2020年度第1回人口問題協議会明石研究会 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)が人口に与える影響(前編)
2020.12.24
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2019年末に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、国内外の社会に大きな影響を与えている。そこで、2020年度の明石研究会では、COVID-19が人口に与える影響について、3人の専門家が最新の統計に基づく解説を行った。また、今回は、COVID-19の影響下で、初のオンライン会合となった。
日 時: | 2020年12月2日(水)14:00-15:15 |
開催方法: | ZOOMによるオンライン開催 |
テーマ: | 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)が人口に与える影響 |
報告者(敬称略): | 1. 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所副所長) 「COVID-19の人口動向に与える影響」 2. 小池司朗(国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部 部長) 「COVID-19の国内移動に与える影響」 3. 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長、人口問題協議会代表幹事) 「COVID-19と高齢者:国際的動向」 |
座 長: | 阿藤 誠(同上) |
発表の要旨は次のとおり。
林 玲子「COVID-19の人口動向に与える影響」
COVID-19の感染者は、世界全体では2020年3月に大きく増えた後、なだらかに増え続けている(2020年12月2日時点)。日本は新規患者・死亡者数ともに、5月の第1波を皮切りに、第2波、第3波という形で波状に推移しているが、他国と比べて少な目となっている。
人口動態速報に基づき、日本の人口の高齢化を考慮した今年の予測死亡数と実際の死亡数を比較したところ、2020年の死亡数はむしろ予測を下回る結果となった。他国、例えばフランスと比較すると、同国では3月・4月の死亡数が例年を大きく上回っており、COVID-19を原因とする超過死亡が発生したことは明確である。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)では自治体の公表に基づき、毎週COVID-19による死者の集計を発表しているが、そこからはCOVID-19による死者の分布に、性別・年齢において大きな偏りがあることがわかっている。性別では男性の死者が多く、年齢では80歳以上が極めて多い。ただし、全死亡でも高齢者に偏る傾向にあるので、男性に偏っているという点がCOVID-19による死亡の大きな特徴と言える。
死因別死亡率については、現在2020年6月までの統計が公開されているが、年齢構造調整して2019年と比べると、全体に死亡数が減少し(特に肺炎などが減少)、5月まではやや老衰が増えている一方で、6月にはわずかであるが肝疾患や糖尿病による死亡が増えている。これは、感染対策によって肺炎や感染症などによる死亡を抑制できた反面、対策の長期化によって持病が悪化した人が増えている可能性を示唆している。
一方、出生数については、出産年齢の女性が減少していることにより毎年大きく減少しているが、2020年は2019年と比べそこまで減っていない。死亡数は昨年より減り、出生数は昨年と大きく変わらないことから、人口の自然減少数も、2020年初めから横ばいで、「COVID-19によって人口の自然減が停滞した」と言える。その一方で、妊娠届出数は2020年5月から大きく減少しており、11月ごろから出生数も大きく減っていくのではないかと見込まれる。国際人口移動は今年に入って激減し、現在の外国人入国者数は5月に5000人程度まで落ち込み、1955年ごろと同じ水準となった。現時点では、出生、死亡、移動のうち一番大きく影響を受けたのは移動である。
小池 司朗「COVID-19の国内移動に与える影響」
総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」などにより、人口移動の変化を観察した。
これまでの傾向を追うと、基本的には東京・名古屋・大阪の3大都市圏への転入超過が続いており、特に高度経済成長期にはこれら3大都市圏に人口が大量に流入したが、80年代以降は東京圏のみで転入超過が続いている傾向にある。東京圏への転入のピークは1962年、1987年、2007年だが、2019年もバブル期並みの15万人弱の転入超過を記録した。
東京圏の転入超過の内訳を見ると、バブル期は周辺3県(埼玉・千葉・神奈川)が大幅な転入超過である一方、東京都は転出超過の傾向が続いていたが、近年では周辺3県の転入超過が停滞し、都心部の転入超過が増えている。
2014年から2020年の移動動向を、1月〜9月の期間で比較すると、東京圏への転入は2020年に伸びが鈍化し、名古屋圏はやや転出超過が拡大しているのに対し、大阪圏ではわずかに転入が増加している。さらに4月から9月にかけての東京都の転入超過数を見ると、2014年から19年まで、2万5000人〜3万人ほどの転入超過が続いていたが、2020年には約5500人の転出超過となった。周辺3県の転出入に大きな変化はなかったが、東京圏に隣接する県で転入超過数が増加する傾向が見られた。
一方、同じく4月〜9月期での名古屋圏・大阪圏の府県別転入超過数の推移を見ると、愛知県では2019年から転出超過、大阪府では2018年から転入超過となり、2020年にはその傾向が拡大した。
東京都と周辺3県の男女別の転出数・転入数を2019年4~9月と2020年4~9月で比較すると、東京都では転出については大きな変化がないものの、男女ともに転入が減り、もともと多かった女性の転入超過がほぼゼロ、男性は転出超過となった。周辺3県については、男性の転入超過は横ばいとなり、女性の転入超過がやや減っている。これを年齢別にみると、東京都で20代〜30代の転入超過が大幅に減少している半面、未成年層の変化はより小さく、主に単身世帯や夫婦のみの世帯の移動傾向に変化があったと見られる。周辺3県については、大きな傾向の変化は見られないが、女性の20代〜30代の転入がやや減少している。
同じ期間を対象として転出元・転入先の地域別で見ると、東京都からの転出数はあまり変わらないが、東京都への転入数はどの地域からのも減っている。周辺3県については、東京都への転出の減少が特に目立つとともに、東京都からの転入が増え、他の地域からの転入超過が減るという形になっている。東京都内の市区町村を見ると、23区は昨年の転入超過数を大幅に下回るところが多く、市部でも全般には同様の傾向があるが、都心から離れた地域を中心として一部では昨年の転入超過数を上回っている。
これらの傾向をまとめると、次のようになる。2020年4月以降に東京圏、特に都心に近い地域では人口移動傾向の変化が顕著である。2019年と比較して、転入超過数は東京都で大幅減、周辺3県でやや減少、北関東・甲信などでは増加した。多くの企業が来年度の新卒採用を抑制していることなどから、2021年も東京圏の転入超過数の減少が継続する可能性が高いと考えられる。