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日本の学校における性教育は今どうなっている?現役の先生・講師と共に知り・考えるイベントを開催(後編)

2024.7.22

2024年6月20日(木)に【ACTION for CSE:これからの性教育を考える〜学校教育は今どうなっているの?~】を東京都内の会場とオンラインで開催。性教育関係者、学校関係者、保護者、学生など幅広い層から参加がありました。

前編では、第1部および第2部の前半、日本の性教育の現状やお二人の実践についての内容をお伝えしました。後編では、第2部の後半、大人の反応や包括的性教育を実現していくために必要なことについて、そして会場限定で実施した第3部のI LADY CARDワークショップの模様をレポートします。


第2部:ゲストトークセッション

学校で性教育を教えるお二人が登壇し、イベント参加者限定で授業中の様子を映した写真も共有しました。貴重なお話から一部を抜粋して、ここでご紹介します。

ゲスト

篠原美香氏:公立小学校養護教諭
長野県出身。埼玉県の公立中学校で25年間勤務ののち、小学校勤務5年目。小学生の頃より「保健室」と「思春期」と「性教育」に興味があり養護教諭に。性教育専門誌『季刊セクシュアリティ』(エイデル研究所)の75号~104号まで編集委員を務め、同誌97号~106号までの連載「かえる通信」を担当。養護教諭の専門誌『健康教室』(東山書房)では年1回のペースで実践を掲載。“人間と性”教育研究協議会 さきたまサークル代表

櫻井裕子氏:助産師 さくらい助産院開業 思春期保健相談士 日本思春期学会性教育認定講師
自身の妊娠・出産を機に助産師を目指す。大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、現在、地域母子保健活動として、産前産後ケア訪問、養育支援訪問、出産準備クラス講師等の実践、看護専門学校や助産専攻科で非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生&保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間100回以上行っている。(2023年度157回)著書に「10代のための性の世界の歩き方」時事通信出版局
一般社団法人 埼玉県助産師会プレコンセプションケアプログラム普及啓発事業主任
埼玉県母性衛生学会理事、一般社団法人 ”人間と性”教育研究協議会全国幹事、一般社団法人 彩の国思春期研究会理事 等

周囲の大人の反応は?

学校の先生や保護者といった大人の反応はいかがですか。

篠原さん:
性教育の必要性は教員も保護者も感じていて、恵まれたことに反対を受けたことはありません。保護者に対しては、授業参観の他に保健だよりで取り上げたり、学校公開で性教育に関する書籍を展示したりもしています。保護者から、「どんな感じで子どもと性の話をしたらいいか」といった相談を受けることも増えてきました。また、取り組みの一環として、子どもと大人がただただ楽しい時間を過ごすということも大事だと考え、月1回いろんな教員が本を読み聞かせることもしています。

子どもは大人の姿勢を本当によく見ていて、大人の差別的だったり偏見がかったりした意識に結構影響されます。なので、大人がしっかりと人権を学ぶことそして、大人も人権を大切にされなきゃいけないと職場では意識しています。

櫻井さん:
保護者の方たちからの反応はとても前向きでポジティブなフィードバックが多く、あまり批判的な意見を聞いたことはここ最近ではありません。ただ助産師が外部講師として性教育に伺うとどうしても命の誕生、赤ちゃんおめでとうみたいなイメージがすごく強いようで。助産師さんの性教育ってこうだよね、っていうバイアスを取り去りたいなとは思っています。

包括的性教育を実現していくには?

包括的性教育を実現していくにあたって、学校教育はどうあるべきでしょうか。そして大人はどんなことを知っておく必要がありますか。ご意見をお聞かせください。

篠原さん:
よく「発達段階に応じて」と聞きますが、子どもの発達段階はとても個人差があって定義が難しいです。なので(所属している)”人間と性”教育研究協議会(性教協)では「発達段階」を「発達要求」に変えて、子どもの知りたいにこたえる集団での性教育として、権利である性的発達を保障していくというふうに考えています。そのためにまず、子どもの人権を大切にできる大人を増やしていきたいなと思っています。
大人も大切にされていないような日本の社会なので、人権が大切にされてないよねというところからスタートして、みんな忙しい中頑張ってるよねという他者へのリスペクトを大事にしながら、性教育にポジティブなイメージを持ってこれからもやっていきたいなと思っています。

包括的性教育を進めるためには、外側からせめていくことも必要なのかなとも思っています。包括的性教育推進法の制定を目指してネットワークが立ち上がっていて、署名も行っていますので、ぜひ見ていただければと思います。

授業をする機会がない方も、社会が良くなるように働きかけることはできるはずです。投票に行ったり、関心を持って署名したり、まずは自分自身のことを大切にしながら、自分ができることをできることからやっていくということでいいかなと思っています。

櫻井さん:
私の方からは先ほど(コンドームワーク実践の)写真でお示ししたように、学べばあんなに楽しそうなんです。彼らの楽しそうな表情を大人たちみんなが目に焼き付けておいてほしいなと思います。そうすれば何をしなくちゃいけないかっていうのもおのずとわかってくると思います。ぜひ、彼らの楽しそうな顔を忘れないでください。

参加者からの質問1:
大人への性教育というのはどのように捉えて、世の中に浸透させていくのが望ましいと思いますか。

篠原さん:
学校はどうしても対保護者が多くなってしまうので、子どもの教育を通して大人も知るということになりますかね。皆さん本当に関心は高いです。
教員研修でも、女性ホルモンの影響など更年期の話をしたこともあります。企業でも性別問わず受ける生理研修など増えているようですね。

櫻井さん:
学校での性教育で大人向けとなると、PTAからご依頼いただいた機会などをチャンスに活かしたいと思っています。篠原さんもおっしゃったように、子どもたち向けの性教育の講演会のときに、できるだけ保護者参観を呼びかけることもお願いしています。学校や学年によって、保護者の参観率が非常に異なるというのが課題の一つですね。
私は助産師なので、産後ケアの家庭訪問の中で性教育に関連してふと漏らした言葉、例えば
「いくつから性教育をやったらいいでしょうか」などを捉えるようにしています。皆さんそれぞれの立場で、今だと思ったところで捉えていくのは大事かと思います。

参加者からの質問2:
お二人が思い浮かべる「これからの性教育」はどんなものでしょうか。また、それに向けて外部講師にはこれをぜひやってほしいなという学校の先生の意見、学校の先生にはぜひこれをやってほしいっていう外部講師の意見もお聞きしたいです。

篠原さん:
これからの性教育はまさに、包括的性教育を進めていきたいな思っています。子どもの人権を大切にできる大人たちが、いろんな機会を通じて性教育を行えるといいなと思います。例えば小学校ではあんまり自分に引っかからなかったという場合も、先々で出会った大人が包括的に性教育、性、人権に関わることで、どこかで引っかかることがあるかもしれません。教員や外部講師でない立場の方も、目の前の子どもたちの人権や性教育のことには大切に関わっていってほしいなと思います。
以前中学校に勤めていたとき、助産師さんを呼んだ性教育の後に、保健室に相談に来てくれたカップルがいました。外部講師の話がなければ相談に来てくれなかったかなとも思ったので、いろんなチャンスがあるといいなと思います。

学校は招いて終わりではなくて、その前後に授業をやるなどして分厚くできるといいなと思っています。実際以前勤めていた市では助産師さんと連携をしてそのようにしていて、効果的だなと感じました。学校としては招いて終わりじゃなくします!というところですかね。

櫻井さん:
外部講師でも1回限りで終わらず、継続的に学校に入れていただいて授業や講演をさせていただくと、私が伝えられることを継続的にスパイラルに伝えていくことができる。そのようにしていただけると私も楽しいし、やりがいを見つけられるしいいなと感じます。
1回の授業をするにあたっては、事前に念入りな打ち合わせを2時間ぐらい、そして授業が終わった後にも振り返りをします。昨日行った学校では2時間半振り返りました。
先生方との共有を通じて、次なる課題を見つけられるし、希望も見つけられる。こういうふうに中と外、フォーマルとインフォーマルが両方で連携し合って子どもたちの未来の健康と幸せのために役立っていけたらいいなと思います。

最後に一言ずつ、お願いいたします。

篠原さん:
一人よりはなるべく仲間と繋がって性教育するといいかなというふうに思っています。繋がることが子どもたちのためにもなるし 、たくさんの仲間がいて今できてるなという実感があります。
ぜひ今はいろんな繋がり方やいろんな団体さんがあるので、ここで自分は居心地がいいなとか勉強できるなというところを探して、やっていっていただけたらと思います。

櫻井さん:
私たちって子どもたちに性に関して「困ったら相談してね」と言いがちで、それも大事なことだと思うのですが、本当に困ったことがあったときってなかなか相談できないですよね。本当に困ったことがあったときにそれを言語化するって難しいことだなと、経験上思っています。篠原さんの話にもありましたが、ここでまとめの一句。「困る前に語れる仲間」。以上です。

第3部:自身のSRHRを考える

会場参加者の皆さんと一緒に、SRHR NOTEとI LADY CARDを使ったグループワークを行いました。

SRHR NOTEの詳細はこちら
I LADY CARDの詳細はこちら

I LADY CARDは「SRH」を用い、「自分の『性』をヘルシーに生きたい。どうする?」というテーマで、考えを掘り下げ、アウトプットしながら、参加者同士共有しあっていました。参加者からは「自分にとっての当たり前と他の人にとっての当たり前が違う気づきがあった」「年代や所属などが異なる人たちと包括的性教育について話す機会は普段なかなかなく、新鮮だった」といった感想がありました。

今回のイベントは、日本の若者の意識や日本の学校における性教育の実践を知る、そして、参加者自身のSRHRを考えるというプログラムで実施しました。今後もI LADY.およびジョイセフでは、包括的性教育実現に向けイベントなどを企画していきます。ぜひご期待ください!

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