2014年活動報告③:草の根レベルの啓発活動
2015.8.18
- ガーナ
- 実施レポート
映画上映会の様子
このプロジェクトでは、草の根レベルで様々な形の啓発活動を行いました。
プロジェクトの対象地域では、古くから伝わる情報や知識が人々の間で根強く残っていることが多々あります。ときには健康に関する迷信や誤解が医療機関への受診率の低さを招き、住民の保健サービスの利用を阻害する要因のひとつになっていることもあります。
特にリプロダクティブ・ヘルスについては、迷信や誤解に加え、男性の理解や支援の不足が大きな影響をもたらしています。男性主導の社会では、女性は厳しい状況に置かれています。例えば、女性は妊娠や出産について自分で決められないことが多く、配偶者の許可がなくては医療機関を受診することができないことがあります。妊娠中や出産時に異常があっても対応が遅れてしまったり、本人が施設分娩を望んでも自宅での分娩をせざるを得なかったりすることもあります。また、女性の意見が尊重されにくく、女性の健康に対して家庭内で優先順位が低いことも多いです。そのため、間隔の狭い妊娠や多すぎる妊娠回数、若年妊娠や高齢妊娠、望まない妊娠といった女性の身体に大きな負担となるようなリスクが高くなっています。
住民の、特にリプロダクティブ・ヘルスや女性の健康に関する正しい情報や知識を丁寧にわかりやすく提供していくことが大切です。そして、男性に自分の配偶者や子どもへの理解と支援の大切さを認識してもらうこともとても重要になります。
そのためこのプロジェクトでは、住民の自然な参加を促し、より多くの住民にメッセージを届けられるよう、草の根レベルで様々な形の啓発活動を行いました。
- 目的
- 安全な妊娠・出産に焦点を当てた、質のよいリプロダクティブ・ヘルス(RH)サービスの提供と、住民に対する草の根の啓発活動を通した、対象地域の妊産婦の健康の改善
- 実施地域
- イースタン州コウ・イースト郡ヴォルタ川地区
- 実施期間
- 2011年11月~2014年12月
- 支援機関
- 外務省(日本NGO連携無償資金協力事業)
- 現地協力団体
- ガーナ家族計画協会(IPPFメンバー団体)・ガーナ国家保健サービス
地域保健ボランティアによる家庭訪問
2014年には、地域保健ボランティアが1840回の家庭訪問を行いました。
家庭訪問では、個別相談やグループ相談を通して、妊娠・出産に関する情報と家族計画に関する情報が提供されました。その際に、2年目に作成した啓発用の教材も活用されました。イラストや写真が多く用いられているフリップチャート等を使うことによって、見る人によりわかりやすく伝えられるようにしました。また、具体的な相談を受けた際、専門的な指導や治療が必要とされるケースが見つかることもあります。その時には、地域保健ボランティアがリプロダクティブ・ヘルス(RH)センターや診療所に照会したり、受診を不安に感じる人には診療所まで付き添うこともあります。
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地域保健ボランティアによる家庭訪問の様子:フリップチャートを使ってわかりやすく説明します
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週に2回開かれる市にはたくさんの人が集まり、そこでも啓発活動が行われます
映画上映会
プロジェクト地区内6カ所で、家族計画や妊産婦の健康向上に関する映画上映会を行いました。上映後には家族計画を含む健康に関する講話や質疑応答で、理解を深めるようにしました。
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上映後には住民から質問を受け付けたり、意見交換を行いました
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学校でも上映会を行い、生徒たちは真剣に映画を観ていました
青空演劇
青空演劇とは、各コミュニティの地方劇団(地方巡業劇団)によって演じられる舞台劇のことです。住民にとって娯楽のひとつになっています。2年目に製作した地域の住民が直面する3つのリプロダクティブ・ヘルスの課題(①距離が遠い、交通手段が少ないなど保健施設へのアクセスが困難、②家族計画に関する迷信や誤解、③配偶者からの協力の欠如や不足)を扱った演劇を上演し、住民は楽しみながら正しい情報や知識、女性への支援の大切さを学びました。
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2年目に派遣されたジョイセフスタッフから指導を受けた地方劇団による青空演劇での熱演の様子
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劇では、太鼓などの楽器も使われます
コミュニティラジオおよびFMラジオ
ラジオは住民にとって娯楽のひとつであると同時に重要な情報源となっています。ローカルFMラジオやコミュニティラジオ(町内放送)を通して、青空演劇と同様の3つのリプロダクティブ・ヘルスの課題に関するラジオドラマを放送したり、妊産婦の健康向上に関する番組を放送したりしました。その際、電話相談や参加型意見交換の場も設け、保健スタッフがリスナーからの質問に答えられるようにしました。また、放送直後に各地域で地域保健ボランティアが住民の疑問や相談に答える場や住民同士が意見交換をする場を設け、放送された内容をより深く理解するための工夫もしました。
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ローカルFMラジオの放送:放送や意見交換のために保健スタッフ(右端の女性)も参加しています
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コミュニティラジオ(町内放送)のスピーカー
保健スタッフによる巡回診療
保健施設から遠い地域に住む住民に対し、協力機関である郡保健局と連携して、RHセンターと診療所の保健スタッフが巡回診療を実施しました。通常の診療に加え、母子健診や乳幼児健診、予防接種や栄養相談なども行われました。
この巡回診療によって、施設まで来られない人々に対しても保健サービスを提供することができます。地域保健ボランティアによる家庭訪問や映画上映会などの啓発活動と合わせて実施することで、より多くの住民に受診してもらえるようになりました。
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保健スタッフによる巡回診療の様子
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母子健診も行われます
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子どもたちへの予防接種も重要な診療活動のひとつです
このように、草の根レベルで様々な啓発活動を実施しました。地道な活動が実を結び、施設を利用する人が増え、家族計画や妊娠・出産についての相談も増えました。また、RHセンターや診療所、地域保健ボランティアが一緒に活動する中で、お互いに連携し合う体制を固め、緊急時にも円滑に患者を照会できるようになりました。そして何より、住民が正しい知識や情報を持ち、自分達のリプロダクティブ・ヘルスについて考えられるようになってきたことが、この啓発活動の大きな成果となりました。