C20サミット、日本で初の開催
2019.4.26
- アドボカシー
- 実施レポート
G20大阪サミットに向け、市民社会の視点から政策を提言
2019年6月28日、29日の2日間にわたって大阪で開催されるG20サミット(20カ国・地域首脳会議)に先駆けて、政府から独立したさまざまなエンゲージメント・グループが政策提言活動などを行っています。ジョイセフはそのうちの一つ、市民社会の代表で構成される“C20”の一員として、4月21日から23日までの3日間にわたり開催されたC20サミットに参加しました(エンゲージメント・グループやこれまでのC20の活動については、RH+23号をご覧ください)。
G20サミットが初めて日本で開催されるのと同じく、C20サミットも日本では初めての開催となります。開会に先立ち、4月18日にはC20の代表が首相官邸を訪問し、政策提言書を安倍晋三首相に手渡しています。3日間の会期には、40の国と地域から延べ830人が集まり、さまざまな課題の解決に向けて議論を深めました。
ジョイセフはC20サミットにおいて、主にジェンダーと国際保健に関する提言と分科会をリードしました。
男性、女性、LGBT:あらゆる性の平等な参画へ
1日目に開かれた「包摂的民主主義:ジェンダー、セクシュアリティ、平等な参画」分科会では、アムネスティ・インターナショナルでジェンダー・セクシュアリティ・アイデンティティープログラムのディレクターを務めるヤミニ・ミシュラ氏の司会の下、日本、ケニア、台湾、インドの有識者が、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール10として掲げられた「不平等の是正」について、ジェンダーやセクシュアリティの側面から議論しました。
台湾民主主義連合のケティ・W・チェン氏が「アジアで初めて同性婚を認め、クオータ制の導入で国会議員に占める女性の割合が4割に近づいた台湾でも、性別やセクシュアリティに基づくハラスメントが起きている」、ケニアSDGsフォーラムのキャサリン・ニャンブラ氏は「アフリカの多くの国で同性愛が違法とされている。女性の権利推進運動は、ほかの性にも門戸を広げる必要がある」と指摘しました。
また、インドでLGBTの支援団体コルカタ・リスタの事務局長を務めるサントシュ・クマール・ギリ氏はジェンダー問題が女性のみの問題として語られがちな現状を取り上げ、インドで伝統的に認知されてきた第三の性“ヒジュラー”を取り上げ、「法的にヒジュラーが性別として認められている一方で、宗教的な伝統の中に取り込まれ、私のように医師でありながらヒジュラーであるということは違和感を持って受け止められる」と語りました。
一方、日本で政治における女性の政治参加推進を目指すパリテ・アカデミー共同代表で上智大学教授の三浦まり氏は「日本ではいまだに女性の政治参加が進まず、2018年5月にようやく成立・施行した政治分野における男女共同参画推進法を違憲だとする法学者もいる一方で、多くの女性候補者が地域コミュニティの支援を受けて選挙に挑むなどの前向きな動きも出てきている」、ちゃぶ台返し女子アクションの渕上貴史氏は「女性に対するジェンダーステレオタイプが強く、性暴力がメディアなどにも注目されていない。また、警察が性犯罪被害者への適切な対応を学んでおらず、偏見を色濃く残した対応がされている」などの問題を指摘しました。
参加者との議論の中では、「女性の政治参加が進んでも、女性に対する暴力が残っている(メキシコ)」、「同性愛者の権利が推進される一方で、中絶合法化法案が否決されるなどの保守的な揺り戻しが起きている(アルゼンチン)」といった複雑な現状を踏まえて、男性やマジョリティーを運動に取り込んでいくことが重要との意見が出されました。
すべての人への医療サービス、期限を定めて実現を
2日目の分科会では、「『誰一人取り残さない』UHCの現実と課題」と題した分科会で、ジョイセフのアドボカシー・マネージャーを務める福田友子の開会挨拶に続き、医療サービスへのアクセスが難しい人たちをどう取り込んでいくかについて議論しました。
エイズと権利・保健ネットワークで渉外担当を務めるステファニア・バルボ氏(イタリア)は「世界には、医療サービスを受けるために貧困に陥る人が多数存在する」と述べて、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:すべての人が、経済的に困窮することなく医療サービスを受けられること)の実現がいかに重要かを指摘し、期限を定めた目標の設定が欠かせないと強調しました。
アフリカ医療・研究財団アフリカ・パートナーシップ局長のデスタ・ラケウ氏(米国)は、「あなたが誰だろうと、どこに住んでいようと、質の伴った医療サービスを受けられるのがUHCの理念」とした上で、実現に向けた国際合意ができていないことに警鐘を鳴らしました。
アルゼンチンから来日したクルト・フリーデル客人協会会長は、貧困層の中でも実態把握が難しいスラム居住者の問題を提起。全世界で10億人が住むといわれるスラムでは基本的な生活インフラの整備や医療施設・社会保障の提供ができておらず、HIV/エイズ、結核、マラリアの3大疾病をはじめとする衛生リスクにさらされている現状を取り上げました。
アプカソ事務局長のロデリン・マルテ氏(フィリピン)は、移民労働者への医療サービスの提供について論じ、「正規移民か不法移民か、国内移民か越境移民か、男性か女性かなど、一言で移民労働者といっても置かれている環境には大きな違いがある」とした上で、移民にとって地域の行政サービスなどを受けるハードルが高いことや、女性移民労働者は正規の移民であっても妊娠やHIVなどへの感染を理由に国外退去処分を受ける実情に光を当てました。
コルカタ・リスタの事務局長を務めるサントシュ・クマール・ギリ氏(インド)は、サービスへのアクセスにおけるLGBT特有の障害を指摘。サービスを受けるためのあらゆる段階で差別に直面せざるを得ず、適切な医療サービスを受けられる場所が見つからない実情を踏まえ、コミュニティの中で見えざる医療難民となっているLGBTにも目を向けるよう訴えました。
DPI日本会議の降幡博亮氏は、障害者の医療アクセスについて「障害者当人に自分自身の体についての知識が不足していることに加え、特に途上国では救急車が車いす対応になっていない、公共交通機関を使えないなどの問題が通院の妨げになっている。医療関係者に障害者についての認知を高めることや、政策決定者の中に障害者が含まれるようにしていくことが重要」と強調しました。
グローバルファンド活動者ネットワークアジア太平洋地域コーディネーターのレイチェル・オン氏は、「医療サービスの現状を把握するには適切な情報調査が不可欠だが、たとえば売買春が禁止されている国においてセックスワーカーが真実を語ると犯罪者となるなど、正しい情報を提供することが当人に被害をもたらすケースがある。彼らが罪に問われないような環境で情報収集を行うなどの配慮をもって、誰一人取り残さないようにしなければならない」と提案しました。
職場での暴力とハラスメントをなくすために
「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」と題する分科会では、ジョイセフの福田友子がモデレーターを務め、日本をはじめとする各国のパネリストが職場における性暴力を中心に論じました。
国際労働連合シニア政策アドバイザーのアナ・ビホスカヤ氏は、労働組合運動の黎明期から男女の平等は重要なテーマとなっているとした上で、「性暴力は職場でもっとも黙認されている暴力で、あらゆる国の働く女性が経験している。国際労働機関(ILO)は今年6月にも職場でのセクハラ・性暴力を禁止する国際条約を制定する方針だが、そうした動きと並行して女性がもっとリーダーの立場に進出していくことが変化につながる」との考えを示しました。
連合の井上久美枝・総合男女雇用・平等局総合局長は、「日本ではハラスメント全般を罰する法律がないことに加え、“職場”を労働法における職場に限定しているため、就活の場や、顧客から受けるハラスメントは含まれていない。国内での世論を喚起し、ILOの新条約も早期に批准されるよう働きかけていく」と強調しました。
メディアで働く女性ネットワークの林美子代表世話人は、メディア業界におけるセクハラ・性暴力が2018年に立て続けにニュースとなる一方、セクハラを行った社員を処罰し、それを公表する企業も増えてきたことを指摘。「被害女性が声を上げられないできた構造を直視し、社会を変えていかなければならない」と訴えました。
トランスペアレンシー・インターナショナルのマリア・エミリア・ベラサテギ地球規模政策提言調整役は、汚職における男女差を取り上げ、「一般に女性官僚は収賄をしないと言われるが、女性が収賄できるだけの権限ある立場にならないことも理由の一つだ」とした上で、収賄側が女性に対して性行為を強要する事例についても警鐘を鳴らしました。
G20に向けたエンゲージメント・グループの一つで、女性に関する政策提言を行うW20日本運営委員を務めた経済ジャーナリストの治部れんげ氏は、「ハラスメントは弱い人に対して行われる。会社に所属していた時も、正規雇用の男性が非正規雇用の女性に対してセクハラを行い、被害者は失職を恐れて告発できないという実例を見た」と振り返り、女性が社会で指導力のある立場につくことがセクハラ抑止につながると述べました。また、男性の中にも職場における性的ジョークやハラスメントに不快感を抱く人は多く、そうした層と連携する必要があることにも触れています。
こうした問題提起を受けて、会場からは「就活をしている女子学生の多くが“彼氏はいるか”と聞かれたり、圧迫面接を受けたりしている。女性に従順な姿勢を求める日本社会の暗黙のルールが大きな壁だ」など、身近な女性たちが直面している仕事の場でのさまざまな課題に関する意見が交わされました。
3日にわたって開かれたC20では、女性やジェンダー・セクシュアリティに関する課題だけでなく、市民社会が関心を持つさまざまな分野が議論の俎上に載りました。市民社会からの政策提言書は安倍首相に手渡されましたが、今後は提言の内容を政府関係者やメディアをはじめとした、一人でも多くの人たちに広く伝えていく必要があります。ジョイセフはこれからも他のNGOや有識者などと連携し、積極的に政策提言活動を展開していきます。