ミャンマーの母子の命と健康を守る協働事業で実現できたこと〜MSD株式会社で事業終了報告をしました〜
2024.12.6
- HOT TOPICS
- お知らせ
- 実施レポート
- 企業/行政 連携プロジェクト
- ミャンマー
ジョイセフは、日本のNGOとして初めて「MSD for Mothers※1」のパートナー団体に選ばれ、ミャンマーでの妊産婦保健改善に向けたプロジェクト「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト ~社会・文化的バリアを越えて~」を実施。この度、2019年3月から2023年10月まで、4年7カ月にわたり実施してきたプロジェクトからの経験と成果を、100名を超える社員の方々(対面とオンラインで)に報告しました。
*1 MSD社が取り組む「MSD for Mothers」とは、妊娠や出産に関連した要因による女性の死をゼロにすることを目指し、世界中に拠点を置くMSD社が各国のNPO・NGOを支援するプログラムで、2011年の設立以来、世界165を超えるパートナー団体と連携し、これまでに70カ国以上で200件以上のプロジェクトを支援してきました。
本プロジェクト担当者の吉留が、写真を使いながら、事業開始後に直面したコロナ禍や2021年に起きた軍事クーデターといった厳しい状況下で、どのように、ミャンマー人プロジェクトチームや、事業対象エリア保健局の職員、村のリーダーたち、保健施設の医療従事者、そして母子保健推進員と呼ばれる保健ボランティアたちと事業を進めてきたかについて、具体的なエピソードを交えて紹介しました。
参加された社員の皆様からは
「現地での活動を知る良い機会になった」
「MSDのCSR活動への理解を深められた」
「同じ女性としての他国が抱える課題を知り、考えさせられた」
といった感想が寄せられました。
ミャンマーで妊娠、出産でなくなる女性が多い理由
国連によると(2020年)、出産件数10万件あたりの妊産婦死亡率が日本では4に対し、ミャンマーでは179と日本のおよそ45倍と高く、東南アジアの中でも2番目に高い国です。ジョイセフが活動地として選んだエヤワディ地域は、ミャンマー国内で最も妊産婦死亡数が多い場所です。特に妊産婦死亡が多い背景として、地理的な特徴と、厳しい経済状況があります。
エヤワディ地域はデルタ地帯(河口付近に見られる分岐した2本以上の川や海に囲まれた三角形に似た地形)に位置し、ミャンマー最大の米どころである一方で、雨季には低い土地の道路が水没して川になり、人々は移動に船が必要になる地域もあります。このような地理的な特徴が、妊産婦が医療施設での健診で、助産師等の専門技能者からの必要なアドバイスやケアを受けたり、出産する際の医療施設サービス利用の妨げになっています。
また農業など季節によって収入が変わる労働者が多いことから貧困世帯が多く、医療施設までの交通費など経済的な負担を避けるために健診を受けなかったり、医療資格を持たない産婆による自宅での出産を選択することがあります。
状況を改善する手段のヒントは日本の〇〇
活動地に暮らす多くの女性たちは、社会的、文化的背景やおかれている立場によって命と健康を守る選択肢が限られ、経済的にも厳しい状況の中で暮らしています。そのような状況の中でも、適切な保健サービスにアクセスできる環境整備と、妊産婦死亡の削減に貢献するために、大きく2つの手段を検討、実行しました。
1つ目は、母子保健推進員という保健ボランティアを養成すること。本事業によって養成された母子保健推進員が妊産婦がいる家庭へ訪問し、啓発教育活動を行いました。医療施設での妊婦健診を適切なタイミングで受け、専門技能者の介助により出産し、産後ケアを受けること、そして家族計画の利点について伝えています。
2つ目は、地域主体で運用するバウチャー制度の導入。医療施設に行くための交通費、出産で入院する際の食事代といった経済的な負担が医療施設を受診する上での障壁を緩和させることで、妊婦健診や産後健診を保健省が推奨する適切なタイミングと回数で受け、医療施設で出産することを促すための方法です。保健施設での健診により妊娠が確認された女性は、バウチャー管理委員会から、お祝い金と交換できる「引き換え証」を受け取ります。その後、健診や施設での出産の際に、「引き換え証」と母子健康手帳を持参すると、適切な時期に受診している場合、助産師が「引き換え証」にサインをします。保健施設での出産後と産後健診終了時2回のタイミングで、その「引き換え証」を管理委員会に提示し、お祝い金と交換できる仕組みです。これは、日本の妊婦健診の補助制度を参考に、2022年に約30の村を対象に導入しました。各村で村長、助産師、女性リーダーと母子保健推進員からなる管理チームを作り、その管理チームによって資金の調達、資金の管理、妊産婦に関する情報の登録、妊婦健診を受診し医療施設で出産した女性へのお祝い金の支払い、助産師などの医療従事者との情報連携が行われています。
コロナ禍やクーデターをくぐり抜けた事業、その成果は
2020年3月に約3600名の母子保健推進員が養成されましたが、その後新型コロナウイルス感染症の拡大や、2021年に起きた軍事クーデターと難しい状況が続き、ジョイセフの日本人スタッフのみならず、最大都市ヤンゴンに居住するミャンマー人スタッフも事業地に入れず、活動状況を把握することが難しい時期がありました。事業地にアシスタントを2名ずつ雇用し、遠隔で活動を進め、国内の移動が可能になってくると、スタッフは、活動エリアの保健局職員とともにバウチャー制度を実施している村を定期的に訪問し、技術的なアドバイスを続けました。普通車では行けない場所も多く、ボート、小型トラック、バイク等を乗り継いで行くことも。2021年8月にミャンマー人スタッフが事業地を訪問した際は、多くの母子保健推進員が活動を継続していることを確認でき、安堵しました。
プロジェクト終了時には、家族計画についての正しい知識の啓発によって、保健施設で提供されている避妊方法を使うことへの不安や抵抗感が少なくなり、デポ(避妊注射)やインプラント(二の腕の皮下に埋め込む避妊具)が以前よりも女性に好まれるようになりました。また、妊産婦保健サービス利用についての意思決定のプロセスも、事業開始当時と比べて状況が改善しました。配偶者間の話し合いや医療従事者への相談、母子保健推進員からの提案を考慮して決めるプロセスを踏む家庭がより多く見られるようになりました。
また、バウチャー制度の妊産婦サービス利用への効果を見るため、取り入れた村とそうでない村における妊産婦保健サービスの利用状況を比較したところ、バウチャー制度を取り入れた村では、妊娠中に4回以上の妊婦健診を受けた女性、専門技能者の介助による出産した女性、医療施設で出産した女性、産後健診を受けた女性の割合が、バウチャー制度を取り入れていない村よりも多いことが分かりました。
「非常に難しい状況での事業実施となりましたが、MSD for Mothersと日本のMSD社の皆さん、母子保健推進員や地域バウチャー管理チームのメンバーといった地域コミュニティの人々、助産師をはじめとする活動地域の保健局、情勢の悪化で渡航できなくなった日本人スタッフの代わりに現場で動いてくれた現地の専門家の皆さん、本事業に関わる全ての人々が、それぞれの立場でできることを模索し、その時に必要かつ実施可能な活動をすることで成果を得ることができました」と吉留がまとめ、報告会を終えました。
【活動報告会フォトレポート】(写真提供:MSD株式会社)
▼ミャンマーの活動地や関わった人の写真や民族衣装が飾られた会場