ザンビアの農村の人々-村を変えるのは自分たちだ
2015.6.17
- レポート
- ザンビア
ローカル運営委員会のメンバーと保健センターのスタッフ(筆者前列右)
ザンビアでは、2015年1月に新大統領が選ばれました。アフリカで最も民主的な選挙のひとつであったといわれています。国民は指導者が変わると自分たちの暮らしがよくなるのではないか。自分たちの生活がきっと変わると思うものです。しかし、現実はそう簡単ではないようです。新しい大統領が選ばれたのと並行して、2代前の大統領の汚職が暴露され目下追及されています。それを見る国民の感慨は、どのようなものでしょうか。政治は一般の人々の生活、健康そして福祉と直結し、決して離れてはならないと強く思います。
そんなことを考えながら、私はサバンナの埃を立ち上げるガタガタ道を4輪駆動車で政府・NGOのそれぞれの代表とともに村に向かって走っています。約2時間走り続けたでしょうか。ブッシュの中に農村保健所がありました。周りは、広大な人っ子一人いないサバンナが広がります。この保健所だけが、村の人々を全員集めたのではないかと思われるほど、母親や赤ちゃんであふれていました。
農村保健所には、数名の準保健従事者(助産師・看護師など)が常駐しており、保健全般、及び母子保健サービスを提供しています。村人は、この小さな保健所へも何時間も歩いてやってくるのです。しかし、そこで必ずしも適切なサービスができるわけではありません。予防接種、母親や乳幼児への定期的な健診、簡単な治療等も行ないます。全て無料であったとしても、限られた医療サービスしか受けられないのが現実です。それでも周囲何十キロにわたってこの保健所しか医療施設はないのです。
そのような背景のもと、2014年12月に、ジョイセフは、ザンビア政府(GO)/ザンビア家族計画協会)PPAZ/NGO)との連携協力で、外務省の「日本NGO連携無償資金協力」を得て3カ年事業で「妊産婦・新生児保健ワンストップ・サービス・プロジェクト」を開始しました。ワンストップ・サービスとは、一か所に拠点をおき、地域の健康づくりのための、包括的な妊産婦・新生児保健サービスや情報の提供を行うことのできる拠点づくりを目指しています。ザンビア北部、首都のルサカから約400キロの位置にあるコッパーベルト州のマサイティ郡とムポングウェ郡の2つの郡を対象に、母子保健棟(分娩施設)、マタニティハウス(出産待機ハウス)、ユースセンター、助産師の住居を建設し、合わせて保健スタッフや母子保健推進員(Safe Motherhood Action Group:SMAG)などの研修を実施し、包括的な母子保健サービスと情報を提供することを目的としています。
両郡のそれぞれ5地区(村)が選ばれており、それらの農村保健所へは、第2の都市ンドラより約60~70km、車で1~2時間程度離れています。私たちのフィールド事務所もンドラに置かれています。
今日は、そのワンストップ・サービスの村のプロジェクト運営委員会が保健所で開かれ、それに参加することが目的です。各村の代表(あらゆる分野の代表、たとえば村の行政、学校、女性、若者の代表がメンバーとなっています。20代から60代の10人が母子保健の推進という同じ目的をもって、「村を変えるのは自分たちだ」と言う気概を持って真剣に話し合っています。また、村には母子保健ボランティア(SMAG)が20人ずつ選任され、日本から送られた自転車に乗って、村の人々と保健所の「橋渡し」や、保健教育を行っているのです。シンプルなアプローチに見えるかもしれませんが、この村では、医療や保健サービスそして情報が住民に直接届くという、今までになかった画期的な変化が起こっているのです。
自宅で出産していた母親たちが、保健所の近くに併設されたマタニティハウスで、予定日の少し前から出産の日を待ち、その間身体を休め、助産師による安全な分娩に臨むことができるよう建設の準備が進んでいます。若者たちは、若いお母さんやこれからの世代の仲間教育を展開してライフサイクルを通した保健意識や思春期保健サービスの向上を目指しています。村人たちの多くが健康についての高い意識を持つようになってきています。このプロジェクトは、まだ始まったばかりですが、多くの成果が各村から続々と報告されています。
また、このプロジェクト地区では以前からジョイセフが日本の多くの支援者・支援企業とともに継続的・並行的に事業を実施してきており、今回のこのプロジェクトがその集大成的な妊産婦・新生児保健のワンストップ・サービスのモデルづくりとなることが期待されています。
今後も引き続き、熱く語る村人たちとともに、母親と子どもの命や健康を守る仕事をさらに進めていきたいと思いながら、また埃まみれの道を戻りました。今度はその埃さえも大きな夕日に乱反射し美しく見えたのはなぜでしょうか。
(報告者:鈴木良一、2015年6月、ルサカにて)