グローバル・ギャグ・ルールが女性たちの命を危険にさらす
2020.10.30
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ジョイセフが国際連携パートナーを務める国際家族計画連盟(IPPF)は、2020年10月19日、グローバル・ギャグ・ルール(メキシコシティ政策)の世界の医療現場の影響について解説するオンラインセミナーを開催しました。
グローバル・ギャグ・ルールは、米国の歴代共和党政権が採用してきた中絶禁止のための政策で、安全な中絶の推進に関わっている援助団体に米国の開発協力資金供与を停止する形で圧力をかけるものです。この政策の影響を受けて、世界各地で女性たちが医学的に安全とは言えないヤミ中絶に頼ることが増え、死の危険をもたらしています。
IPPFはグローバル・ギャグ・ルールを受け入れていませんが、そのために米国国際開発庁からの資金援助が停止され、世界各国で活動しているIPPF加盟協会の活動にも大きな影響が出ています。今回のセミナーでは、米国、マラウイ、ジャマイカのIPPF加盟協会メンバーが、グローバル・ギャグ・ルールの医療現場への影響について報告しました。
NGOへの支援差し止め、クリニックの閉鎖やHIV対策の断念も
米プランド・ペアレントフッドのジェニファー・ヴァンヤーさんは、グローバル・ギャグ・ルールの歴史と現在の問題点を総括しました。同ルールはレーガン政権が導入した1984年以来、民主党政権では撤廃され、共和党政権になると再導入されるという形で、断続的に実施されてきています。影響を受けるのは米国外のNGOのみですが、当初は米国の提供した資金で安全な中絶を推進することを禁止していたものが、2017年からのトランプ政権では米国以外から資金提供を受けて安全な中絶に関する取り組みを行っている場合にも、その団体には資金供与を停止する方針に拡大されました。
これにより、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)や家族計画に関するサービスはもちろん、もっとも必要としている人たちへの医療保健サービス提供が滞り、米国との外交関係を意識した各国の政策にも影響を与えると、ヴァンヤーさんは指摘しました。
マラウイ家族計画協会(FPAM)のドナルド・マクワクワさんは、高いHIV陽性率や意図しない妊娠率、妊産婦死亡率などの課題を抱える同国の現状を報告。FPAMではグローバル・ギャグ・ルールの導入により断念されたプロジェクトがあると述べました。
プロジェクト中止の影響を受け、FPAMでは女性セックスワーカーの受け入れセンター7カ所と、クリニックとアウトリーチ合わせて年間1万1000件の家族計画サービス・5000件のHIV検査・相談サービスを提供していた拠点を閉鎖。
加えて、備品の供給や避妊手段の提供にも影響が出ています。このほか、HIV感染拡大予防プロジェクトも断念することとなり、政府のSRHRに関する取り組みも減速するなど、多方面に波紋が広がっています。
ジャマイカ家族計画協会(JFPA)のシャキラ・マックスウェルさんは、現在中絶が違法とされている同国へのグローバル・ギャグ・ルールの影響について語りました。
ジャマイカでは1864年の法改正で中絶が違法とされ、2004年に合法化の提言が行われたものの、法改正が進まずにいます。
政府はヤミ中絶が妊産婦死亡率高止まりの一因であり、女性に関する公衆衛生上の大きな課題であることを認めましたが、今もなお法改正の実現にはつながっていません。ここ数年、中絶合法化への動きが停滞していることには、グローバル・ギャグ・ルールを通したアメリカの政治的圧力があると、マックスウェルさんは指摘しました。
マックスウェルさんによると、ジャマイカ国内では世界保健機関(WHO)の調べで年間およそ2万2000件の中絶が行われていると推計され、中絶は妊産婦死亡原因の上位5位に含まれています。
「中絶が違法とされていることは女性の命を危険に晒すだけではなく、保健医療システムの負担も増やしている」とマックスウェルさんは強調し、中絶が違法である限り、女性たちは安全でない中絶を選ばざるを得ず、死のリスクに晒され続けるだろうと警鐘を鳴らしました。
女性の命を守るために、「安全な中絶」の支援を
最後に、女性の自己決定権を前面に出し、グローバル・ギャグ・ルールに対抗するための世界的ムーブメントShe Decides.のリーダー、ナイソラ・リキマニさんが、米国で中絶をめぐって国を二分する論争が続いていることを紹介。米国内で保守派が1973年から続けている、中絶禁止法(ヘルムズ法案)の制定を目指す動きを恒久的に阻止するとともに、国際協力においては最低でもレイプや近親かん、母体の命を危険に晒す妊娠に関する中絶については支援を認めるよう働きかけていることを明らかにしました。
今回のイベントは、国連人権理事会が加盟各国の人権分野の状況を審査する「普遍的・定期的レビュー」で、米国の審査が11月9日に始まるのを踏まえて行われました。IPPFと各国の加盟協会は、グローバル・ギャグ・ルールが世界の保健医療に与える影響を憂慮し、理事会から同ルール撤廃の勧告が出されることを期待しています。