本法の下に、「女性の社会参加」から「男女共同参画」へという目標を掲げて事業を実施している。男女共同参画社会とは、男性も女性も共に責任を担い、喜びも分かち合える社会であり、このような社会づくりを推進する機関としての役割をもっている。ミッションは次の2つである。
- 女性教育指導者に対する研修、女性教育に関する専門的な調査・研究等の実施
- 女性教育の振興を図り、もって男女共同参画社会の形成促進
2. NWECの機能・役割
現在は、第3次中期目標(平成23~27年度)の中で、以下のことを実施している。
- 男女共同参画・女性教育に関する基幹的指導者の資質・能力向上
- 喫緊の課題に関する学習プログラム等の開発・普及
- 調査研究とその成果や資料・情報の提供
- 国際貢献・連携協力の推進
- 国内連携機関・団体等との連携協力の推進
- 利用者への男女共同参画に関する理解の促進
研修、交流、情報、調査研究という4つの機能が有機的に連携して中期目標を遂行している。
NWECが実施する研修・交流事業として、主に下記のような事業を実施している。
- 女性関連施設・地方公共団体・団体リーダーのための男女共同参画推進研修
- 男女共同参画のための研究と実践の交流推進フォーラム(NWECフォーラム)
- 女子中高生夏の学校
(理系の進路選択についてのプログラムなども含む) - 大学等における男女共同参画推進セミナー
(国際競争力を維持・強化し、質の高い研究を進めていくためには、男女を問わず多様な研究者の育成が不可欠。また、日本の学問・研究者の男女共同参画は他国に比し、極端に遅れている。)
NWECは、これまで男女共同参画を進めてきた地域、大学に加え、2012年度から企業の女性の活躍の推進を手がけている。
その他、男女共同参画に関する調査研究、その成果や資料情報の提供については、①男女共同参画に関する統計、女性の貧困状況、海外の女性に関する調査研究、②女性教育情報センターの運営、③女性アーカイブの構築の充実も図っている(女性アーカイブセンターは2008年に開設)。
さらにもうひとつの柱である国際貢献・国際連携事業として、①国際シンポジウム、②アジア太平洋地域の女性リーダー研修、③海外の機関との連携も行っている。
詳しくは、http://www.nwec.jp/ をご覧ください。
3. 日本の男女共同参画はどのくらい進んでいるか
ジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index)について、2012年の世界経済フォーラムの調査結果をみると、日本は135カ国中101位と三桁になったこともあり(前回は98位)、かなり報道された。さらに、分野別では経済分野と政治分野の順位がかなり低い。
ジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index 2012)
【経済分野】 102位
【教育分野】 81位
【保健分野】 34位
【政治分野】 110位
経済分野を細かく見ると次のとおりである。
労働力率 78位
同じ仕事の賃金の同等性 97位
所得の推計値 80位
管理職に占める比率 106位
専門職に占める比率 73位
管理職に占める女性の割合は増加傾向にはあるが、他の国々と比較すると大きく出遅れている。国の目標として、「2020年までに女性の管理職を30%に」を掲げているが、広く認識されているとは言い難い。
各分野における「指導的地位」に女性が占める割合については、次の図をご覧いただきたい。30%を超えているのは、国の審議会等委員と、薬剤師だけである。
管理職における女性比率をみると、次の図のとおり国際的に比較して日本の女性の管理職はかなり少ない。韓国も少ないが、日本とは違ってこれから伸びていく傾向にある。就業者はほぼ他の国々と同じであるので、日本の女性は社会に「参加」はしているが「参画」はしていないという実態をよく現わしている。
4. なぜ、日本の男女共同参画は進まないのか
ワークライフバランスの観点で共働きの夫婦について統計をみると、収入労働時間(働いている時間)では、夫は末子の年齢にかかわりなく8時間半から9時間であり、妻は0歳の子どもがある場合は少ない。共働きの妻の家事労働時間は、専業主婦の時間とほとんど変わらないが、夫の家事労働時間は0歳の子どもがいる場合に多少増えている程度である。共働きの妻が、仕事も家事も育児もすべてしているのが現状で大変苦労している。これでは「参加型」にならざるを得ず、「参画型」にはなれない。
6歳未満児のいる夫の家事・育児関連時間をみても、日本の夫は1時間で、米国、英国、ドイツ、スウェーデン等の3時間前後に比べて非常に少ない。
性別役割分担意識について、2012年の調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対して、「賛成」と「どちらかといえば賛成」を合わせて51.6%と、半数を超えた。これまでの調査では、年々賛成派が減る傾向にあったのが、今回の調査では一転して賛成派が増えており、いろいろ反響があった。
一方、図4では、「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」という考えに賛成する割合は調査のたびに増えており、この2つの意識調査の違いにどう説明がつくのか不思議に思っていた。これに対して、前回までの調査と2012年の調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という質問項目を独立させたことで、回答者に心理的抵抗が働いたのではないかという社会学者の指摘がある。調査方法が違うということは、変化があった要因のひとつかと思う。
いずれにしても、性別役割分担にこれほど賛成派が多いのは、日本しかないのではないか。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方についての国際比較を次の図5に示す。
5. 男女共同参画社会の実現を目指して
女性活用と業績との関係をみると、女性活用に取り組む企業ほど実績がよい傾向がみられることがデータで示されている。女性を活用すると実績が上がるのか、実績が上がったから女性を活用するようになったのか因果関係はわからないが、実態は図のとおりとなっている。
日本再生のための政策
OECD(経済協力開発機構)から男女格差の是正について「経済的な機会と成果における根強い男女格差を減らすことは、公平、平等という観点のみならず、日本の長期的な成長を促進する上でも不可欠である。特に女性の労働参加が増加すれば、高齢化による影響を緩和する効果も期待できる。」という提言(2012年4月)が出された。
また、IMF(国際通貨基金)「雇用と成長に関する報告書」(2013年4月)では、日本で女性の労働参加率が低いことを指摘し、日本社会の高齢化に対応するため雇用対策や規制緩和で女性の就業を拡大すべきだと提言している。報告書は、高齢化と労働人口の減少によって日本の経済成長や財政の安定が妨げられると警告。2010年現在で63%にとどまっている女性の労働参加率を、先進7カ国(G7)の平均を上回る70%まで引き上げることで、潜在成長率が0.25ポイント上昇すると試算された。
2012年10月に、「女性が日本を救う」というIMF専務理事クリスティーナ・ラガルド氏の発言があり、以下の3点が強調された。
- 女性の労働力率を上げることは、世界のためだけではなく、日本のためになる
- 保育所の不足と家に留まるようにという社会的プレッシャーによって出産後多くの女性が仕事を辞めている
- 女性も仕事が続けられるようにするためのよりよい保育施設、支援、受け入れる文化
日本政府の動向
若者・女性活躍推進フォーラム(2013年2月~)では、日本経済再生のためには産業競争力強化と、それを支える雇用や人材等に関する対応強化を車の両輪として進めることが欠かせず、特に若年者や女性の雇用問題等に対してしっかりとした処方箋を提示していくことが喫緊の課題であるとしている。
日本政府も女性の活用が不可欠だという姿勢をもっており、2013年4月26日「男女共同参画会議」で、安倍晋三首相は「女性の活躍促進は我が国の経済の再生や成長に不可欠」と述べ、自由民主党女性活力特別委員会を設置している。
まとめ-男女共同参画社会の実現を目指して
男女共同参画社会の実現のためには、家庭生活や地域活動への男性の参加や政策決定の場への女性の進出などの相互乗り入れが必要である。現在の日本では、政策決定の場にいる役員の99%は男性である。ここにもっと女性の進出が必要。
女性が仕事、家庭、地域のすべてを担うことにならないようにするには、男性のワークライフバランスが不可欠である。
- ワークライフバランスの推進
- 私自身は40年間の民間企業での仕事のなかで、自分の人生なのだから自分で守らなくてはと思って、ワークとライフのバランスを何とかとってきたが、そのバランスがとれず、途中で仕事を辞めていった女性もたくさんいた。男性のなかには毎日終電で帰るように決めている人がいて、これで人生が楽しいのかと思ったこともある。仕事以外のことをすることによって仕事も人生も充実するだろう。男性こそワークライフバランスが必要ではないかと思っている。
- 女性活用には、中間管理職が鍵を握る
- 私はNECラーニングで会社の経営を6年間務めたが、女性を登用したいと努力する中で、一番ネックになったのは社長と女性社員の間にいる中間管理職だった。中間管理職が女性社員に管理職登用への推薦の話をもっていく際、女性が「管理職になりたくない」と躊躇しても、その理由や背景を聞いていない。迷っている女性たちの背中を押してあげてほしいというのが切なる願いである。
- 女性たちは、自分の力に自信を持って未知の世界に挑戦しよう!
- 遠慮や謙虚さからなのかもしれないが、女性たちにも問題がある。フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグさんがいう、育ってきた環境によって作られた、女性の心のどこかにある「内なる障壁」を壊さないことには男女共同参画社会にはなれない。女性たちが上に行かなければ社会を変えることができない。
<男性たちへの言葉>
人材育成に必要な3つの‘き’
・きめつけない
・期待して
・鍛える
<女性たちへの言葉>
リーダーに必要な3つの‘C’
・運命の出会いを活かし(Chance)
・変化を恐れず (Change)
・果敢に挑戦 (Challenge)
チャンスを活かすためには、日頃から自分が何をしたいか、どんなことにやりがいを感じるか、自分の生涯に対する計画をたてて、そのために努力を欠かさないことが必要である。変化を乗り越えるには自分が変化しないといけないこともある。私は、技術者から人事の仕事に移るという青天のへきれきのような変化を経験したが、自分自身も変化しないと環境の変化を受け入れられないと悟った。