タンザニア 「復学禁止」のシングルマザーの希望

2018.8.3

  • 実施レポート
  • タンザニア

激しいドラムの音に合わせて軽快に腰を動かすエスタ(仮名)。20歳で3歳の娘がいるシングルマザーだ。裁縫が得意で「何でも縫える」と自信を見せる。

しかし、1年前の2017年、エスタは口数少なく、落ち込んでいた。妊娠・出産のため、日本の中学・高校にあたるセカンダリースクールを退学していたからだ。「看護師になりたかったので、退学はとても悲しかったし、両親も妊娠を喜んでくれなかった。パートナーとはもう会っていないし、サポートもない」

タンザニアでは、妊娠・出産のため公立学校を退学した女子の復学を認めていない。15歳~19歳の妊娠・出産が27%(Tanzania DHS 2015-2016:110 )という、数多い若者の妊娠・出産の防止のためであるが、教育を受ける権利を妨げるとして国内外から批判が出ている。私立学校への転入は可能だが、授業料が高額で、一般の家庭ではほぼ困難である。

テメケユースセンターのピア・エデュケーターら

10代の妊娠の多さは、若者が近代的避妊法にアクセスしにくいこと、男性側の避妊への非協力などの問題が背景にある。生徒たちに限らず、女性(20~49歳)の初産年齢自体も19.8歳(同:109)と若い。

そんな中、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスを推進するNGO「タンザニア家族計画協会(UMATI)」は、若者のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスサービスに力を入れる。ダルエスサラーム中心部に近いテメケ・ユースセンター(Temeke Youth Center)では、若者の意図しない妊娠を防ぐための啓発活動とカウンセリング、そして若い母親の職業訓練をしている。

テメケユースセンターのサイトコーディネーターのウペンドさん

ユースセンターでは、エスタのように在学中に妊娠・出産したため、学業を続けられなくなった10代の女性たちのために、裁縫や料理のクラスを実施。半年間にわたるプログラムで、裁縫や料理の指導だけではなく、人生設計や包括的性教育などのレクチャーもある。エスタも2017年に履修した。

現在は使われていない調理実習用の部屋

意図しない妊娠を防ぐ啓発活動は、学内では、「包括的性教育(Comprehensive Sexual Education)」は認められていないが、学外のUMATI施設などで、コンドームの使い方のような具体的な避妊法を含む包括的性教育を実施している。また、ユースセンターや、地方部の住民のための巡回訪問では、様々な避妊法(避妊用ピル、子宮内避妊具、女性用コンドームほか)のカウンセリングや提供、HIV検査などを、若者に無料で実施している。資金は政府や国際家族計画連盟(IPPF)から支援を受けている。

活動は特に、同年代のボランティアである「ピア・エデュケーター」が活躍し、子宮の模型や避妊具などを使いながら、避妊方法などを説明する。

意図しない避妊を防ぐことはタンザニアでは特に大きな課題だ。刑法で、女性の身体への差し迫った危険がない限り、レイプによって妊娠した場合も含めて、人工妊娠中絶が原則認められていないためだ。人工妊娠中絶の実施には2人の医師の同意署名が必要となる。ジョイセフのプロジェクト活動のため、2018年6月に訪問したドドマ州バヒ県のチパンガ・ヘルスセンター(Chipanga Health Center)では、2017年の人工妊娠中絶実施は1件しかなく、その他はすべて自然流産や、胎児や胎盤が一部残っている不全流産のケアと記録されていた。

一方、安全でない、非合法の中絶は数多く、安全でない中絶はタンザニアの妊産婦死亡率の高さの一因になっているとされる。タンザニアの妊産婦死亡率は出生10万あたり556(同:434)で、出生10万あたり5(WHO World Health Statistics 2017:88 )という日本の111倍だ。

そんな若者や女性の健康を守るため、精力的に活動しているUMATIだが、2018年は、活動資金が得られず、同センターで裁縫や料理のクラスが開講できていない。また、以前は、若者たちのために何台もあったパソコンも古くなり、今は1台しか使用できていない。

厳しい環境ではあるが、スタッフやピア・エデュケーターたちは、自分の仕事をしながらセンターに通い、ディスカッションやダンスを楽しんだり、清掃活動をしたり、地域住民と交流したりしている。帰り際、私はエスタに「今度来る時は、縫ってもらう生地持ってくるね」と手を振った。

テメケユースセンターでダンスを練習する若者たち