COVID-19に直面するケニアの現状を知るオンラインセミナーを開催
2020.6.19
- パンデミック
- HOT TOPICS
- お知らせ
- イベント告知
- ケニア
ジョイセフは5月29日、オンラインセミナー 「COVID-19の影響 ケニアの現場から」を開催しました。
農村地域でプロジェクトを行うことが多いジョイセフには珍しく、ケニアでは都市部のスラムでプロジェクトを運営しています。今回のセミナーでは、急激に感染者の増えている同国で、感染拡大を避けながらセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスのサービス提供を継続するために、国が打ち出したガイドラインやクリニック、保健ボランティアの活動などについて、ケニア事業を担当しているジョイセフの藤島一貴が解説。2019年11月に同国を訪問した産婦人科医の高尾美穂さんが、現地の印象や産婦人科医の目から見た課題について語りました。
プロジェクトを総括するジョイセフ開発協力グループ長の山口悦子によると、アフリカでは3月ごろからCOVID-19の感染が報告され始め、一気に、国際線の減便、国境閉鎖などの措置がとられるようになりました。しかし、もともと検査体制・医療体制の整っていない国が多く、ここ1週間ほどで感染者数が急激に増えつつありますが、どれほど実態を把握できているかは不明です。また、ケニアにおけるジョイセフの活動地域も含めて都市スラムも多く、こうした地域では感染拡大リスクが高いことに加えて、ジョイセフが取り組むリプロダクティブヘルスに関するコミュニティでの啓発活動も制限せざるを得ない状況にあります。
政府の迅速な対応にも関わらず、5月後半から感染者が急増
昨年8月からケニアを担当している藤島は、ナイロビにあるアフリカ最大のスラムと言われるキベラ地区に初めて足を踏み入れた際に、「道は舗装されていなくて、きつい臭いがする、水道がないなど、社会インフラが整っていないことが実感できた」と振り返りました。ケニアの首都ナイロビは、そうしたスラムと、近代的な高層ビルが立ち並ぶエリアが並存し、大きな格差を抱えています。
ケニアの女性は一人当たり日本の倍以上となる3.572人の子どもを産みますが、出生10万あたりの妊娠・出産・中絶で死亡する女性の数(妊産婦死亡率)は日本の70倍(日本5、ケニア342:WHOほか「TRENDS INMATERNAL MORTALITY 2000 to 2017」による)と、女性が一生で妊娠・出産・中絶によって死亡するリスクは日本より格段に高くなっています。
ジョイセフのプロジェクトは、ナイロビ市内の3カ所と、ナイロビから北に150キロほどの都市ニエリの計4カ所で展開されています。プロジェクトでは、女性のリプロダクティブヘルスの向上のため、産前・産後の健診やクリニックでの出産、家族計画の相談といった保健サービスの積極的な利用促進を働きかけ、地域住民に対して健康教育や性教育を行う保健ボランティアや若者ピア・エデュケーターを育成。同時に、保健施設の医療者向けの研修や、不足している資機材を提供して、住民が質の高い医療サービスを受けられる環境づくりを行なっています。
ケニアでは、5月中旬ごろから急激に感染者が増え始め、5月29日の時点で1745人の感染が報告されています。政府は3月13日に最初の感染者が確認されてから1週間で夜間外出禁止令を発令し、4月15日には、COVID-19の感染を予防しつつ母子保健・家族計画サービスを継続するためのガイドラインを出すなど、迅速に対応していますが、先の見通しは不透明です。
同国では、県境を超えて輸送を行うトラックドライバーに対する検査の実施や、検査に必要な医療者の研修を行うとともに、小売業者や飲食店での手洗いを義務化し、水道のない地域でも手洗いができるように蛇口のついたバケツを無償で配布するなど、できる限りの対策に取り組んでいます。また、保健ボランティアも無料でマスクや石鹸を配ったり、手の洗い方、フィジカルディスタンスなど、感染予防教育を住民に対して行うなど感染拡大防止に貢献しています。
感染症対策を進めつつも、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス向上のための活動の維持が重要
一方で、失業者の増加や、人口密度が高くフィジカルディスタンスがとりづらいスラムの実情など、課題も少なくありません。ジョイセフが支援しているナイロビのクリニックでは完全予約制で1日あたり患者を50人に制限し、ニエリでは屋外にテントを設けて、そこでサービスを提供しています。しかし、マスクや手袋、ガウンなどの個人防護具(PPE)や避妊薬・避妊具などが不足しているのが実情です。ジョイセフでは日本企業のご支援をうけて、現地のクリニックが安全に医療サービスを行えるようにPPEを供与しました。
ケニアを訪問し、ナイロビのプロジェクトを視察した高尾さんは、産婦人科医の視点からコメント。「ナイロビでは、スラムにも日本と同じ衛生水準で、同じような検査を受けられるクリニックがありました。それでも妊産婦死亡率が高い原因の一つは、体が妊娠に適するまで育っていない子どもが妊娠してしまうこと。だから、妊娠・出産に関する知識や、避妊の知識を身に付けることが、女性たちの命を守ることに繋がるんです。」と、現地の状況を振り返りました。
さらに、医療資源が限られているため、感染症が拡大すると、そちらに注目が集まってリプロダクティブ・ヘルスへの関心が失われていく可能性があるが、しっかり継続していくことが重要だと強調しました。最後には、「COVID-19の対策結果が目にみえやすいものばかりに注目され、リプロダクティブヘルス関連の対策が手薄になることがあるので、出生率の影響など含め注視していく必要がある」としめくくりました。
セミナーに参加したみなさまからは、時間内には回答しきれないほど多くの質問が寄せられました。これらの質問に対する回答は、後ほど改めて公開いたします。
ジョイセフは、COVID-19の感染拡大が人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスに与える影響を鑑み、国内・海外における妊産婦支援のために寄付を募っています。。世界と日本の妊産婦の命を守り、不安を和らげるために、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。