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2021年7月11日 世界人口デーによせて

2021.7.9

2021年4月に国連人口基金(UNFPA)が発表した「世界人口白書2021:私のからだは私のもの~からだの自己決定権を求めて」は、昨年の白書を上回るインパクトがありました。

同白書によると、データがある世界57の開発途上国において、約半数の女性が、自分自身の身体に関わるパートナーとの性交渉、避妊薬・避妊具の利用、ヘルスケアについて、自分で決めることができません。世界の声なき声を凝縮させた4分15秒のビデオ ~Featuring real testimonials from around the world~ が突き付けるのは、人権や尊厳を奪うレイプ、処女検査、強制不妊手術、セクシュアルマイノリティーに対する差別と暴力、名誉殺人、包括的性教育の否定、等々が、女性、少女のみならず、いかに多くの人々を貶め、慟哭させ、失望させているかという衝撃的な事実です。

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)やジェンダーの平等をめぐる世界的に厳しい状況は、COVID‐19のパンデミック宣言から1年余を経て、数々の調査によっても明らかになっています。感染症対策が重視されたことで、通常の保健サービスの優先順位が下がり、開発途上国で妊産婦死亡や死産が増加したケースや、影のパンデミックと呼ばれる女性と少女への暴力や性的搾取に加えて、児童婚や女性性器切除(FGM)という有害な慣習も増えていることがわかっています。

一方、先進国に目を向けると、欧米諸国では、もともと減少傾向にあった出生数が、2020年は、前年を上回る減少率であると複数のメディアが報じました。日本の少子化も確実に進んでいます。2020年の出生数は84万832人で、5年連続で減少し過去最低を記録。

  
 
合計(特殊)出生率も1.34と、2019年から0.02ポイント下がりました。

  
 
さらに、COVID-19の影響で、2020年の5月以降、月別妊娠届出数は前年を大きく下回っており、2021年の出生数は、80万人を切るのではという予測もされています。

 
 
ここに、「子どもと幸福度-子どもを持つことによって、幸福度は高まるのか-」という興味深い調査があります**。この調査によれば、日本の既婚女性について、女性の就業の有無にかかわらず、子どものいる女性の幸福度の平均値が低くなっているというのです。幸福度を引き下げる決定打は明確にはわかっていないとしつつも、子どもを持つこと自体は女性の幸福度を高めているが、それ以上に、夫婦関係や女性に偏る家事・育児の負担が、女性の幸福度を下げる可能性が示されています。

世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)報告書2021年版による日本のジェンダーギャップ指数は、政治、経済、教育、健康の指標すべての順位が前年より落ち、総合で156カ国中120位。昨年の第5次男女共同参画基本計画策定に際して、30歳未満の若い世代から、1000件以上のパブリックコメントが寄せられ、中でも要望が多かったのは、「選択的夫婦別姓」の実現でした。しかし、「選択的夫婦別姓」という言葉は第5次男女共同参画基本計画から消され、先月、6月23日、最高裁は夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定を「合憲」と判断しました。15人のうち違憲とした4人の裁判官からは、「人格的利益が侵害されることを前提に婚姻の意思決定をせよというに等しい」「(選択的夫婦別姓)制度を導入しないことは、あまりにも個人の尊厳をないがしろにするもの」という意見が示されています。若い世代の期待を打ち砕き、希望を奪い続ければ、これからも、少子化の一途をたどることは必至です。

世界で、日本で、SRHRとジェンダーの平等、女性と少女のエンパワーメントの推進、そして誰一人取り残さない世界を目指す歩みは、前進と足踏み、後退を繰り返し、とりわけ、途上国で厳しさを増しています。しかし、志を同じくする市民社会、国連・国際機関、政府、研究機関が、声を上げ、行動を共にして、SDGsの達成を諦めないことが必要です。私たちジョイセフも、その一員として、決して立ち止まらず、努力し続けていきます。

*「子どもと幸福度-子どもを持つことによって、幸福度は高まるのか-」2021年4月25日、佐藤一磨、拓殖大学准教授、https://www.pdrc.keio.ac.jp/publications/dp/7094/、Panel Data Research Center, Keio University

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Author

勝部 まゆみ
UNDPのJPOとして赴任したガンビア共和国で日本の国際協力NGOジョイセフの存在を知り、任期終了後に入職。日本赤十字でエチオピア北部のウォロ州に赴任するために一旦ジョイセフを退職、3年後に帰国・復職。ジョイセフでは、ベトナム、ニカラグア、 ガーナ、タンザニアなどでリプロダクティブ・ヘルスプロジェクトに携わってきた。2015年から事務局長、2017年6月から業務執行理事を兼任し、2023年6月に代表理事・理事長。