米国・トランプ大統領の再任に寄せて

2025.1.23

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1月20日に米国で第2次トランプ政権が発足したことで、これまで多くの人々が長年にわたり血と汗を流して勝ち取ってきた権利が再び奪われ、世界中で人類が積み重ねてきた進歩と逆行することにジョイセフは強く懸念します。

トランプ政権がジェンダーの多様性を否定し、男性と女性しか認めない大統領令が署名されました。これにより、LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング/クィア)を含む性的マイノリティの人々が自らの健康を守りながら、自分らしく生きる自由というすべての人が生まれながらにもつ権利が奪われてしまいます。

さらに、米国政府による「DEI」(多様性、公平性、包摂性)の取り組みが終了したことで、性的マイノリティのみならず、障害者、非白人、女性など多様な人々が再び社会の周縁へと追いやられ、活躍の場を奪われることが危惧されます。すでに複数のグローバル企業がこの動きに追随する姿勢を示していることから、その影響が米国内にとどまらず、世界中に広がることが予測されます。

また、世界保健機関(WHO)への最大拠出国である米国の脱退は、世界の公衆衛生、さらには個々人の健康に深刻な悪影響を与えます。トランプ政権で保健福祉省長官に就任したロバート・ケネディ・ジュニア氏が反ワクチン論者であることは広く知られていますが、感染症が国境を越えて急速に拡大する今日において、WHOからの米国脱退がもたらす地球規模の公衆衛生への悪影響は計り知れません。

さらに、地球温暖化による気候変動は、温室効果ガスの排出量が少ない低・中所得国の住民を中心とした36億人以上に多大な影響を与えています。これらの人々は、気候変動の影響以前に、社会的・経済的・文化的要因によって保健サービスへのアクセスが制限され、自らの健康を守る権利が脅かされてきました。特に女性は、気候変動がもたらす負の影響を強く受けます。「パリ協定」からの米国の離脱は気候変動を加速させるだけでなく、トランプ政権によるジェンダー不平等の扇動と相まって、女性のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)にさらなる悪影響を及ぼします。

また、米国の対外援助をすべて90日間停止し見直すとする大統領令は、特に低・中所得国や紛争下にある人々の健康を著しく低下させることが懸念されます。これに加え、共和党政権下で繰り返し復活してきたグローバル・ギャグ・ルールは、SRHR推進活動の鈍化を招き、母子保健、家族計画、安全な中絶、思春期保健、HIV/エイズを含む性感染症対策を後退させる恐れがあります。

トランプ政権の政策は分断を一層深め、米国内のみならず、世界中にその影響が広がることをジョイセフは危惧しています。この分断は、すでに脆弱な立場に置かれている人々の状況をさらに悪化させ、新たに多くの人々を脆弱な立場へと追いやるでしょう。結果として、より多くの人々のSRHRが危機にさらされることになります。

SRHR for All- すべての人にSRHRを。ジョイセフの推進するSRHRは基本的人権の1つです。性に基づくあらゆる差別、強制、搾取、暴力を受けることなく、必要なヘルスケアにアクセスでき、すべてのひとの尊厳と健康が権利として守られる社会の実現が求められています。

ジョイセフは米国政府からの支援を受けていないため、私たちの活動そのものが直接的に縮小されることはありませんが、ジョイセフが連携している企業の中にはトランプ政権の発足により、これまで積極的に推進してきた多様性への取り組みをやめる、と公表したところも出てきました。今後確実にトランプ政権による悪影響が降りかかってくることが予見されます。

ジョイセフは、トランプ政権の負の影響を受ける人々を少しでも減らし、その影響を緩和するため、草の根レベルでのSRHR情報提供やヘルスケアへのアクセス促進活動、そしてすべてのひとのSRHRを守るためのグローバル・アドボカシーをさらに強化していきます。これまでの歩みを止めることなく、引き続き皆さまのご協力をいただけますと幸いです。共に力を合わせてこれからも前進していきましょう。

ジョイセフ事務局長 山口悦子