知るジョイセフの活動とSRHRを知る

アフリカ4カ国・妊産婦と女性の命を守る5年計画プロジェクト~ジョイセフが妥協しない、プロジェクト期間終了後の「持続可能性」とは?  ①タンザニア編

2022.7.1

支援プロジェクトで一番大切なことは何か。ジョイセフは、「持続可能性」だと考えています。

支援期間が終了した後も、プロジェクトで実現した質の良いSRH(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス)のサービスが、変わらず人々に提供され続けること。住民が自らの健康を守っていけるよう、持続可能な仕組みが地域に残り、自立的な発展につながっていくこと。

そのために、ジョイセフは現地関係者にプロジェクトを引き継ぐ「ハンドオーバー」を重視しています。2022年3月にプロジェクト支援期間が終了したタンザニアでも、今後をしっかりと見据えたハンドオーバーが実現しました。

ジョイセフのような外部からの支援者がいなくなった後、現地ではどのようにして女性の命と健康を守っていくのか。タンザニアの人々とジョイセフは、地域社会で確実に続けられる方法を求め、半年以上にわたって話し合いながら、試験的な試みや見直しを重ねてきました。そして最終的には、一人ひとりが「これならできる」と自信を持てる、具体的で力強いプランを作り上げることができました。

(開発協力グループ 山口悦子)

 


 

5年間の計画を立ててアフリカ4カ国で進めてきた「アフリカの妊産婦と女性の命を守る~持続可能なコミュニティ主体の保健推進プログラム」(武田薬品工業株式会社の「グローバルCSRプログラム」支援)が、2022年に最終年を迎えました。

ジョイセフは、ケニア、タンザニア、ガーナ、ザンビアのそれぞれの国で「人づくり」を中心に据えた支援を行い、その国・その地域に合わせた活動を展開してきました。

プログラム名 アフリカの妊産婦と女性の命を守る~持続可能なコミュニティ主体の保健推進プログラム
期間 2018年~2022年(5年間)
地域 ケニア、タンザニア、ザンビア、ガーナの保健サービスへのアクセスが悪く、リプロダクティブ・ヘルスのニーズが高い地域

プログラムでは、妊産婦と女性の命を守るために5つの目標を掲げています。

①産前健診(妊婦健診)を4回以上受診する妊婦を増やす
②施設分娩、もしくは訓練を受けた介助者による分娩を増やす
③産後健診の受診率を上げる
④家族計画の利用率を上げる
⑤10代の妊娠を減らすために、若者のSRHサービスの利用を増やす

主な対象は、特に弱い立場に置かれている妊産婦や10代の少女です。少女たちは望まない妊娠やHIV/エイズを含む性感染症などのリスクや、児童婚・強制婚、性器切除など、人権や健康を脅かす慣習にもさらされています。
ジョイセフは、母子保健推進員や若者ピア・エデュケーターなどの地域保健ボランティアを養成するとともに、助産師を中心とする保健医療従事者にも研修を実施しました。その成果があり、5年間で、4カ国の延べ約135万人にSRHの知識やサービスが届けられています。


支援プロジェクトの真価は、終わった後に問われる。

プロジェクトが終了すれば援助のための資金が途絶え、外部から参入していた私たちは現場を離れます。何もしなければ、せっかく培った良い変化が途絶えてしまうかもしれません。

そのため、ジョイセフはどのプロジェクトでも「ハンドオーバー」という現地への引き継ぎに力を入れてきましたが、中には数年経つと活動が減ってしまったり、うまくいかないケースがありました。

2022年、アフリカ4カ国の5年計画プロジェクトが最終年を迎えました。最初に終了するタンザニアで、私たちはこれまで以上に確かな持続可能性を求めて、従来のハンドオーバーより大きく踏み込むことを決めました。

お金や物資が足りない中で、どうすれば地域保健を促進できるのか。ジョイセフのスタッフは現地の県保健局や「地域保健委員会」で話し合いを重ね、プランづくりに励みました。委員会に参加するのは、村のリーダー、保健医療従事者、プロジェクトで養成したボランティア、住民代表、伝統的リーダー、宗教指導者、教師など、地域の人々の健康増進を担うメンバーです。

従来のやり方であれば、たとえば書類に「この事業は保健局の予算で行う」と書くだけで終了していたようなプロセスも、今回は厳しく現実を見据えて話し合いました。「実際のところ、いくら準備できるだろうか? 本当に予算がとれるだろうか? もしとれない可能性があるとしたら、なくてもできる形を考えよう!」といった具合です。

村民の健康課題について話し合う、地域保健委員会会合の様子。従来のメンバーである村長や保健施設の医療従事者、伝統的リーダーなどに加え、ジョイセフのプロジェクトで養成された地域保健ボランティアや学校関係者が委員となり参加している。


 

SRHRの理解が深まる、大好評のフィルムショーを続けたい!
予算がなくてもできる方法は?

たとえば、プロジェクトで好評を博した「フィルムショー」というイベントについて、今後どうするのか相談した時のこと。この催しは、持ち運べるスクリーンとプロジェクター、発電機を携えて村々を回り、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ:性と生殖に関する健康と権利)を学べるビデオの上映会を行うものです。

フィルムショーの夜は、村の人々が楽しみに集まってきて、上映したビデオをきっかけにSRHRについて話し合います。するとその場で「夫が私の体のことを理解してくれなくて大変です」と一人の妻が言い出し、「いや、僕は理解しているつもりだが・・」と夫が反論するなど、男女が本音でぶつかり合う場面がありました。さまざまな意見をみんなで出し合い、性やジェンダーに関する理解が深められて、非常に実りある活動だったのです。「ぜひ続けてほしい」と地域の人々からも継続を望む声が寄せられていたのですが、問題は費用でした。

スクリーンやプロジェクターなどの器材は1セットしかなく、県の保健局で保管し、そこから村々へ貸し出すことになります。フィルムショーを行うためには、村まで車で行くためのガソリンや、発電機を動かすための燃料が必要です。しかし保健局の予算では燃料費を出すことが難しく、本来の業務である医療施設のモニタリング(現場での監督、支援、指導)さえ滞りがちでした。それでは一体どうすれば…。みんなでアイディアを絞るうちに、思わぬ解決策が出てきました。

現地では、さまざまな必要物資の配送や、時期によって期間限定で組まれる予算があります。たとえば医薬品を地域の保健施設に届けたり、マラリア予防の蚊帳を配送したり、結核対策の特別プログラムが実施されています。こうした目的のために対象地域に向かう車が出るので、今後はそのタイミングで一緒に器材を運んでもらい、フィルムショーを開催していくことになりました。

ボランティアの日当でニワトリを飼い、プロジェクト活動継続の財源にするアイディアも。

プロジェクト活動継続のための財源として、収入創出活動を始めたグループもいます。原資となったのは、地域保健ボランティアの人々が研修期間に受け取る日当です。仮に一人につき1000円が支払われたとして、そのお金はどのように使っても自由なのですが、現地のプロジェクトスタッフから「例えばニワトリのつがいを飼って増やしていけば、収入になって活動を継続できるよ」と提案したところ、実行に移した人たちがいたのです。

他にも、持続可能性を高めるための工夫を重ねました。プロジェクトでは、ジョイセフが養成した地域保健ボランティアが、オリジナルのツールを使って住民に正しいSRHの知識を広めています。例として、SRHをイラストと一緒に分かりやすく伝える「フリップチャート」や、SRHの改善に向けた行動変容を促すメッセージをまとめた「メッセージパッド」など。このようなツールも、ボランティアを卒業した人は返却して次の人に受け継ぐことにしたり、活動記録のための冊子も、新たに印刷するのではなくフォーマットをコピーして使ったり。細かい対策の一つひとつが大きな節約につながります。

このような話し合いから生まれたアイディアの試験運用、その結果を見ながらの計画の修正や練り直しといったプロセスは、実に半年以上にも及びました。そして最終的には「これなら大丈夫」とみんなが自信を持てる行動計画ができ上がり、このプランを発表して決起大会とする「ハンドオーバーセレモニー」を開催する運びとなったのです。

セレモニーは2022年3月22日、プロジェクト対象地域のタンザニア・バヒ県のあるドドマ州で行われました。ハンドオーバーに向けて尽力してきた一つひとつを文書に記録し、それぞれのプランの責任者がメンバーの前に立ち、今後の取り組みへのコミットメントを宣言しました。参加したのはバヒ県、ドドマ州、タンザニアの保健省および大統領府地方自治庁の各代表と、地域コミュニティや学校、ボランティアの代表者です。

5年前に事業が始まるまで、バヒ県におけるSRHの状況は非常に低迷していました。しかしプロジェクトの取り組みで大きく好転させることができ、この実りによってタンザニア中央省庁や州・県からも評価が得られ、事業継続への力強い約束につながりました。

大統領府地方自治庁の代表もハンドオーバーセレモニーに参加し、今後の活動継続へのコミットメントを宣言した。

プロジェクトによって恩恵を受けたことを語る支援地域の母親。

支援プロジェクトで達成した成果が、事業継続へのモチベーションを左右する。

タンザニアでのハンドオーバーが成功した理由のひとつとして、プロジェクトによって女性や妊婦の置かれた状況が大きく改善し、この成果を見た人々のモチベーションが高まったことが挙げられます。

【タンザニア・5年プロジェクトの成果】

成果項目 2017年(開始前) 2022年3月
妊婦健診を受けた割合(4回以上) 30.7% 102%*
専門技能者が立ち会う分娩 61.4% 99%
出産後48時間以内に産後健診を受けた割合 45% 99%
家族計画サービスを利用した10代の若者の数 2905人 2万5176人

*管轄地区外からの利用者も含まれるため100%以上になっています。

この成果を可能にしたのは、3つの具体的な取り組みでした。

①人々の意識と行動を変える「SBCC」

SBCCとは「社会・行動変容コミュニケーション」という意味で、相手の思いや考え方に働きかけて行動変容につなげる方法です。対象は支援地域に暮らす女性・少女たちとそのパートナーや保護者で、彼・彼女たちのSRHに関する知識を増やし、どこで必要な保健サービスを受けられるのか知ってもらうことから始めます。

保健施設に行くのを嫌がる人や、疑問を持つ人も少なくありません。背景には社会・文化的な規範や慣習、費用の心配、保健施設までの距離など、いろいろな理由があります。私たちのプロジェクトでは、自らも地域住民で、地域の人々に正しいSRHの知識を広める地域保健ボランティア(母子保健推進員、若者ピア・エデュケーター)を養成し、住民の不安や疑問が取り除かれるようにします。

女性・少女たちが保健サービスを受けるためには、コミュニティ全体の意識も変える必要があります。特に本事業の対象地区では、都市部に比べて男性の権限が大きいため、女性は男性の許可がないと通院が難しいといった状況があります。
そのため、タンザニアでは地域の男性を対象に意識・行動の変容を促す男性の地域保健ボランティアを養成したり、コミュニティの伝統的リーダーとも話し合いを重ね、女性・少女の命を大切にすること、そのために保健サービスの受診が必要であることへの理解が広がるように務めてきました。

さらに、サービスを受けたい女性・少女が一人では行けない場合は、地域保健ボランティアが施設まで同行する仕組みも整えています。

②質の良い保健サービスを実現する「人づくり」

女性や若者が保健施設を訪れても、良いサービスが受けられなければ二度と来てくれません。そこで保健医療従事者に研修を実施し、利用者への親切な対応や質の良いサービスなど、提供する側の態勢を整えました。医療器材や避妊具・避妊薬なども取り揃え、利用者のニーズに応えられるようにしています。

③地域保健システムを強化する

地域保健システムは、地域で健康づくりに取り組む仕組みのことで、「プライマリー・ヘルスケア・システム」とも呼ばれます。疾病予防・健康増進・治療・リハビリ・緩和ケアが含まれ、タンザニアでは主に医療従事者、診療所や保健センター、それらを起点として遠隔地にサービスを届けるアウトリーチ・サービスが担っています。

このシステムを強化することが、5年プロジェクト終了後の地域による自立発展につながっていきます。私たちは、プライマリー・ヘルスケア・システムの中で、地域の住民がより積極的な役割を担うように働きかけました。ジョイセフが養成した地域保健ボランティア、事業実施の協力者である地域のリーダーや教師などです。このような住民を中心とした保健システムの整備とともに、一人ひとりが自分の健康を守れる地域づくりが進んでいます。

地域保健ボランティアが家庭訪問し、SRHに関する正しい知識を伝え、行動変容を促していく。カップルが一緒に話を聞き、理解を深めることで、家庭内で女性の健康を守るアクションがとりやすくなる。

男性の地域保健ボランティアも多数活躍している。

「誰ひとり取り残さない世界」に一歩近づいたハンドオーバーセレモニーの日

タンザニアのプロジェクト地区には、耳の聞こえない子どもたちの学校がありました。そこに通う子どもたちもプロジェクトに参加し、同世代の仲間にSRHの知識やサービスを伝えるボランティアの「若者ピア・エデュケーター」として活躍しています。

この学校の代表として、一人の男子中学生がハンドオーバーセレモニーにやってきました。彼は私たちと一緒に活動したことを喜び、このように話してくれました。

セレモニーに参加した聴覚障害のある生徒によるスピーチ

「これまで、この地域で他のプロジェクトも行われてきたけれど、私たちはいつも蚊帳の外におかれてきました。今回は参加できて本当にうれしかったです。研修で学び、いろいろなツールをもらって、SRHの話ができるようになりました。障害があると、最初からどうせできない、無理だと決めつけられてしまうことが多いのです。でも、私たちも他の人たちと同じようにできることを示せたと思います」

障害がある人は、レイプや性被害に遭うことがとても多いうえに、保健施設に行くことも難しいのだそうです。
「彼らの置かれた苦しい現実が、なかなかみんなには分かってもらえません」と彼に同伴して来た教師は言いました。
「でも、ジョイセフのプロジェクトをきっかけに、保健施設とつながりができました。それに彼らの中で、SRHだけではなく、SRHR:セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツの『ライツ=性と生殖に関する権利』への理解も進みました」

ふたりの言葉を聞いて、私はとてもうれしくなりました。ハンドオーバーセレモニーの日、一番心に残ったことです。

Author

山口 悦子
2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。