第51回国連人口開発委員会の報告および人口と開発に関する日本の取り組み(前編)
2018年度人口問題協議会・第1回明石研究会
2018.6.26
- 実施レポート
- 明石研究会
2018年4月9日~13日 第51回国連人口開発委員会(51st Session of Commission on Population and Development:CPD){テーマ「持続可能な都市、人の移動と国際人口移動」}が開催されました。
政府代表団の一人として出席された林玲子氏にCPD51のご報告をいただきました。続いて、今年11月にESCAPで開催されるアジア太平洋人口会議の中間評価に向けて現在、取りまとめの準備が進められている日本のカントリーレポート案を共有いただき、意見交換を行いました。
日程 | 2018年6月4日 |
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テーマ | 第51回国連人口開発委員会の報告および人口と開発に関する日本の取り組み |
発表者 | 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部部長) |
座 長 | 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長、人口問題協議会代表幹事) |
講演の概要は次のとおりです。
阿藤 誠
林さんに、国連人口開発委員会(CPD)の報告と、11月のアジア太平洋人口会議に提出される日本のカントリーレポート案について、抑えるべきポイントや論点を中心にお話いただきたいと思う。よろしくお願いいたします。
林 玲子
1)第51回国連人口開発委員会の報告
2012年から、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の国際関係部長に就任してから毎年、国連人口開発委員会に出席している。
CPDは、1946年から半年か1年ごとに国連人口委員会として回を重ね、1994年のカイロ国際人口開発会議(ICPD)以降「開発」という文言が加わった。
ICPD以降のCPDのテーマは、ICPD行動計画に沿っており、例えばリプロダクティブ・ヘルス/ライツないし関連した課題を取り上げた委員会は1996年、2000年、2005年、2011年の4回、人口移動については1997年、2006年、2008年、2013年と今回2018年の5回開催された。
第51回CPDのテーマは、「持続可能な都市、人の移動と国際人口移動」で、開会式の後、本会合では一般討論(テーマに関する各国のステートメント)、基調講演とパネルディスカッション、人口分野の国連事務局の活動報告等が行われた。並行して、決議案の討議が行われたが、同意が得られず最終的に採択されなかった(昨年と4年前にも決議の採択はなかった)。その他7つのサイドイベントのほか、国連人口部内で専門家会議も開催された。
CPDの詳細は、国連の下記にアクセスし、ダウンロードできる。
CPDの詳細
都市人口の動向
都市人口は世界全体では半分以上を占め、すべての地域で割合が増加している。都市人口は各国で異なった定義をもとに国連に報告しており、例えば韓国では5万人以上、デンマークでは300人以上などとなっている。日本では市部人口が国連に都市人口として報告されている。
国連として定義を試みようとしても各国の事情があり、強制することは難しいところであり、今後もこのままでいくのかと思う。移民の定義も各国独自のものが多く、統一されていないのが現状である。
CPDのトピックとして、メガシティ(通常1000万人以上の都市)の増加も取り上げられた。赤い点が2018年時点であるが、2030年にはアフリカと東南アジアで緑の点で示した都市が追加される。米国のプライス先生から基調講演のなかで「大きな都市は移民のための玄関都市となっている。国内のメガシティと国際移動はリンクしていると言える」という報告があった。
国際人口移動の現況
国際人口移動について国連人口部が、加盟193カ国で各国から各国への移動者数をまとめていて、この図はその一つの結果である。従来は南(途上国)から北(先進国)へという流れだったが、近年になると赤線のように南から南への移動が一番多くなったのが特徴的である。北から南への流れの増加はほとんどないが、北から北、南から北、北から北は増えている。
先進国は自然人口減少を移民で補充している。1950年から2050年までの先進国における自然人口変化率を緑の線で、移入超過を紺色で示した。2020-2030年ころにはすべてを合わせても人口増加率がマイナスになる。移入超過数はかなり高くなっており、今後も先進国では実際には人口は減っていくが、それ以上の移入があると報告された。日本はこの政策をとらないと以前決めたものの、実際は日本人口減少の半分は外国人口増加となっており、日本も含めて世界的に補充移民が起こっている。
持続可能な都市政策・人口の移動・国際移民
国連人口部が人口政策について各国にアンケートを送り、それに基づいてまとめてオンライン上に公表している。
黄色の部分は国内の人口移動、人口の都市化に関する政策で、農村から都市部への移動を減らす政策をとっている国は72%、農村部での開発を促進して移動への圧力を下げる政策をとっている国が75%ある。大きな都市から中小都市に人口地方分権化する政策をとる国が39%ある。
青いハイライト部分は、国際人口移動では移民の水準を下げる国:13%、水準を上げる国:12%、高度技能者の移民を増やす国:44%、国外に移出するのを減らす政策をとる国:32%という結果を示している。
移動に関するデータの不足が強調され、以下の提案がなされた。
- 国際的に比較可能な都市人口、国際人口移動についてのデータを整備すること
- 2020年前後(2015-2024年までの10年間)に、世界のすべての国について国連統計部が実施する世界センサスラウンドにおいて移動に関する質問を含めること
- 行政の登録データ(例えば日本の住民基本台帳等)、ビッグデータの活用を図ること
- 国籍と出生国についての質問を世帯調査に含めること
日本では国勢調査と人口動態統計、および社人研で行っている人口移動調査には国籍についての質問項目が入っているが、それ以外の調査では入っておらず、今後国籍を入れることは重要である。
主な勧告
- 国・地方政府が共同で移民の統合を図る
- 送り出し国の悪影響(人材流出、家族離散)を抑え、送金手数料を低くして仕送りのときに多くのお金が途中で消えるのを防ぐ、スキルを磨く環境を作ることにより国際移動の利益を生かすことが重要である
- 2020年世界センサス計画、調査、行政データにより、国内・国際のデータを整備し、SDGs指標モニタリングに生かす。SDGs指標作成には、年齢別、性別、移民の状態別に分けて指標を出すことが求められる
決議文書が非採択となった論点
- 今回採択に至らなかった理由は、現在国連の取りまとめが進んでいる移住のグローバルコンパクトがあり、難民・国内避難民をCPDで扱うべきかどうかの議論が結論に至らないため、各国間で意見が分かれた
- 正規・非正規の移民の権利についても各国間で意見が収束しなかった
- セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖の健康と権利)が、性の権利、性的志向の権利を含むということで、意見が分かれた
今回決議案が採択されなかったことで、人口と開発分野が今後どうなるかが、CPD参加の国々と国連人口部の中でもかなり危機感が出てきている。
人口開発分野における国連改革
アントニオ・グテーレス氏が2017年1月に国連事務総長に就任後、国連経済社会局(DESA)改革案(A/RES/70/299)が提示され、局内の再組織および重複する業務の整理統合・効率化についての検討が行われている状況である。
国連における国際移動の合意文書および今後の動向
- ニューヨーク宣言(2016年国連総会決議 A/RES/71/1):国際移動についての包括的な取組みが必要との認識は2016年の国連総会で決議されていた
- 国際的な枠組みの策定に向けて「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト(国際盟約、GCM:Global Compact for Safe, orderly and regular Migration)」が現在議論されている。2018年12月10-11日にモロッコで開催される国際移動政府間会議で採択予定となっている
グローバルコンパクトは国際的な盟約、というもので、法的な拘束力はもたないが、国際的に進めるための枠組みを決めるものである。
CPDの前に国連統計委員会(2018年3月)において、移民統計に関するハイレベルパネルが開催された。内容は以下のとおり。
- 国連人口部長、国際移民に関する国連事務総長特別顧問による開会挨拶
- メキシコ、ノルウェー、フィリピン等7カ国の国連大使か統計局長が各国の状況を説明。
移民の定義:移民とは幅広い概念であるが、出生国でない国で生活し、難民ではない人。国連統計部ではセンサスにおける移民は居住期間が6カ月~1年以上としている。日本では国籍によって外国人かどうかで決めるが、他の国では出生国がどこかで移動をみることが多い。 - 現在国連人口部では加盟国すべての間の国際移動に関する統計を整備している。今後は教育、就業などのデータも追加し、社会統合のギャップを明らかにしたい
3月のハイレベルパネルで、すでにグローバルコンパクトのゼロドラフトが挙げられている。
グローバルコンパクトには、移民と国内避難民の2種類あり、並行して動いて議論が進んでいる。
人口開発委員会の流れ
国連人口委員会は1946年に発足してから、ほぼ10年に1回の大きな人口会議を開いてきた。1954年のローマ人口会議、1965年ベオグラード人口会議、そして1974年ブカレスト世界人口会議からは政府間の会議、1984年メキシコ国際人口会議、1994年カイロ国際人口開発会議(ICPD)の後、2000年の国連総会で採択したミレニアム宣言を受けて、2001年にスタートしたミレニアム開発目標(MDGs)へとつながった。ICPD の流れが、2016-2030年を達成目標とする持続可能な開発目標(SDGs)に統合された形で今に至ると言える。
CPD自体もICPDの行動計画のフォローアップをするということで開催されてきたが、SDGsとの関連がだんだんあいまいになっている。2014年の段階で、ICPDの行動計画の評価をするにあたって進展があったのかを問う人もいた。
米国の政策の影響
ここで、人口問題の専門機関である国連人口基金(UNFPA)への拠出額に注目したい。以下のグラフを見ると、UNFPAへの拠出額の動向がわかる。大国である米国の大統領選挙で、共和党と民主党の政権交替のたび、家族計画や中絶に関する考えが変わる。過去のブッシュ大統領、現在のトランプ大統領など共和党政権では家族計画、中絶に関連するサービスをしている国への拠出金が停止されている。一方で、米国の拠出停止を補うようにオランダや北欧の国々が拠出を増やしている。
「人口と開発」において進展はあったのか
- 1970年代の人口爆発が収まり、現在は人口高齢化が地球規模課題化している
- 女性の地位向上
- リプロダクティブ・ヘルス
- -1950年代には国連会議においても家族計画を扱うことはタブーであったが、現在では異論を唱える国はない
- -中絶の議論は続くが、ラテンアメリカ(モンテビデオ合意2013年)、フィリピン(2012年)、アイルランド(2018年)など、やむを得ない場合には容認し、中絶が安全にできるよう法改正が進む
- 性の権利(Sexual Rights, 性的指向と性自認に関する自由を含む)については、 現在激しく議論中
「渦中」にいると長期的な流れが見えにくいが、ゆっくりと、しかし着実に「人口と開発」は進展していると言える。今、大きな議論があるのは、包括的な性教育は何歳からするかということで、合意ができていない。また、性的指向と性自認についても、日本では2015年がLGBT元年と言われるように、いろいろな国で少しずつでも、人権を中心にした流れが見られるのではないかと思う。
決議は採択されなくても、集まって議論をすることで少しずつ世界は変わっていくのではないかと思う。