恋愛も性も「言えない」若者の現状が明らかに さらに性・恋愛観の男女差やセクシュアル・ヘルスへの意識も判明
国際協力NGOジョイセフは10月11日の国際ガールズデーに向けて、 SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)に関する情報提供を行う「I LADY.」キャンペーン(http://ilady.world/)の一貫として、18-29歳の日本の若者1000人を対象に「性と恋愛2019ー日本の若者のSRHR意識調査ー」を行いました。
近年、世界各国で性と生殖に関するさまざまな議論が進み、恋愛やパートナーシップについても多様な価値観が認められてきています。一方で、日本ではいまだに性についての課題が見えにくい傾向にあります。今回実施した調査では、若者の恋愛観や性の意識、さらにその男女差も明らかになりました。調査結果を受け、今後「I LADY.」ではより幅広い情報提供を行い、日本の若者がより多くの選択肢を持てるよう活動を続けていきます。
POINT(1) 告白未経験女性が約4割。さらに4人に3人が恋愛では相手に合わせた経験あり
●女性はやっぱり告白されたい。告白を相手からしてほしい女性は97.3%。男性は45.3%
●相手に嫌われないよう本来の自分を出さずに相手に合わせてしまう人が全体の74.8%(4人に3人)
POINT(2) 性の悩みを言えない?約80%がセックスの悩みや要望について恋人と話し合った経験なし
●性交渉(以下セックス)の悩みを恋人に相談したことがない人は81.4%も(5人に4人)
●50.2%(2人に1人)が気が乗らないのにセックスに応じた経験あり。既婚女性だと73.6%に
POINT(3) 性について語るのは男女平等。しかし、セックスのイメージには大きな男女差
●女性がセックスについて語るのはタブーだと回答した人は18.7%(5人に1人)
●セックスに対してのイメージに大きな男女差。 セックスのその先の深まる気持ちを大事にしたい女性。
●女性がコンドームを用意していたら驚く男性は47.1%(2人に1人)
POINT(4) 避妊や性感染症への低い意識と婦人科・泌尿器科系の相談相手がいない現状
●セックスのとき、毎回必ずコンドームをつけるようにしている男性は約半数の46.9%
●「コンドームは頼まれなければつけない」と回答した男性は20.2%(5人に1人)
●女性にとって、婦人科や泌尿器科系の悩みの相談相手は「母親」が最も多く、「医療従事者」は24.5%
POINT(5)将来の決定を恋人を頼る女性。約半数が恋人に相談すると回答
●人生における大きな決断で恋人・パートナーに相談する男性は19%に対して、女性は41%
●人生における大きな決断で自分の決断に自信がない回答者は35.2%(3人に1人)
調査概要
- 調査対象:全国(47都道府県)の18-29歳でこれまでに恋人・パートナーがいたことがある人1000人(未既婚不問)(男性490人/女性490人/男女どちらでもない20人)
- 調査手法:インターネット調査 ■調査日程: 2019/7/19(金)~7/20(土)
- 調査の目的:恋愛、性、セクシュアル・ヘルス/ライツなど、パートナーとの関係性も含めた日本の若者の意識調査
POINT(1)
告白未経験女性が約4割。
さらに4人に3人が恋愛では相手に合わせた経験あり
日本の若者の恋愛意識について、「恋人やパートナーになるための告白は、どちらからしたい・してほしいと思いますか。」という質問に対して、「相手からしてほしい/どちらかというと相手からしてほしい」と答えた人は、男性は45.3%なのに対し、女性は97.3%という結果となり、告白を待つ女性が多いという恋愛観が見えました[グラフ1] 。
また、「あなたは、これまでに自分から告白しようと思ったことはありますか。また、これまでに、実際に自分から告白したことはありますか。」という質問に対し、「告白しようと思ったことがある」男性は91.8%・「実際にしたことがある」男性は86.9%である一方、 「告白しようと思ったことがある」女性は70.4%・「実際にしたことがある」女性は59.6%でした[グラフ2]。積極的になろうという意識はある一方で、なかなか言い出せないという女性が男性に比べて多いようです。
さらに「あなたは、付き合っている相手に気に入られるために、本来の自分とは違うと思っても、相手に合わせてしまうことがありますか。」という質問には、「よくある/たまにある」と答えた人が全体で74.8%(4人に3人)となり、男女ともに相手につい合わせてしまう日本の若者の傾向が見えてきました[グラフ3] 。
POINT(2)
性の悩みを言えない?
約80%がセックスの悩みや要望について恋人と話し合った経験なし
日本の若者の性経験について、「相手にセックスについて、自分から相談したことがある(頻度や性的嗜好(しこう)※や好みの要望など) 」と答えた人は全体で18.6%にとどまり、相談したことのない人が全体で81.4%(5人に4人)と、”性の悩みを相談したり、要望を伝えたりしない”若者の現状が見えてきました。同様に、「避妊について話し合ったことがある」と答えた人も全体で27.9%にとどまり、3人に2人が話し合ったことがないという結果になりました[グラフ4]。
※セックスにおいてどのようなシチュエーションでどのような行為をしたいか、その趣味や要望のこと
「性(セックスなど)に関して相談相手がいるか(複数回答)」という質問に、「相談する相手がいない」と回答した人は全体で23.8%となり、特に男性は31.6%(3人に1人)とパートナーにも悩みを相談できていないことがわかりました[グラフ5]。
また、「あなたは、これまでに、ご自身がセックスに気が乗らないのに応じた、という経験はありますか。」という質問に「ある」と答えた人は全体で50.2%(2人に1人)、女性だと63.1%(3人に2人)となり、セックスについてなかなか自分の希望を言い出せない傾向にあることも分かりました[グラフ6]。
POINT(3)
性について語るのは男女平等。
しかし、セックスのイメージには大きな男女差
日本の若者の性意識について、男女間で平等になりつつあることも明らかになりました。「女性が「セックス」について語るのはタブーである」と回答した人は全体で18.7%(5人に1人)にとどまり、悩みは言えないことが明らかになった一方で、セックスについて語るのはもはやタブーではないという意識があることが明らかになりました[グラフ7]。
一方で、「あなたがセックスについて抱いているイメージをすべてお知らせください。」という質問では、男性の1位は「気持ちいい 」59.6%、次いで「愛が深まる」50.4%、「エロい」47.6% となり、快感を求める男性の傾向が明らかになりましたが、女性の1位は「スキンシップ」(64.1%)、次いで「愛が深まる」(56.3%)、「愛を確かめ合える」(53.9%)とセックスのその先にある深まる気持ちを大事にしたい傾向が明らかになりました[グラフ8]。
また、女性がコンドーム を持っていることに対して「女性がコンドームを用意していたら、引くまではいかないが、驚くと思う」と回答した男性は47.1%(2人に1人)となり、性感染症を防ぐ有効な手段であり日本の主な避妊法であるコンドームを女性が用意することに違和感を持つ人が多いことがわかりました。[グラフ9]
全日本おばちゃん党代表代行・谷口真由美さんに聞く
日本の”隠れたジェンダー規範”とは
女性が「セックス」について語るのはタブーであるという回答(18.7%)と、相手に性交渉について、自分から相談したことがある(頻度や性的嗜好や好みの要望など)」という回答(18.6%)がほぼ同じであることに驚きました。 セックスについて語ることがタブーだとは圧倒的多数が思っていないにもかかわらず、一番大切な相手にそのことを語ることができないというのは、なんともちぐはぐにも思えます。しかし、ここに潜んでいるのが「隠れたジェンダー規範」なのだと考えます。日本は、この隠れたジェンダー規範がとても強いのだとこの調査からうかがえます。 友人間で茶化して楽しく話す性についてはタブーではないものの、性的自己決定権については、それを行使する相手に対しては言えない、そして自分のことを決定するという意識すら希薄ということなのかもしれません。 これらの隠れたジェンダー規範は、人生のあらゆる場面で影響を及ぼしています。ジェンダーギャップ指数があがらない一因は、日常に潜んでいるのだということも見えてきます。性的自己決定権は、生きていく上でのとても大切な権利です。それは、SRHRでもあります。まだまだ、日本ではあらゆる年代を通じ、自分のSRHRに気がつくことから始めないといけない状況といえます。
谷口真由美
全日本おばちゃん党代表代行、大阪大学非常勤講師。1975 年、大阪市生ま れ。大学教員のかたわら、 2012 年に“庶民目線の政治”を訴えるため、 Facebook 上で「全日本おばちゃん党」を立ち上げる。おばちゃん目線でオッサン 政治をチェックしながら、問題提起を続けている。 2018 年には、メディア内部で働くセクハラ被害についての調査を元に、セクハラに 対する日本社会の一助とすべく、『メディアにおけるセクハラを考える会』を立ち上げ、 代表として日本外国特派員協会で会見を開く。TBS サンデーモーニングでコメン テーターを務めるなど、メディア出演多数。
POINT(4)
避妊や性感染症への低い意識と
婦人科・泌尿器科系の相談相手がいない現状
日本の若者の避妊や性感染症への意識の低さも明らかになりました。「あなたは、セックスのときに、コンドームを必ずつけるようにしていますか。」という質問に対し、「毎回必ずつけるようにしている」と回答した男性は46.9%(2人に1人)(うち未婚男性は53.0%)となり、半数以上が毎回必ずつけていないということが分かりました[グラフ10]。さらに、「コンドームは頼まれなければつけない」と回答した男性は20.2% (うち未婚男性は16.8%)となり、避妊や性感染症への意識の低さが浮き彫りになりました[グラフ11] 。
また、「婦人科(月経含む)・泌尿器科系の悩みに関して、相談する相手はいますか。(複数回答)」という質問に女性は、1位「母親」(44.3%)、次いで「友だち」(37.3%)、「恋人・パートナー」(28.8%)、その次に「医療従事者(医師・看護師など)」(24.5%)の順となり、「母親」が1位となり、「医療従事者(医師・看護師など)」と答えたのは4人に1人にとどまりました。また男性は、1位「相談する相手が誰もいない」(49.2%)、次いで「友だち」(14.9%) 「恋人・パートナー」(12.9%)、その次に「医療従事者(医師・看護師・助産師など)」(7.6%)の順となり、2人に1人が「相談する相手が誰もいない」という結果となりました[グラフ12] 。なかなか相談できない、相談する相手もいないという若者の現状が浮かび上がりました。
産婦人科医・遠見才希子さんに聞く
日本の性教育・性感染症への意識の問題とは
これらのデータの背景には、コミュニケーション不足や性教育や避妊法の遅れがあると考えられます。海外では5歳頃から体系的な性教育を行う国もありますが、日本では、性について語ることがタブー視されがちで、悩みを相談できない人や、「腟外射精で避妊できる」「安全日がある」といった誤った知識を持つ人は年齢問わずいるでしょう。世界人口白書(2018)によると、先進国の避妊需要充足率(15-49歳)は78%(世界平均77%)に対し、日本は61%と低く、避妊効果が高いとはいえないコンドームが主流であることが指摘されています。コンドームは性感染症予防のために使用し、避妊効果の高い近代的避妊法の併用が推奨されていますが、日本では子宮内避妊リング/システム(IUD/IUS)と低用量ピルしか認可されておらず、これらはあまり普及していません。海外ではインプラントや注射など、女性主体の避妊法が他にも存在するため、避妊は「男性にしてもらうもの」ではなく「女性が自立して選択できるもの」という認識が強いかもしれません。日本では、若い頃からかかりつけ医を持つ習慣や、性のことを専門職に相談できる機関の受け皿が多いとはいえないですが、保健所では、性感染症検査を無料・匿名で受けることができ、性について相談できるホットラインなども増えています。現状の問題点や正しい知識を知った上で、自分と相手が対等なコミュニケ―ションで話し合い、より安全で満足できるセックスができるといいですね。
遠見才希子
産婦人科医。1984年、神奈川県生まれ。2005年、聖マリアンナ医科大学在学中に偶然、性教育の活動に出会う。中高生からの圧倒的な人気を受け「えんみちゃん」のニックネームで全国700ヶ所以上で講演を行う。正しい知識を説明するだけではなく、経験談を本音で語る等身大の言葉が「心に響く」とテレビ、全国紙でも話題に。産婦人科医として亀田総合病院などに勤務。現在、筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程に在籍し、性暴力・人工妊娠中絶の調査を行う。著書『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)DVD教材『自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ』(日本家族計画協会)発売中。
POINT(5)
将来の決定を恋人を頼る女性。
約半数が恋人に相談すると回答
人生における自己決定についても、男女差や日本の若者の傾向が明らかになりました。「あなたは、進路や職業選択など、あなたの人生において大きな決断をするとき、誰を頼りにしていますか。(複数回答)」という質問に対し、「恋人・パートナー」と答えた男性は19.0%なのに対して、女性は41.0%であり、人生における大きな決断を女性は恋人・パートナーを頼ることが分かりました。また、35.7%(3人に1人)は「自分を頼らない」と回答し、自分で決断する人が少ないことも見えてきました。[グラフ13]。
さらに、「あなたは、進路や職業選択など、あなたの人生において大きな決断をするときの、自分の決断に自信はありますか。」という質問に、「自信があまりない/自信がない」と回答した人は全体で35.2%となり、3人に1人が人生における大きな決断のとき自分の決定に自信が持てないという日本人像が見えました[グラフ14]。
性と恋愛2019ー日本の若者のSRHR意識調査ー」を受け
「I LADY.」が考えること by 国際協力NGOジョイセフ 小野美智代
「I LADY.」を始めて2年半。若者たちと対話していく中で、日本の若者は無意識のうちに「ジェンダー」や「当たり前」の刷り込みがあるのではないか?「男はこうあるべき、女はこうあるべき」といったステレオタイプに左右されているのではないか?という疑念が生まれたことが今回の調査に至ったきっかけでした。
調査の「告白はしたい?されたい?」や「プロポーズはしたい?されたい?」の男女の回答差や、男性の約半数が「女性がコンドームを用意していたら驚く」。女性の約半数が「人生における大きな決断で恋人・パートナーに相談する」と答えた結果は、想定していた以上の刷り込みが現れました。改めてこのジェンダー間の意識の差、行動の差が、避妊やセックスの考え方や性的自己決定にも少なからず影響しているのではと感じています。
この調査結果を見た一人ひとりが「自分らしい選択・決断ができているか?」を今一度振り返り、考えるきっかけになればうれしいです。すべての世代にこの若者の意識の実態から日本の根深いジェンダーを知ってもらえたらと思います。
2015年に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は前文で「すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性と女児の能力強化を達成することを目指す」とし、人権とジェンダー・女性の視点が明確に示されています。世界ではスタンダードである人権としての「SRHR」を日本でも普及すべく、国際ガールズ・デーを機に実施されたこの調査が、日本のSRHRの意識向上のための新たな第一歩、布石になることを願って。
EVENT REPORT
国際ガールズ・デーを前に冨永愛さんと大学生向けに授業を開催
「SDGs時代に生きる私たちにできること」授業レポート
●授業開催概要
- 日時: 2019年10月9日(水)13:35~15:15
- 会場: 獨協大学
- 対象: 獨協大学全学部2年生以上 約270名(主に経済学部2年生以上)
THEME(1)
国際ガールズ・デーに考えるSDGsと女性
私たちにできること
●講義レポート
ジョイセフは国際ガールズ・デーを前に10月9日、獨協大学草加キャンパスで「なぜ女の支援が必要?~SDGs時代に生きる私たちにできること」というテーマで対談式の講演・獨協大学学生とのパネルディスカッションを行いました。当日は、ジョイセフのアンバサダーであるモデルの冨永愛さんがサプライズゲストとして登壇し、約270人の経済学部生を前に語り、会場は驚きと感嘆に包まれました。
冨永さんは、ジョイセフ小野美智代との対談で、これまでジョイセフのアンバサダーの活動として訪ねたザンビアやタンザニアで目の当たりにした現状、世界の15〜19歳の女の子の死因のトップが、妊娠・出産・中絶であることなどを説明しました。冨永さんは、12歳から10回の出産を繰り返した女性との出会い、村長や村の男性たちに性教育をしたときの反応などを語り、避妊ができるかできないかが死に直結する課題となる場所もある、と語りました。学生2名がパネリストとして登壇、途上国の女性支援でできることや、男性の自分たちができることは何かをディスカッションしました。
冨永愛
17歳でNYコレクションにデビューし、一躍話題となる。以後約10年間に渡り、世界の第一線でトップモデルとして活躍。その後、拠点を東京に移し、モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティなど様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。 公益財団法人 ジョイセフアンバサダー、エシカルライフスタイル SDGs アンバサダー(消費者庁)
THEME(2)
日本の若者は、自分の人生自分で決めている?
~ 性と恋愛意識調査2019の結果より
●講義レポート
講演の後半は、ジョイセフが10月11日の国際ガールズ・デーに向けて行った性と恋愛の意識調査2019の結果を発表。コンドームは誰が用意するか、人生の選択は誰に頼って決めるかなど、学生たちは調査結果に熱心に聞き入っていました。
- Author
I LADY.事務局
I LADY. は、これまでジョイセフが培ってきた知見を生かし、特に日本の10~20代を対象にグローバルな視野でSRHRに関する幅広い情報提供を行い、一人ひとりのアクションのきっかけをつくるプロジェクトです。Love Yourself(=自分を大切にする)、Act Yourself(=自分から行動する)、Decide Yourself(=自分の人生を、自分で決める)をメッセージに掲げ、活動を展開しています。