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中近東情勢とSRHR 〜紛争地におけるSRHR〜 (世界のSRHRニュース:特別編)

2024.10.23

2023年10月にイスラム組織ハマスが、イスラエルに大規模攻撃を行ってから一年が経ちました。紛争はおさまるどころか、イスラエルのパレスチナ自治区への報復が苛烈化、多くの犠牲者が出ています。2024年10月22日現在、その攻撃範囲はレバノンまでおよび、特殊兵器などによる「過剰攻撃」も行われ、民間人の犠牲者も増えて制御不能状態に陥っています。

紛争時、まず犠牲になるのは、女性や子どもたち、高齢者など脆弱な立場に置かれた人々です。そして、特に見逃されがちなのは、SRH(性と生殖に関する健康)に関するニーズです。IPPF(国際家族計画連盟)パレスチナ(PFPPA)のアマル・アワダッラー事務局長は、「もちろん、水やシェルターも大事ですが、SRHサービスの提供も人々の命を救います」と述べています*。人道危機下では、支援団体が「ディグニティ・キット(尊厳を保つために必要な生活必需品)」を避難所などで配布します。生理用品、歯ブラシ、サンダル、くし、懐中電灯などをセットにし、女性・女児が尊厳を持って生活できることを第一に考えられたものです。

とはいえ、現状では、出産を受け入れる病院や施設が破壊され、妊産婦は栄養失調に陥り、麻酔なしで帝王切開が行われ、新生児は発育不全を免れない状況です。レイプなどの性的暴力、予期しない妊娠が増え、安全でない中絶が行われます。爆撃で物資の保管場所がなく、ガザ内部に人道支援物資が到達していないともいわれています。

2024年10月10日、ガザ中部では、支援活動が行われていた学校が空爆され、28人が死亡、98人が負傷しました1)。IPPFを始めとした国際NGO団体のスタッフは、自らの命をかけて、支援活動を継続しています2)。 ファドア・バハッダIPPFアラブ世界地域事務局長によれば、「ガザの子どもたちは毎朝手に名前を書いて、死んだときに身元がわかるようにしている」とのことです。

求められるのは、即時停戦です。紛争地の老若男女、すべての人間ひとりひとりの尊厳が尊ばれ、犠牲者が数で数えられる状況が終わり、子どもたちが学校に通い、人々が仕事をして、何にも怯えることなく食卓を囲める日が一刻も早く訪れるよう、祈らずにはいられません。

1) ガザ・現地パートナー団体AEIのスタッフ7名が死傷|日本国際ボランティアセンター2) 中近東地域の医療従事者に対する暴力の拡大に関する声明 |IPPF

* PFPPAアワダッラー 事務局長が語る現地の状況 (2024年5月24日)

 

  • (編集後記)
    中近東紛争のニュースを聞くにつけ、思い出されるのは数年前に映画館で観た「存在のない子供たち」です。中東のスラムで暮らす12歳のゼインは、無責任に子どもを生みっぱなしにする両親の元に生まれ、学校も行けず、妹の面倒をみるギリギリの生活を送っています。ところがある日、妹は知り合いの年上の男性と強制的に結婚させられてしまい……という、今考えると、SRHRの問題が全編に散りばめられた作品でした。あまりの悲惨な状況に、劇場を出て放心してしまいましたが、レバノン人のナディーン・ラバキー監督の「現実はこれより悲惨なのです」というコメントが、心にずっと残っています。

    (すなみ)

Author

ジョイセフ 編集室