屋久島尾之間診療所 院長、東京女子医科大学 客員教授、ジョイセフ 理事
杉下 智彦
女性のSRHRに関する諸課題は、世界中でまだまだ解決の途上にあると言えます。とりわけ、社会の構造や医療へのアクセス、衛生環境といったことを原因に、命の危険にさらされる女性が、開発途上国には特に多く存在します。
その一方で、市民団体や起業家によって、各国でSRHR向上のための活動が盛んに行われてきています。アフリカで行われている取り組みを紹介します。
CHPS+(チップス)プログラム/ガーナ共和国
正式名称は「Community-Based Health Planning and Services Plus Programme」。コミュニティ・ヘルスワーカーが家々を巡回診して地域の人々の健康台帳を作成することで、保健サービスを強化しています。個別訪問を通して、特に、女性や子どもたちの健康が劇的に改善してきています。
Hamlin Fistula Ethiopia/エチオピア連邦民主共和国
3日4日もかかる遷延(せんえん/長引くこと)分娩で、胎児の頭部が骨盤を圧迫したことにより組織が壊死し、膣と膀胱や直腸がつながってしまう「産科フィスチュラ」。これを治療するために、1974年にキャサリン・ハムリン医師が建設したのが、世界最大のフィスチュラ治療センターです。ここで、寄付金などをもとに、これまでに5万件以上の手術を実施してきました。包括的なケアの提供や助産師の育成なども行っています。ハムリン医師が2020年に亡くなって以降も、後進によって診療は継続されています。
FREMO Birth and Medical Centre/ケニア共和国
ナイロビ市内のスラム地区に住むオソロ兄弟の民間助産院。自身の妻の出産時に、子どもの命が危ぶまれた経験から、安全かつ低料金で、出産のための医療環境を整えるために、スラムの中心部に立ち上げられました。出産1回当たり、約8000円。年間で800件以上の出産が行われます。
電子母子手帳、電子健康保険
妊産婦の必須アイテムである母子健康手帳を電子カルテ化することによって、予防保健活動の促進、貧困家庭に対する現金給付、健康記録の蓄積などが簡単にできるようになりました。さらに、電子化された健康保険は従来よりも加入手続きが簡単になり、金銭面での医療アクセスも改善しています。
ケニア全土では、スマートフォンが急速に普及したことにより、日本よりずっと電子化が進んでいます。電子化されたサービスの利用者は女性が圧倒的に多く、現金の受け取り、病院の受診、電気料金の支払いなど、日常的な用件で活用されています。
杉下智彦
屋久島尾之間診療所 院長、東京女子医科大学 客員教授、ジョイセフ 理事
マラウイ、タンザニア、ケニアなど、アフリカ20カ国でグローバルヘルスなどの健康課題解決に取り組む。専門は、保健システム、外科、公衆衛生、地域保健、プライマリヘルスケア、医療人類学。インタビュー記事
※書籍『反集中』(ミラツク)にも収録
- Author
JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします