「世界人口白書2019」日本語抜粋版の発行と、ナイロビサミットを記念するイベントを開催
2020.1.22
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ジョイセフは2019年12月18日、国連人口基金(UNFPA)、アジア人口・開発協会(APDA)と共同で、「世界人口白書」2019年版の日本語抜粋版の発行と、11月にケニアで開催されたナイロビサミット(ICPD+25)を記念して、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの25年~『残された課題』と私たちにできること」を参議院議員会館で開催しました。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念が提唱された国際人口開発会議(ICPD、1994年)の開催から25年。世界はもちろん日本でも、この分野ではまだ解決すべき課題が多数残されています。これらの『残された課題』に対してどのような取り組みをしていくべきか、ナイロビ・サミットに参加した国会議員や有識者を中心に議論しました。
ナイロビサミットに参加した増子輝彦参議院議員(国際人口問題議員懇談会副会長)は、開会あいさつの中で「アフリカを中心に、望まない妊娠によって起きている人口増加はもちろん、日本における極端な少子化は、いずれもリプロダクティブ・ヘルス/ライツが満たされていない状態」と指摘。企業や学術機関などとも連携して、費用対効果の高い対策を編み出すことが重要との考えを示しました。
世界人口白書2019日本語抜粋版の監修を担当した国立社会保障・人口問題研究所名誉所長の阿藤誠さんは、人口爆発に対抗するマクロ視点の人口抑制策として避妊や家族計画がとらえられていた時代から、ICPDを経て個人、特に女性の権利という視点への転換が起こったことを振り返り、この転換の象徴として、すべての人の権利である「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という言葉を位置づけました。また、途上国では多くの女性が、まだ子どもを産みたくない、あるいは間隔を空けて産みたいと思っていても避妊などができないこと(アンメットニーズ Unmet Needs)をはじめとして、リプロダクティブ・ヘルスに関連するサービスが届いていなかったり、ジェンダーの不平等がリプロダクティブ・ライツを阻害していたりするなどの現状を指摘し、ナイロビ宣言で掲げられた「避妊のアンメットニーズ、予防可能な妊産婦死亡、児童婚など女性・少女に対する有害な慣習の3つをゼロにする」という目標の重要性を強調しました。
その後、UNFPAの佐藤摩利子・東京事務所長をファシリテーターに迎え、ナイロビサミットに参加した黄川田仁志衆議院議員、産婦人科医の高尾美穂さん、ジョイセフ事務局長の勝部まゆみ、鷲見学外務省国際協力局国際保健政策室長が、どうすればリプロダクティブ・ヘルス/ライツを実現できるかについてパネルディスカッション形式で議論しました。
佐藤所長は、世界170カ国からおよそ8300人が集まったナイロビ・サミットは、あえて国連が主催する会議としなかったことで、自由な議論の場となったとした上で、ナイロビ宣言の中でセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)が大きな位置を占めるにあたって、SRHを含めたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進してきた日本が大きなプレゼンスを発揮したと指摘しました。
国際人口問題議員懇談会の一員としてナイロビサミットに参加した黄川田議員は、「日本にいると、世界の女性運動の流れがわからない。世界がどれほど女性の権利に関心を持っているか身をもって感じた。日本もこの流れを軽視してはならない」との見方を示したうえで、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の問題を、どのように世界の人口問題に還元していくかについても論じるべきではないか」と指摘しました。
ジョイセフ事務局長の勝部は、ジョイセフも日本の市民社会の一員としてナイロビサミットでコミットメントを発表したと報告した上で、「持続可能な開発目標(SDGs)達成期限の2030年までに、SRHRの積み残された課題も解決するという覚悟を感じた。そのためにも、法の整備だけでは不十分で、コミュニティに浸透させ行動に移していくことが重要だ」との意見を述べました。
長く総合病院の産婦人科で働き、開業医となった現在は産婦人科医兼スポーツドクターとして活動する高尾さんは、「日本では女性が避妊手段などを通して自分の体について自分で選択することが少ない。世界を通して見える日本があり、日本の現状にも目を向けることができる」と指摘。「医師として、ジェンダー格差や少子化といった問題により関心を持ち、もっと情報を発信できるのではないかと感じた」と語りました。
外務省の鷲見国際保健政策室長は、「今回、日本政府もコミットメントを発表した。日本はかねてからUHCに取り組んできており、SRHRはそのUHCの重要なコンポーネントの一部ととらえている。また、誰も取り残さない(No one left behind)という考えの下、特に女性を含む脆弱な立場の人々にしっかりと焦点を当てながら、『残された課題』に取り組んでいきたい」と述べました。
世界保健機関(WHO)が2020年を国際看護師・助産師年と定めたことに関連して、高尾さんは「ナイロビサミット後にケニアでクリニックを視察する機会があった。たまたま国立病院の看護師や検査技師などがストライキを行っている時に居合わせたが、それを民間病院が補っていた。医師が常駐していないクリニックでは看護師が患者対応を行い、保健ボランティアがそれを補佐するなど、現地の医療従事者が患者への医療サービス提供のために尽力している様子を目撃した」と、看護師・助産師がUHC維持に大きく貢献していることを指摘しました。
また佐藤所長が「ナイロビサミットの成功を受けて、国連でのSDGsのレビューやUHCの推進へのSRHRの盛り込みなど、チームとして日本でSRHRへの取り組みを進めていきたい」と述べたのに対し、黄川田議員は「具体的な数値目標などを示していかないと、予算が付けづらい。『3つのゼロ』のように理想的な目標を掲げるだけでなく、資金をどのように使い、具体的に何をどこまで達成するという計画をはっきり提示してほしい」と、立法府の一員としての見解を示しました。
APDAの楠本修事務局長は、閉会のあいさつで「ナイロビサミットでは、『ICPD+50はない』、それまでにすべての問題を解決するのだという覚悟に改めて衝撃を受けた。リプロダクティブ・ライツの重要性が周知されてきた現在の課題はどうやってこの権利を普及させ、実現していくかだ。ただ法律を作るだけでなく、どうすればすべての人の納得の上で女性の選択権を確保できるかを考えなければならない」と述べて、『3つのゼロ』を実現するために今後も協力していくという考えを強調しました。
会場には政府関係者、有識者・専門家、一般市民、学生、企業関係者、国際機関関係者、マスメディアなど100人近くの方の参加がありました。当日は国会が閉会中にも関わらず、末松義規衆議院議員、川田龍平参議院議員、福島みずほ参議院議員も出席し、メッセージを寄せました。