先日、ガーナからとても嬉しいニュースが飛び込んできました! 2012年にジョイセフがコウ・イースト郡に新設した保健センターに、10年越しでやっと専属の医師が配置されたのです! 病院がまだ無い同郡では、初の出来事です!
当初から医師の配置が望まれ、小さな手術室も整備したのですが、医師が絶対的に不足しているガーナ*。なかなか叶わず、ずっと隣郡の病院から定期的に医師に巡回してもらって凌いでいました。だから緊急手術は無論、医師の診察が必要な人たちは隣郡まで行く必要がありました。この地域の住民は貧困層がほとんどで、保健施設まで行く交通費の捻出が難しいうえ、公共交通がほとんど無く、タクシーは高額で、隣郡に行くのは大きな負担です。
だからこそ、医師の配属は大きなニュース。真の意味で10年以上前に私たちが目指した同郡における「質の良い医療へのアクセス向上」が叶いました! 実現に向けて、コウ・イースト郡のあるイースタン州の州保健局長が動いてくださったとのこと、長年、同州で事業を行ってきたジョイセフの実績が認められ、州保健局と信頼関係が構築できた成果でもありました。
*ガーナにおける人口1万人あたりの医師の数は1.64人(日本は26.14人)(WHO, 2020)
ジョイセフの支援が始まったオフォスさんとの出会い
ことのはじまりは、いまでも昨日のことのように鮮明に記憶に残っています。
2011年、私は新たなプロジェクトの形成のため、ガーナ中を回ってニーズを調査していました。現地のパートナーNGOが集めた情報をもとに、「保健サービスへのアクセスに課題がある」と報告を受けたいくつかの郡を訪問しましたが、支援できる環境や条件が整ってないなどでそれぞれ決め手に欠け、首都アクラに戻って仕切り直そうかと話していたところ、現地NGOのボランティアから、「予定外の場所だけど、どうしてもコウ・イースト郡の状況を見て欲しい」と言われました。その時いた場所の近くだったので、ついでだから、と行ってみることになりました。
突然の決定だったためアポ無しでしたが、ニーズを聞き取るために郡保健局を訪問しました。外出していた局長に代わって年配の女性の保健師長が対応してくれました。ところが、「この郡に保健サービスへのアクセスの課題はありますか?」と伺ったところ、彼女は「私たち郡保健局はとても頑張っていて、すべてうまく行っています!妊産婦の保健サービス利用率も高く、この郡には何も問題は無いです!」と、胸を張って答えたのです。
現地NGOのボランティアによると、コウ・イースト郡は2008年に隣の郡から切り離されて新設されたばかりで病院も無く、保健センターや診療所の数も不十分とのこと。ガーナ最大の川が横断するこの地域は、医療へのアクセスが難しい村が沢山あることが容易に想像できました。プロジェクト実施には保健局との連携が欠かせません。「ニーズが無い」と言うところに押しつけてもうまくいかないと判断し、「それは素晴らしいですね! 引き続き頑張ってくださいね!」と保健局事務所を出ようとしたその瞬間でした。一緒にいた現地NGOのボランティアの携帯が鳴ったのです。それは外出中だった局長からの電話でした。
局長は、オフォスさんという方でした。どれほど保健施設が郡に不足しているか、そのために妊産婦の健診や施設分娩率がどれほど低いか、「明日、もう一度来てくれないか、郡の現状を見せたい」と必死でした。保健師長と私のやりとりを聞いていた保健局のスタッフが局長にこっそり電話したようで、慌てて連絡を入れてくれたようです。間一髪! この話は今では懐かしい話。オフォスさんと会うたびに、思い出として話しています。
オフォスさんとは、その後も彼が異動した先の郡でも事業を行うなどずっとパートナーシップは続いており、今ではジョイセフの一員のように、ジョイセフの理念を保健局内はじめいろいろな人たちに広めてくれています。これが皮切りとなり、ジョイセフは今日もコウ・イースト郡を含むイースタン州の7つの郡を支援しています。そして、今年2023年には、コウ・イースト郡は州内で最初に支援を卒業する予定です。この12年間、ジョイセフは同郡内外のあらゆる人々と連携して、保健センターや診療所、ユースセンターの新設、医療者の研修、地域保健ボランティアや若者ピアエデュケーターの養成を行ってきました。
また、地域保健活動を地域の人々の手で維持・継続させるために、地域保健管理委員会や若者諮問委員会のメンバーの能力を強化したり、地域を挙げた収入創出活動を導入するといった協力を、郡内ヴォルタ川地区で展開してきました。その協力の成果がかなり地域に根付いていることが確認できたため、同郡での事業を一旦終えることにしました。ですが、今後も折に触れて、ジョイセフの現地スタッフが訪問し、状況をモニタリングしていく予定です。
これからも、よりサステイナブルに、よりレジリエントに
長いようで短いようでいろいろあった12年。始まりを知っている者として、本当に感慨深いものがあります。多くの方々に支えられたコウ・イースト郡での10年以上にわたる試行錯誤から、ジョイセフは多くの教訓を得ました。これらの教訓のおかげで、ガーナの他の郡や、ガーナ以外の国での、ジョイセフの地域に根ざした活動が、より効果的・効率的に、よりサステイナブルに、よりレジリエントになっています。
これまでコウ・イースト郡をサポートしてくださった日本とガーナの皆さま、事業実施を支えた数々のジョイセフスタッフの皆さん、おめでとうございます! そして、本当にありがとうございました!
- Author
山口 悦子
2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。