WHO モニール・イスラム氏インタビュー(後編)

2014.2.27

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WHO モニール・イスラム氏から日本の皆さまへメッセージ

WHO モニール・イスラム氏インタビュー(後編)

話し手:モニール・イスラム氏(WHO: 世界保健機関)
聴き手:高橋秀行(ジョイセフ業務執行理事)

高橋
次に、ジョイセフについてご意見を伺いたいと思います。ジョイセフは、ODA案件については、外務省やJICAと協力関係にあります。国際家族計画連盟(International Planned Parenthood Federation、IPPF)、国連人口基金(UNFPA)や他の国際機関とも連携しています。また、個人の寄附者や企業からの支援も受けています。労働組合とも連携しています。組織内部にいる私たちがジョイセフの活動を客観的に評価することは難しいです。モニール先生は、国際的な観点からジョイセフの活動をどのようにご覧になりますか。国際NGOや国際機関との比較も含め、ご意見を伺いたいと思います。
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モニール氏
私は、過去10年から12年にわたりジョイセフの活動や成長を見てきました。ジョイセフには、長い歴史、豊富な経験、そして献身的な姿勢があります。ジョイセフは、非常に強固な基盤と歴史の上に築かれており、国際保健分野で多大な貢献を果たしています。その献身的な活動は、時として開発途上国の非常な遠隔地のコミュニティへの支援にまで及びます。しかし、ジョイセフの置かれている立場も複雑化しつつあります。活動を継続するためには、ジョイセフ自体にも投資が必要です。ジョイセフには投資する価値が十分あります。ジョイセフ役職員は非常に献身的で、何が必要かをよく理解しています。また、机上の空論を唱えるのではなく、地に足の着いた現実的な人々です。現地の状況を見極め、例えばタンザニアに日本から何かを輸出したり日本の考え方を押し付けたりするのではなく、現地のニーズに応えるためには現地の観点から何ができるのかを考える人々です。日本の成功体験を伝える場合でも、タンザニア人の視点を通して、現地に最も適した形で伝えられるよう努力するでしょう。これが私のジョイセフに対する評価です。

国際NGOの多くは、それぞれの計画をもっています。詳細な計画もあれば、別の計画と類似したものもあり、時にそれらが混乱することもあります。それら他団体との比較においても、ジョイセフの活動は高く評価でき、投資に値する公益法人だと言えます。そして、その活動の一部になれることを誇りに思うからこそ、私は毎年ジョイセフを訪問しているのです。

高橋
モニール先生の継続的なご協力に感謝しています。ジョイセフについてのご指摘で、私たち自身にとっての気付きがいくつもありました。次に、2015年に達成期限が来るMDGsについて質問させていただきたいと思います。現在、国際機関が国連システムのもとでMDGsやユニバーサル・ヘルス・カバレッジについて協議中だと理解しています。しかし、2015年以降のプログラムに、私たちの活動分野である妊産婦・新生児保健がどのように組み込まれるかはいまだ不明です。2015年以降、MDGsにおける目標4と5の重要性が相対的に低下するのではないかと懸念する人々もいる中、引き続きこの分野を促進・強化し続けるためには何が必要だとお考えですか。
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モニール氏
現在、MDGsの議論が国連の場で行われていることは確かですが、意思決定を下すのは加盟国であり、国連ではありません。従って、MDGsは国連の目標ではなく、加盟国の目標であることを明確にしておきたいと思います。2015年以降のMDGsについては、現在、加盟国間で首脳レベルを巻き込んだ議論が進められており、最終的な方向性が決定されるでしょう。国連は各国の目標達成に加えて、これら議論を円滑化し促進するため、加盟国を支援しています。

開発途上国の多くでは、目標4と5が達成されておらず、目標6についても2015年までに達成されない可能性が高いでしょう。そのため、あるグループは、例えば10年間の猶予期間を設定するなど、単純に期限を延長してはどうかと考えています。これは、MDGsの8つの目標は現行のままとし、期限だけを変更しようという意見です。また、「MDGsの8つの目標は、気候変動など重要な項目をカバーしていないので、2015年以降は“MDGsプラス”としてはどうか」と主張するグループもいます。一方で、「MDGsはやめて、例えば貧困撲滅のように開発の課題を最も的確に表現できる、まったく別の目標を設定してはどうか」と主張する人々もいます。貧困撲滅を掲げれば、そこにはあらゆる目標が内包されます。例えば、妊産婦の健康が確保されなければ、貧困も解決されないでしょう。保健教育、幼児の健康、気候変動なども、すべて貧困と関連しているのです。また、平均寿命を目標にしてはどうかとの意見もあります。平均寿命の伸延には、教育、健康、雇用、資金へのアクセスなどが必要となるからです。

一方、保健分野では、「目標4、5、6についての議論をやめるのなら、代わりに“ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ”を導入してはどうか」という意見があります。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは、すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、負担可能な費用で享受できる状態のことです。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを開発目標として掲げる場合、妊産婦保健に携わる私たちは、各国にとってユニバーサル・ヘルス・カバレッジが何を意味するかを考える必要があります。なぜならば、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジには3つの側面があるからです。1つ目は、誰を対象とするか。2つ目は、どのようなサービスを実施するか。そして3つ目は、資金手当ての手段をどのように構築するかです。私たちは、最適な保健医療サービス・パッケージとは何かを議論する必要があります。

例えば、バングラデシュですべての国民にすべてのサービスを提供することは、既存の予算では不可能です。おそらくバングラデシュは、「母子保健、予防接種、結核・マラリア、糖尿病、低血圧症に関するサービスを提供しよう」と言うでしょう。それらをサービス・パッケージにしたとして、次に全体の80-90%の国民を対象にサービスを提供するか、つまり、20%を占める富裕層はすでに保健医療へのアクセスがあり、貧困層である80%はアクセスがないことに注目するかどうかを決定します。そして最後に、その資金をどのように手当てするかを検討することになります。多くの人々は、多大な資金が必要となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの導入を恐れ、妊産婦保健・幼児保健にも目を向けないようになるかもしれません。しかし私は、心配する必要はないと考えています。重要なのは、サービス・パッケージの中身について各国と議論することです。ジョイセフを含む市民社会団体は、各国に対し、「母子保健をユニバーサル・ヘルス・カバレッジの対象とし、政府が資金を手当てし、人口の80-90%、特に貧困層や社会的に疎外された人々をまずは対象とすべきだ」と呼びかけていただきたいと思います。

私は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジがまたとない機会を提供してくれると考えています。私たちが、「すべての人々に健康を」を目標として、プライマリー・ヘルスケアについての議論を行っていた際、そこにはビジョンはありました。しかし、費用や具体的なサービスの中身について、十分な検討がなされなかったのです。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは、プライマリー・ヘルスケアのアプローチに費用の分析と資金手当ての検討を追加したものです。従って私は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを恐れるどころか、喜んで議論したいと考えています。むしろ私たちは、政治家や市民社会とともに、MDGsで達成されなかった課題がユニバーサル・ヘルス・カバレッジで確実に含まれるよう注視する必要があります。それは容易ではないでしょうが、ドナーなど多くの人々の賛同を得られるでしょう。例えば、バングラデシュが、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに整形手術を
含めよう」と言ったら、多くの人々が反対するでしょう。しかし、「予防接種や妊産婦保健・幼児保健を含めたい」と言った場合、多くのドナーが同意し、資金援助を行ってくれるでしょう。私たちの責任はますます重くなってきていると言えます。各国が、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの枠組みの中で、より広範な全体像を作り上げる作業を、今こそ支援しなければならないのです。

高橋
大変励みになるコメントをいただき、ありがとうございます。本日は、母子保健に関する様々な課題について、モニール先生から貴重なお話をうかがうことができ、大変に光栄です。

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