女性が選べる避妊手段が少ない日本
2020年7月21日、市民プロジェクト「#緊急避妊薬を薬局で」が、厚生労働大臣に緊急避妊薬(アフターピル)のアクセス改善を求める6万7000筆の署名と、薬局での緊急避妊薬の販売を訴える要望書を提出しました。
緊急避妊薬については、日本では2019年にオンライン診療での処方が認められましたが、性行為からできるだけ早く、72時間以内に服用しなければならないことを踏まえ、さらなるアクセス改善が必要という声が上がっていました。
緊急避妊薬へのアクセス拡大を訴える声の背景には、日本では女性が主体的に選べる避妊手段が極めて限られている実情があります。
1999年に、国連加盟国の中で最も遅く認可された経口避妊薬(低用量ピル)は、入手に病院やクリニックでの診察が必要なことに加えて、他国と比べると価格が高く、避妊目的では保険適用になりません。
もう一つの避妊手段である子宮内避妊具(IUD / IUS)は長期的な避妊効果がありますが、出産経験のない女性には勧めないクリニックが多く、費用も高いことが、若い女性にとって高いハードルです。
世界には、皮下に埋め込んで数年間避妊効果を維持できる避妊インプラントや、肌に貼って避妊効果を得られる避妊パッチなど、女性が自分で選んで使えるさまざまな避妊手段がありますが、日本では低用量ピルとIUD / IUSに限られている上、どちらも価格が高く、実際に使われる避妊法としてはコンドームが主流となっています。*1しかし、コンドームの使用は男性の意向に左右され、性交渉の時に毎回コンドームをつける男性は全体のおよそ半数。女性の10人に1人は、「コンドームをつけてほしい」とパートナーに伝えたのに、つけてもらえなかった経験があります。*2
*1 国連「World Contraceptive Use 2020」
*2 I LADY.意識調査「性と恋愛2019」
性教育などの普及と並行して「必要な人へのアクセス」を
避妊に失敗した女性や性暴力被害に遭った女性にとって、緊急避妊薬は望まない妊娠を避けるための最後の手段です。
緊急避妊薬を薬局で販売する前に、性や生殖についての知識を身につけ、適切な避妊を行うための性教育を普及させるべきだとの指摘もありますが、性教育などによる正しい理解の促進と両輪で緊急避妊薬へのアクセスを改善すべきだと、前述の市民プロジェクトは訴えています。
必要としている人が、必要な時に緊急避妊薬を入手できる環境づくりが重要です。
世界保健機関(WHO)、国際産婦人科連合(FIGO)、国連人口基金(UNFPA)などの国際機関は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が女性たちに与えるリスクを踏まえて、全ての人が緊急避妊薬をはじめとする避妊手段にアクセスできるようにすべきだと強調しています。
日本でも、COVID-19の拡大を受けた外出自粛の影響による中高生の妊娠相談件数の増加が報告されており、避妊手段へのアクセスの問題が注目されつつあります。
遠見才希子さん(産婦人科医、「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」共同代表)
世界保健機関(WHO)は緊急避妊薬を必須医薬品に指定しており、海外の約90カ国では薬局で購入できます。WHOは緊急避妊薬を医学的管理下に置く必要はなく、入手が容易になっても性的リスク行動は増加しないとしていますし、国際産婦人科連合も医師によるスクリーニングや後日のフォローアップは不要としていますが、日本では(悪用・濫用を懸念する声から)オンライン診療にも当初厳しい要件がつくなど、入手のハードルを上げる傾向があります。避妊は女性にとって健康維持に必要なものであり、権利です。避妊の失敗がなくなるように性教育を拡充することも大切ですが、失敗した時のための選択肢として緊急避妊薬が選べる社会であってほしいと思います。
- Author
JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします