スラムの住民の健康を守る(上) ― ナイロビ・キベラの若者たち
2016.9.21
- 実施レポート
2016年9月上旬、国際家族計画連盟(IPPF)のケニア加盟協会(IPPFケニア)の施設を、ジョイセフ職員が訪ねました。IPPFケニアは、現地ではFamily Health Options Kenya (FHOK)の名で広く知られています。本部の西部には、アフリカで2番目に大きいスラム「キベラスラム」が広がります。IPPFケニアには、国内に14のクリニックがありますが、キベラでもクリニックを運営し、20代~30代の7人のスタッフと、主に20代のボランティアが活発に活動しています。
昼下がり、下校中の子どもでにぎわうキベラの一角
ジョイセフが以前、支援物資を入れて送るのに使ったコンテナを活用してつくられたキベラのクリニックには、老若男女多くの人が訪れていました。1日に10~80人が訪れます。クリニックには医師、看護婦、検査技師が常駐し、子どもの栄養、避妊などの家族計画、衛生など、無料でカウンセリングが受けられます。毎週木曜は、妊産婦と乳幼児の受診啓発キャンペーンをしています。薬は原則有料ですが、安価なので、高額な医療費を払えない住民が多く訪れます。
ただし資金不足により、体重計はあっても身長計がないこと、また、取り扱う薬が限られているため別の薬局に行く必要があることもあります。また、クリニック内は清潔にしても、住宅が密集しているためネズミが発生するなど課題も多くあります。患者も、生活費を工面するため、処方された薬を転売してしまうことがあるそうです。
ジョイセフが支援物資を入れて送ったコンテナを活用したクリニック
このクリニックでスタッフやボランティアとして活躍しているほとんどは20~30代です。栄養士としてインターンをしている大学生もいます。キベラは若者が多く、望まない妊娠やレイプ被害が深刻なため、治療のほか、話しやすい同じ年代の若者が相談に応じ、警察への照会もしています。また、学校を訪問したり、スポーツ大会を開いたりして、IPPFが取り組むセクシュアル・リプロダクティブヘルス/ライツ(SRHR、性と生殖に関する健康と権利)の問題を考え、性交渉をする際は安全にするよう働きかけをしています。
コンドームの使用法をどう若者に説明するか話し合うボランティア
また、クリニック内での診療だけでなく、必要な機材を運び出して実施する移動診療もしています。その場でできる避妊処置や、子宮頸がん検診、HIV検査が事前申し込みなしにでき、結果もすぐわかります。異常があったら、より設備が整ったIPPFケニアの本部クリニックにすぐに照会します。訪問日、小学校の一角で行われた移動診療では、地域のコミュニティ・ヘルスワーカー(保健ボランティア)が、積極的に近隣住民に声をかけ、受診を促していました。4時間ほどで20代中心に60人以上が訪れ、HIV検査を受ける高校生もいました。
移動診療で子宮頸がん検診の準備をする看護師
また、このクリニックでは、「Men at Work」という男性対象の家族計画プログラムも実施しています。女性が望まない妊娠や安全でない中絶を避けるには、男性が主体的に考えて、行動することが欠かせません。このプログラムは男性によって行われ、参加者も男性で、避妊の方法などを具体的に示しながら、女性の身体や心身の健康を男性が理解するよう啓発しています。この時、男性自身の気持ちも自由に話してもらうようにしています。いろいろな誤解が解けることで、女性の健康や家族計画に積極的になる男性が多いそうです。
IPPFケニアでは2年に一度、SRHRを促進するため、「ミスターFHOK」「ミスFHOK」という若者の代表男女1人ずつを選出します。2人は大使として、ケニア全土に14カ所あるクリニックを訪問して啓発活動をします。2016年8月に新たに男性代表「ミスターFHOK」に選ばれたエマニュエル・ジョン・オムシンデ・オケノさん(26)に話を聞きました。
エマニュエル・ジョン・オムシンデ・オケノさん
Q:どのような活動をしているのですか。
若者たちに自分の身を守る方法を教えています。たとえば若い女性は、子どもの制服や給食費のため、時には自分が生理用品を買って学校を欠席しなくて済むようにするため、性産業についてお金を稼ぐことがあります。必死にお金を稼ぐ彼女たちに、売春がダメとは単純には言えません。そこで、避妊具の提供や身を守るための知識を教えて、望まない妊娠や安全でない中絶、性感染症を防ぐよう、また、通学し続けられるよう支援しています。男性も退学したら薬物乱用や強盗などに走ってしまう場合が多いので、男性も学業を続けるよう、啓発しています。
Q:スラムの生活上の問題は何ですか。
家にはトイレがありません。しかし、夜は屋外のトイレに行くのは治安上、とても危険なので、ビニール袋などで済ませ、放り投げて捨てることがよくあり「フライング・トイレット」と呼ばれます。それらも野菜ごみなども散乱してたまり、とても不衛生です。飲料水も安全でないので、特に子どもの下痢やコレラの発症が起こります。また、電線が四方八方に引かれているため、屋根に触れるなどして感電して亡くなるケースもあります。スラムでの生活は楽ではありません。
Q:ご自身はどのような生活をしていますか。
私はスラムで生まれ、スラムで育ち、今もスラムに住んでいます。小さいころは起きても朝食が食べられないことがよくありましたし、学校の制服はつぎはぎだらけでした。また、治安が悪く、銃撃で亡くなった友達も何人もいます。今は、バイクの運転手などをしながら、食べることができ、クリニックの仲間3人で「Make a Child to Smile」というグループをつくってキベラに住む7人の子どもの食料や日用品を援助しています。子どもたちの大変さがとてもよくわかるからです。でも高校を卒業でき、成績が優秀だと、資金援助を得て大学に進むことができます。だから頑張って勉強する子もたくさんいます。私もできれば、今後、夜間の大学に行って、救急救命士の資格をとって、就職に役立てたいです。ただ、日々の生活と子どもの援助のため、貯蓄がほとんどできておらず、学費が貯まるのは時間がかかると思います。
Q:生まれ育った場所をどのようにしたいですか。
子どもにはきちんと栄養をとって、健康になって、学校に行き続けてほしいし、若者には犯罪者にも被害者にもなってほしくないです。子どもや若者が将来に希望を持ち、清潔で、誰もが安全に歩ける場所にするのが目標です。
下編では、ナイロビ東部のスラムに住む若者が集まる「ユースセンター」の活動を紹介します。
※このクリニックとユースセンターの訪問は外務省の「NGO海外スタディ・プログラム」を活用した、IPPFアフリカ地域事務局でのインターンを通じて実現しました。ジョイセフはIPPF東京連絡事務所を務めているため、IPPFアフリカ地域事務局と深い親交があります。