安全な出産のために
ザンビア・カルウェオ地区

2017.2.22

  • 実施レポート
  • ザンビア

ザンビアでは、今

停電が続くザンビア:お産の手元はソーラランタン(太陽光ランプ)で

ザンビアのンドラ周辺では日常的に停電が続いています。夜9時~朝5時頃までの約8時間ほぼ定期的に発生しています。地域によっては昼間の停電も起こっているようです。これは送電線ネットワークの状況により地域差が出るためとのこと。原因としては、水力発電ダムの水位が下がったまま、なかなか水量が増えないことと、発電機器の老朽化によるものであると報じられています。いつもなら雨季に水量の上昇を期待しているのですが、天候は思うようになりません。現実問題として電力不足は多くの産業にも悪影響を与えています。早急な解消が目下国民の悲願となっています。

今回訪ねたザンビアの保健施設では、自然エネルギーであるソーラー電気機器の普及が浸透しています。大きな容量ではありませんが、お産の時など少なくとも手元を照らすことができる明かりはとれます。安全な出産を確保するために、まずは「きれいな水」と「夜の明かり」の確保が必須です。

なかなか改善しない若者の雇用問題

世界的な景気の減速がザンビアにも少なからず影響を与えています。経済がなかなか上向かないのがザンビアの課題ともなっています。雇用状況の改善も依然として進みません。ここコッパーベルト州でも、若者の失業率が依然として高く、一説には15歳~24歳の働き盛りの若者の約6割が働く場所がないと言われています。就業先の絶対数が課題なのです。よって若者の失業率の高さは深刻な社会問題となっています。犯罪の発生率や若者の「不満のはけ口」としての暴動なども少なからず懸念されます。また、仮に職があっても、フルタイムの正規雇用ではなく、不定期の日雇的なものとなっており、不安定な収入による生活苦も解消されないのが現状です。

ユースセンターでは11月には全10プロジェクト地区が参加するサステナビリティ・ワークショップが開催されました。

2015年に中国の景気が減速した時にも大きな影響を受けたザンビア。今や中国の投資がこの国の原動力になっているのです。中国資本による、ンドラの新国際空港や巨大モールやホテルなどの建設計画が聞こえてきています。雇用の促進にもつながることが多くの人びとから期待されています。

私が日本人であることもあり、日本からの経済投資や雇用の拡大への支援を直接依頼されることもなぜか多くなっています。昨年2016年8月にケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)の開催もあり、日本の投資が話題となりました。しかし、現実には日本の企業のアフリカへの進出は限られており、今後に期待がよせられています。

私の感想ですが、最近のザンビアへの派遣時に、中国からのビジネスマンと飛行機を共にすることが増えています。実は、中国のアフリカ進出のエネルギーに圧倒されています。町を歩くと私に向かって「ニーハオ」と呼びかけられることも増えてきました。


安全な出産のために

マタニティハウス(出産待機ハウス)で出会った3人の妊婦さん

マタニティハウスで出会った3人の妊婦さん。左からアスナリッグさん(20歳)、ラベンダさん(29歳)、ジェーンさん(21歳)、仲間とマタニティハウスに滞在でき、出産を待つ喜びを語ってくれました。

ジョイセフが外務省(在ザンビア日本大使館)から日本NGO連携無償資金協力事業の委託を受けて実施している妊産婦・新生児保健ワンストップサービス・プロジェクトの3年目に当たります。

ムポングウェ郡カルウェオ地区(総人口約1万4000人)のワンストップサービスサイトは2016年10月7日に開所式を行いました。2015年に開所したマサイティ郡ムタバ地区と同じように4施設(マタニティハウス、分娩施設、助産師の居住施設、ユースセンター)が同時に建設されて、新たなワンストップサービス活動が活気を持って始まっていました。

マタニティハウスと母子保健棟(分娩施設)は渡り廊下でつながっていて雨の日も大丈夫。

その後、開所の月の10月に22人が入所し、私たちが尋ねた11月16日までに13人が出産したとのこと。遠くから出産にやってくる妊婦さんも多いと聞きました。

訪ねた日に、マタニティハウスで3人の妊婦さんと会うことができました。最初の出産を待っているアスナリッグさん(20歳)、2回目の出産のジェーンさん(21歳)。そして5人目の出産を控えたラベンダさん(29歳)、ラベンダさんは、14歳で結婚し、今回の5人目が生まれたら、夫と相談して、家族計画をしたいとしっかり話していたのが印象的でした。「5人で十分です」と彼女。

3人とも母子保健推進員(SMAG)の薦めで、ここにやってきてよかったと、顔を合わせてうなずいていました。約50キロ以上の道のりを2時間かけてやってきた3人は同じ地区の人に車で送ってもらったとのこと。農村地域は道路状況も悪く妊婦さんの移動も大変です。ハウスに同じ地区の仲間がいて大変心強いと笑顔を浮かべていました。今まで3人とも産前健診はともに保健センターの出張健診で、いままでに4回受けたとのこと。カルウェオ地区は、医療機関へのアクセスも大変で、あわせて停電頻発地区ですが、ここで出産する妊婦さんにとっては、希望の持てる出産になることと思いました。また、カルウェオ地区保健センターからのリファーラルとしてはミッション病院があり、車で約1時間の距離で、緊急事態にも対応が可能との力づよい説明が保健スタッフからありました。

助産師の居住施設は魅力的で多くの保健従事者の転勤希望もあるとのことでした。

出産待機ハウスに描かれた「メモリーの物語」

2016年10月7日に開所式をおこなったムコルウェ地区。マタニティハウス、分娩施設、助産師の居住施設、ユースセンターなどの4棟が建設されて新たなワンストップサービス活動が開始されました。

村の女の子「メモリー」を主人公にした物語が、ハウスの壁に大きく描かれていました。メモリーが生まれ、成長し、思春期になってジョンと出会いました。そしてみんなに歓迎されて結婚。地域の助産師や看護師の指導や地域の母子保健推進員(SMAG)の支援も受けて、二人で協力して健康な家族をつくっていくというストーリーです。地域の人びともメモリーの家族を支援しています。メモリーが幸せな家庭を築いていくという心温まる物語に仕上っています。物語も絵も母子保健推進員などの地域の人びとによって創作され、2016年10月に描かれたものです。

ハウスの壁面に描かれた物語は、ここを訪れた人々に楽しく微笑ましい等身大の女性のストーリーを読みながら、教育的な効果をもたらすことは間違いないでしょう。地区運営委員会(LSC)の議長を務めるカミンサ(現職の教師で、若いころ医師を希望していて保健の向上にも関心が高い男性)は、「安全な分娩を確保することも含めて、質の高いサービスを質の高い保健医療従事者によって提供するこの施設は、地域の多くの人びとにとって魅力的なのです。私たちはそれをサポートしていきます」と誇らしげに語ってくれました。

(ジョイセフ常務理事・鈴木良一、2017年2月、東京にて)