知るジョイセフの活動とSRHRを知る

日本の学校の性教育は今どうなっている?現役の先生たちと共に知り・考えるイベントを開催(前編)

2024.7.22

2024年6月20日(木)に【ACTION for CSE:これからの性教育を考える〜学校教育は今どうなっているの?~】を東京都内の会場とオンラインで開催。性教育関係者、学校関係者、保護者、学生など幅広い層から参加がありました。

当日のプログラムは、以下の構成で実施しました。この前編では、第1部と第2部前半の内容をレポートします。
第1部:若者の意識を知る
第2部:ゲストトークセッション(篠原美香氏 x 櫻井裕子氏)
第3部:自身のSRHRを考える(会場参加者限定)
 


 

第1部:若者の意識を知る

「性と恋愛」意識調査

2019年からジョイセフ I LADY.が隔年で若者を対象に実施しているアンケート調査(2023年は5,800名が回答)の結果から見えてきた、若者の意識を共有しました。性に関する相談相手がいない若者が約3割いることや、性に関する情報源は「ネットやSNS」が第1位(51.0%)で、学校の授業や教科書は第4位(24.4%)であることなどが明らかになっています。

その他の結果や詳細は、こちらからご確認ください
性と恋愛 意識調査2023

世界と日本の性教育

国連教育科学文化機関(UNESCO)発行の『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(以下、ITSE)で示されている包括的性教育について紹介しました。
包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education:CSE)の定義には「セクシュアリティの認知的、感情的、身体的、社会的諸側面についての、カリキュラムをベースにした教育と学習のプロセスである」と書かれています。また、フォーマルとインフォーマル両方の環境で提供されることやスパイラル(循環)型のカリキュラムアプローチを用いることもその特徴です。
そして包括的性教育の目的には、子どもや若者たちの健康、ウェルビーイング(幸福)、尊厳の実現と言ったことが挙げられ、一貫して人権の尊重が謳われています。
ITSEで掲げられている、9つの特徴と8つのキーコンセプトは以下の通りです。

イベントでは、キーコンセプト「性と生殖に関する健康」の項目の一つ「妊娠、避妊」の学習目標と、日本の学習指導要領の記載内容を比較しました。

第2部:ゲストトークセッション

学校で性教育を教えるお二人が登壇し、イベント参加者限定で授業中の様子を映した写真も共有しました。貴重なお話から一部を抜粋して、ここでご紹介します。

ゲスト

篠原美香氏:公立小学校養護教諭
長野県出身。埼玉県の公立中学校で25年間勤務ののち、小学校勤務5年目。小学生の頃より「保健室」と「思春期」と「性教育」に興味があり養護教諭に。性教育専門誌『季刊セクシュアリティ』(エイデル研究所)の75号~104号まで編集委員を務め、同誌97号~106号までの連載「かえる通信」を担当。養護教諭の専門誌『健康教室』(東山書房)では年1回のペースで実践を掲載。“人間と性”教育研究協議会 さきたまサークル代表

櫻井裕子氏:助産師 さくらい助産院開業 思春期保健相談士 日本思春期学会性教育認定講師
自身の妊娠・出産を機に助産師を目指す。大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、現在、地域母子保健活動として、産前産後ケア訪問、養育支援訪問、出産準備クラス講師等の実践、看護専門学校や助産専攻科で非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生&保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間100回以上行っている。(2023年度157回)著書に「10代のための性の世界の歩き方」時事通信出版局
一般社団法人 埼玉県助産師会プレコンセプションケアプログラム普及啓発事業主任
埼玉県母性衛生学会理事、一般社団法人 ”人間と性”教育研究協議会全国幹事、一般社団法人 彩の国思春期研究会理事 等

今の日本の学校の性教育の状況は?

今の日本の学校の性教育の状況について、感じていることを教えてください。

篠原さん:
性教育の必要性を感じている教員は多いと実感しています。一方でそれが実践に結び付くか、複数の教員と繋がって学年や学校単位で実践できるかどうかは、学校によって全く違うという状況です。

日本の性教育を語るときに必ず「はどめ規定」がセットで語られますが、必ずしも学校現場で「はどめ規定」が影響して性教育が進まないというわけでも、実はないんですね。その理由は、①大人自身が人権や性に関する学びをまともに受けてきていないこと、②「性」に社会のネガティブなイメージが影響していること、③教員が忙しすぎることが挙げられると思います。

ちなみに「はどめ規定」について、本来学習指導要領に示されてない部分も指導可能であることは、文部科学省の毎年の指導者講習でも伝えられているものです。しかし、あまりにも日本の性教育が「はどめ規定」とセットで語られてしまうので、誤解やネガティブなイメージが生じていて、この二次的被害の方が大きいかなとも思っています。これからは日本の性教育と包括的性教育をセットで語るといいかなと思いますので、ご参加の皆さんやメディアの方にもぜひお願いしたいです。

櫻井さん:
私は外部講師で、呼んでいただける学校は「はどめ規定」とかを言い訳にしないので、すごく恵まれた立場で実践させていただいているなと思います。一方で呼んでいただけない学校は、ほとんどが「お金がない」「時間がない」というのがその理由です。今篠原さんのお話を伺いながら、裏付けが取れたような気がしました。

篠原さんは、性教育をどんなふうに捉えていますか。性教育を学校で実施するときに意識されていることを教えてください。

篠原さん:
先ほど学校現場が忙しくて性教育が進んでいかないという話をしました。とはいえ人が生きていく上で人権・多様性・ジェンダー平等などがベースの包括的性教育は絶対必要なものなので、担任の先生に自習時間や隙間時間をもらったり、一緒にやりましょうという感じで進めています。

また、なるべく授業参観で保護者の方にも見ていただくようにして、子どもと一緒に大人が学んでいくというスタイルにしています。そうすることで授業で学んだ内容を、子どもも大人も日常の中に落とし込んでいけると考えているからです。

一度の授業ではなく繰り返し繰り返しの学びが必要だなとも考えています。外部講師を招いた場合も、その後引き継いで落とし込むのは学校の仕事です。性教育をきっかけに子どもたちの距離がぐっと近くなって、ちょっと保健室行ってみようっていうふうに保健室や養護教諭を活用してもらえるようになるという実感をもっています。

櫻井さん:
外部講師はそのときに会う子どもたちの過去も知らないし、未来に責任を持てるわけでもないので、自分の限界に自覚的でなければいけないというのが、私が考えている大事なことの一つです。そして、限界があるからこそ連携が最も大切かなと思っています。篠原さんが言うように、後から引き継ぎやすいような外部講師でもありたいし、話した内容を現場の先生と共有する時間も大事にしたいなと思っています。

篠原さん:
昨年度から始まった「生命(いのち)の安全教育」は子どもを被害者にも加害者にも傍観者にもしないという限定的な意味合いなので、本校では性教育の一環としてやっています。同時に、加害をする大人を生まないための研修も本校ではセットで実施しています。

子どもが被害に遭い続けている社会を生み出している大人側の責任は変えていかなければいけない、性の学びも不十分なままで放置されているという日本の社会は変えていかなければいけないとも思っています。

櫻井さん:
加害する大人を生まない取り組みがどんなものとはどんなものですか。とても気になったのですが。

篠原さん:
教員向けの人権の研修をやったり、毎月1回、管理職から教員に対して不祥事防止研修が組まれています。学校内に危ない場所や隠しカメラがないか実際に探してみる活動をしたりしました。

お二人は、どんな性教育を実践している?

具体的にどんな内容の性教育を実践していますか。また、それに対して児童や生徒からどんな反応がありましたか。「自分ごと化」してもらうために工夫していることもあれば教えてください。

篠原さん:
各学年で性教育を実施していて、例えば2年生でやった「同意」と3年生でやった「多様性」が6年生にきて「同意と境界」「多様な性 ジェンダー」と繋がっていくというように、まさに『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』で言うところのスパイラルのような感じでやっています。小学校だと性的同意まではいかないですが、それぞれ気持ちは違うよということだったり、からだ・気持ち・考え方・持ち物には境界線があるよねっていう話をします。

指導資料には様々な動画や絵本を活用しています。例えば『あっ!そうなんだ!わたしのからだ』(編著:中野久恵/星野恵、エイデル研究所)や、「【福岡県】小学校高学年向け性暴力根絶啓発動画『境界線ってなに?』」(福岡県性暴力根絶チャンネル)などです。
児童には性器の名称も伝えていますが、聞いて抵抗があるのは大人だけで、子どもたちはからだの名称の一つとしてちゃんと聞いてくれています。また例えば女の子のトイレでの性器の拭き方は大人でもないと意外と知らないことがあり、保護者の方と一緒に学んでいます。

自分ごとへの工夫としては、やはり繰り返し繰り返しが大事かなと思っています。保健室に本を置いたり、日常の会話を捉えたりとかして繰り返すというようなことをやっています。

外部講師として様々な学校で性教育を実施されている櫻井さんはいかがでしょうか。

櫻井さん:
先ほども言ったように、子どもたちの過去も知らないし、未来にも責任を持てないので、できるだけせっかく出会った子どもたちが有意義に時間を過ごせるようにしたいと思っています。誰一人傷つけない、全ての人を救うみたいなことはできないなと思いながらも、できるだけその時間が地獄の時間にならないように進めていきたいという思いです。
そのために事前にできるだけアンケートを取ってもらい、子どもたちの実態を可能な限り把握して、個別の質問に答えるかたちで準備しています。テーマ、学校として話してもらいたいことなどもそれぞれなので、おのずと内容も毎度異なります。そんなふうに工夫しています。

授業や講演のごく一部で実施している、コンドームの装着実習の様子をお話しします。
苦手な子、コンドームを触れない、嫌な思い出があるという子もいるので、苦手な人や嫌な人は参加しなくてもいいよという配慮は欠かせません。ある高校の3年生全員が参加した回でも何度も何度も声をかけながら実施しましたが、退席した子は1人もいませんでした。コンドームを触りたくない子たちのグループは、じっくりパッケージを読んでいました。
この学校ではコンドームワークの後、3年間一度も使わなかった子たちが保健室になだれ込むように来てくれたというミラクルが起きたそうなんです。試供品のコンドームを持って帰りたいというのもありましたが、それに付随してこれまで悩んでいたけど打ち明けられなかったことを養護の先生に話し、そこから繋がり、生きた関わりが生まれました。
コンドームワークをしただけで、相談相手として保健室を使っていいんだなという認識が生まれたのはすごく大事なことだなと思います。

また、他の学校では、コンドームを完璧に付けられると立候補してくれた子にやってもらったところ、ちょいちょい間違っていたんですね。それを別の子が隣から指摘をしてくれて、大人が介入しなくても子ども同士で学びになっていました。これもコンドームワークのパワーだなと思います。
コンドームワークでお互いの指を借りるときには、性的同意もセットでお伝えしています。指を貸すのを嫌だなって思ったら断ってください、嫌だなと言われたらそれまでの関係性を振り返り、反省して、なぜ嫌だったのかっていうことを考察するっていう時間にあてましょうという感じです。
コンドームワークはコンドームの使い方を正しく知ってほしいということもありますけど、ワークをともにしたことで連帯感が生まれ、そしてまた話しやすくなっていくんです。こういう空気を作り出すことも、性教育の中では必要なのではないかと思っています。

後編へつづく

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