「さっき母子が病院に搬送され、新生児の死亡が確認された。母親の命はどうにか助かりそうだ。昨日午後に産気づいた母親は、誰にも言わず一人で歩いて隣町の保健センターに向かったらしい。保健センターまでは歩いて3時間かかるが、それ位なら急げば間に合うと思ったようだ。途中、森の中で出産して気絶したらしい。今朝、農民が母子を発見した。こんなことがあっていいのか。ここに診療所を建設してくれ」
2023年2月に私がガーナ・クロボのとあるコミュニティを訪れたときに、深刻な表情をした現地の住民から聞いた話です。ここの唯一の診療所は、民家の物置の一角を間借りしたもので設備が整っておらず、分娩施設もありません。
ガーナの妊産婦死亡は着実に減少しており、2008年からガーナで仕事をしてきた私も、医療アクセスの問題によってコミュニティで亡くなる妊産婦はまれで、多くが高次病院での合併症治療がうまくいかずに亡くなるケースになってきている、と思っていました。
住民の話を聞いて、首都アクラから車で数時間の地域でさえ、物理的な医療アクセスの悪さで失われる命がまだあることを再認識するとともに、「妊産婦死亡減少」という言葉には表れない、一人ひとりの命の重みについて考えさせられました。ジョイセフは塩野義製薬の支援を受け、2024年、ここに診療所を建設する予定です。
- Author
山口 悦子
2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。