2015年版世界保健統計発表:格差を埋めるための国際的チャレンジを求める
2015.8.20
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2015年5月「世界保健統計2015年版」が世界保健機関(WHO)によって発表されました。
これは2013年の保健指標に基づいて報告されています。その中からいくつかのわれわれに関連した統計の特徴を紹介したいと思います。この統計は世界の194カ国に及ぶ1000項目を超える保健指標がまとめられたものです。詳しくはWHOのホームページ(英語版ですが、http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/2015/en/)を参照してください。
平均寿命:日本は世界一の長寿国、世界最短命国はシエラレオネ
まず平均寿命です。2012年に引き続き日本は2013年も世界最長寿国となりました。男女を合わせた平均寿命は、世界平均が71歳。日本は84歳でした。男女別では、女性は87歳で世界1位、男性は80歳で、サンマリノ(83歳)、シンガポール(81歳)に次いで3位でした。一方、世界で最も短命国はシエラレオネの46歳、レソトが50歳、中央アフリカ51歳とアフリカ諸国が続きます。多くの先進国が平均寿命を80歳に延ばしていて、開発途上国とりわけアフリカ諸国の50歳前後という現実は、地球規模的な「寿命の格差」を表しています。
乳児死亡率、妊産婦死亡率、HIV/エイズ新規感染率
平均寿命が短い国々は、乳児死亡率が高い国々と重なります。現在世界の乳児死亡率の推移は、MDGs(ミレニアム開発目標)の指標ともなっています。1990年の出生1000対90から2013年の46とほぼ半減しています。MDGsでは「3分の2に削減させる」と目標を掲げていましたが、まだ到達しないまでも、妊産婦死亡率よりもよい指標を示しています。これは予防接種率の向上や各国の乳児保健サービスの向上によるものと分析されています。今後は、早産による合併症、肺炎や下痢などの感染症が原因で死亡する乳児への対策やケアが必要です。保健の改善や栄養状態の改善で相当の成果が得られるとしています。
それに比べて妊産婦死亡率は、この間に、半減したと報告されていますが、「75%減」を目標に掲げているMDGsの指標の中では未達成の国々が多いことも判明しました。望まない妊娠や中絶による死亡などは、一見、「保健の課題」と見えますが、実は「ジェンダーの課題」による死亡が多いと考えられています。また自宅や自宅から緊急の時の医療施設までの搬送時に死亡する率も高く、施設の拡充や助産師等の訓練が大きな課題となっています。現在、助産師立ち会いの分娩率が約50%と言われています。まだまだ改善の余地があります。さらに避妊へのアクセスの充実が強く求められます。
HIV/エイズの新規の感染者数は、2001年時点で340万人から、2013年には210万人に減少しました。抗レトロウイルス治療も世界中で進展しており、2015年には低・中所得国で1500万人以上が治療を受けられると報告されています。また、行動変容に関する啓発活動も功を奏していると思われます。これからは、さらに若者への教育や啓発活動が求められます。
トイレの改善が急務
世界のトイレ事情はまだまだ改善されていません。飲料水とあわせて衛生的なトイレの普及が世界的に急務となっています。しかしWHOの報告によるといまだに世界では10億人の人々が、トイレもなく、屋外で用を足しており、とりわけ女性にとっては、屋外のトイレに行くこと自体がセクハラや性的暴行の対象となるなどの課題を含んでいます。当然このような状態での野外での排泄は、コレラ、下痢、寄生虫感染など多くの感染症の原因となるなどの公衆衛生上の課題も含んでいます。
このような指標を踏まえて、世界の国々の未解決の課題はいまだに多く、またさらなる人的資源や資金を提供していかなければならないと思います。
富める者や富める国と貧しい者や貧しい国の格差を縮めてこそ、真の国際平和や共存共栄が成り立つのではないでしょうか。とりわけ女性や子どもの命を守るための地球規模での格差是正のチャレンジがさらに求められます。そのために日本が果たす役割も大きく、技術面や資金面でも、世界から多くの支援が求められています。さらには、これらの分野における公衆衛生の多くの知見を持った国としてのリーダーシップへの期待も国際的に大きなものがあります。
(2015年8月、東京にて)