UNFPA・ジョイセフ共催公開シンポジウム 「母親になる少女―思春期の妊娠問題に取り組む」開催
2013.11.18
- イベント告知
11月7日午後、標記シンポジウムを国連大学エリザベス・ローズ・ホールにて満席(130名)の参加者を得て開催しました。
本シンポジウムは、2013年10月30日発表の国連人口基金(UNFPA)『世界人口白書 2013』をベースにテーマを設定、世界の思春期の妊娠の現状やその背景などについて分析し、議論を深めました。
世界の思春期の現状と課題
いま、18歳未満で出産している少女は開発途上国で年に730万人。また世界で320万人の少女が安全でない中絶を受けていると推計されており、少女たちの95%が開発途上国に住んでいます。彼女たちがおかれた社会的・文化的背景や、この現状によってもたらされる影響についても2013年の白書は詳しく述べています。
国や地域によっては、自分の意思で決められない結婚(児童婚など)や、意図しない妊娠、望まない妊娠、そして安全でない人工妊娠中絶、またHIVも含む性感染症などが、これら思春期の少女たちの大きな健康上の問題、また貧困などの社会的経済的問題を引き起こしています。
いまだにリプロダクティブ・ヘルス分野のアンメットニーズ(未充足ニーズ)を満たすことができない状態が続いており、その現状を改善することができれば、望まない妊娠を防いで、多くの少女や女性の命や健康を守ることができると考えます。
個人の問題として捉えるだけではなく、社会が解決しなければならない重要な課題であると白書は述べています。
本シンポジウムは、外務省、国際協力機構(JICA)の後援を得て、また、国際家族計画連盟(IPPF)、人口問題協議会、公益財団法人アジア人口・開発協会(APDA)、NPO法人2050、日本大学人口研究所、神戸アジア都市情報センター、一般社団法人日本家族計画協会など、多岐にわたる支援・協力を得て成功裏に実施できました。
プログラムは、以下の通りでした。
開会挨拶:石井澄江(公益財団法人ジョイセフ理事長)
祝辞:武見敬三(参議院議員・代読)
世界人口白書2013解説:阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長)
パネルディスカッション:「母親になる少女―思春期の妊娠を考える」
パネリスト(50音順):小貫大輔:東海大学教養学部教授
小林尚行:国際協力機構(JICA)人間開発部次長
染矢明日香:避妊啓発団体ピルコン代表
種部恭子:女性クリニックWe!TOYAMA院長
特別講演:阿部俊子(衆議院議員)
メッセージ:テオドロス・メレッセ(国際家族計画連盟(IPPF)事務局長)
閉会挨拶:逢沢一郎(衆議院議員)
シンポジウム概要報告
石井澄江公益財団法人ジョイセフ理事長の開会あいさつ、武見敬三参議院議員(代読)の祝辞の後、『世界人口白書 2013』を、阿藤誠国立社会保障・人口問題研究所名誉所長が、白書の日本語版監修者として詳細にわたり解説しました(世界人口白書2013をご参照下さい)。
その後、佐崎淳子国連人口基金東京事務所長がモデレータとなって進行したパネルディスカッションでは、海外の実情と日本の現状を踏まえて、思春期を取り巻く課題がパネリストによって提起されました。解決するための方法論の提起や、家族や社会、政府などが取り組むべきチャレンジについての提言もありました。パネルディスカッションでは、参加者からの多方面にわたる質疑応答も織り込まれました。
ブラジルでの実践活動の経験から、小貫大輔東海大学教養学部教授は、思春期の妊娠や性感染症の課題へのブラジルでの取り組み方を紹介。政府自身が高い問題意識を持ち、啓発活動やサービスの提供を行っている実践にふれ、日本での取り組みが、現状に見合った積極さに欠けていることを指摘し、個人の問題でなく広く自分たちの社会の問題としてオープンに話し合い、解決策を提示できるようにしなければならないと提言。日本の大学での性教育講座の開設を自らの経験から推し進めるように要望しました。
小林尚行国際協力機構(JICA)人間開発部次長は、JICAの実践的な思春期保健分野の技術協力について、ニカラグアとホンジュラスの成功事例などを挙げて紹介。日本としてODAによる更なる協力が諸外国から求められており、思春期保健、リプロヘルス、母子保健分野で支援協力や日本への期待が高いことを報告しました。
染矢明日香NPO法人ピルコン理事長は、望まない妊娠や性感染症から日本の若者があまりにも無防備で、年間、いまだに全体として20万件にのぼる人工妊娠中絶があり、その中でも10代の望まない妊娠は喫緊の課題として、これらを防止することが、若者が自分らしい生き方を選択できる社会への一歩となることを強調しました。ピルコンは、若者のコミュニケーションスキルの習得を目指し、避妊の実践の教育や、中高生向けの性教育、また保護者向けの子育て支援プロジェクト等の推進を実践しています。
種部恭子女性クリニックWe!TOYAMA院長は、19歳以下の人工妊娠中絶が依然として2万件あることへの懸念と、その背景として性教育の欠落を指摘。とりわけ15歳以下の中絶に社会がもっとしっかりと目を向け対策を取らなければならないことを強調しました。そして、自分を大切にできる、将来に夢の持てる教育や啓発が重要であることが指摘され、関係機関の包括的な連携協力が必要であると提言しました。望まない妊娠、貧困、暴力の世代間連鎖を断ち切るための医療・保健、福祉、学校などの包括的な連携・協力が必要であると指摘して、締めくくりました。
パネルディスカッションの後、特別講演にたった、阿部俊子衆議院議員は、「思春期の妊娠―海外の動向と日本の課題―」と題して発表。児童婚の実態(3万9千人の18歳未満の少女が結婚している現実)、世界中で安全でない中絶が毎年320万件行われていること、HIVの感染者が15歳から24歳の若者に依然として多いことを指摘し、少女の犠牲が深刻であると報告しました。また、日本の10代の若者に対する対策や取り組みについて紹介し、日本における女性健康支援センターの更なる充実への期待を寄せました。
テウォドロス・メレッセ国際家族計画連盟(IPPF)事務局長は、エチオピアで自らの母親が13歳で結婚し、15歳で自分を産んだことを紹介。UNFPAとIPPFはともにリプロダクティブ・ヘルス分野で世界的に活動できるネットワークをもち、更なる戦略的なパートナーシップを発揮し協働することが必要であると述べました。日本でも、家族計画のパイオニアである加藤シヅエ氏が早くからイニシアティブをとり、家族計画運動を推進した事例について述べ、さらなる国際社会の思春期の妊娠問題を含めたリプロダクティブ・ヘルス分野での貢献や投資について、日本への強い期待を示しました。
閉会挨拶として逢沢一郎衆議院議員から、「日本は、本日の課題に高い関心を持っている。国際協力をさらに推進するためにも、現在ODAが厳しい現状ではあるが、最大限の期待に添えるように努力したい」との意思表示がありました。
(文責:ジョイセフ鈴木良一)