途上国では、さまざまな組織や団体が開発支援のために活動しています。その際、大きな課題となるのが「持続可能性」や「自立発展性」です。プロジェクト期間中は資金や資材が潤沢にあり、人材も派遣されますが、こうした支援はいずれ終わるもの。その後は多くのケースで現地のモチベーションや求心力が低下し、せっかく始まった良い変化も続かなくなってしまうのです。
ジョイセフは、外部からの援助だけに頼る一時的な効果ではなく、地域の人々が主役となり、みずから本物の変化を起こしていくための開発支援をめざしてきました。たとえば西アフリカの国ガーナでは、妊産婦や女性の命と健康を守るため、これまで数多くのプロジェクトを行っています。終了後も成果が継続し、地元の人々の手で自発的な運動となり、発展を続けている事例が少なくありません。
女性が直面する過酷な現実を、根本から変えていく。そのためにジョイセフが取り組んできた「自立発展につながる持続可能な支援」について、ガーナでの活動に焦点を当てながら紹介します。
ガーナの辺境で、「優れた保健サービス」に驚いた日本の研究者
妊産婦死亡率が日本の65倍*にのぼるガーナ。特に保健施設へのアクセスが悪い地域では、妊産婦や新生児の命が危険にさらされ、10代の若年妊娠も非常に多くなっています。ジョイセフが2011年から活動を開始したイースタン州は、首都のあるグレーターアクラ州に隣接しているにも関わらず、ボルタ川という大河が東西に流れているため、保健施設へのアクセスが遮断された地域が散在しています。ジョイセフは、女性と妊産婦の命と健康を守るため、多岐にわたるプロジェクトをこうした地域で実施してきました。
*出典『世界人口白書2023』
2023年9月、ジョイセフに一通のメールが届きました。差出人は長崎大学大学院、熱帯医学・グローバル研究科の相賀裕嗣(あいが・ひろつぐ)教授です。
「仕事でガーナに行ってきました。ジョイセフのプロジェクトの活動がコミュニティまで浸透し、維持されていることが確認できました」と書いてあります。相賀さんに連絡すると、現地での出来事を教えてくれました。
「住血吸虫症対策プロジェクトの準備のためのフィールドワークで、コミュニティにおける顕微鏡の有無の確認が必要になり、近隣のある保健施設を視察したのですが、中に入って驚きました。きれいに掃除が行き届き、カルテや医療器具も雑然と置かれることなく、むしろ手作りの棚や箱にきちんと分類、整理整頓されていたのです。そのためスタッフの手際も良く、患者さんたちにフレンドリーな保健サービスが提供されていて、感銘を受けました」
なぜ、このように優れた施設運営ができるのか。スタッフたちに質問したところ、「ジョイセフと一緒に取り組んだからです」と異口同音に返ってきたそう。そこは2012年にジョイセフが新設した保健センターだったのです。
住民と力を合わせ、妊産婦と女性の命を救える地域へ
この保健センターがあるのは、イースタン州のコウ・イースト郡。ガーナ最大の川が横切る不便な地域で、かつては保健サービスへのアクセスが著しく困難でした。とりわけ過酷だったのは妊娠・出産です。分娩できる施設まで何十キロも離れた村がたくさんあり、妊婦健診も受けられずに自宅出産を強いられる中、多くの母親や新生児が命の危険にさらされていました。
2011年、ガーナで開発支援プロジェクトを検討していたジョイセフは、コウ・イースト郡の深刻な問題を知ります。スタッフが現地を訪れ、郡の保健局長から「保健施設が足りない」「命を落とす妊産婦が後を絶たない」と切迫した状況を聞き、この地に出産できる施設を建設することが決まりました。
参考記事 コウ・イースト郡で始まったイースタン州(ガーナ)の12年。レジリエントなジョイセフの支援の礎に。 https://www.joicfp.or.jp/jpn/column/12years-in-eastern
これが皮切りとなって、ジョイセフは今日まで12年にわたり、コウ・イースト郡を含むイースタン州の7つの郡で、さまざまな支援活動に取り組んできました。各地に保健センターや診療所、ユースセンターを新設するとともに、医療スタッフへの研修を実施。さらに地域住民が主体性をもって保健の取り組みを促進できるよう、人々に正しい情報を伝えて適切なヘルスケアにつなぐ地域保健ボランティアや、同世代の若者をサポートするピア・エデュケーターを養成してきました。こうしたボランティアらの活動を持続的にサポートし、地域保健の計画・実施の中核を担う、地元住民の代表から成る地域保健運営委員会の能力強化にも力を入れています。
こうしたプロジェクトのひとつに、保健センターのスタッフに研修を行う「施設環境改善のための5S」がありました。5つのSは、整理・整頓・清掃・清潔・習慣。日本の製造業で開発された、職場環境改善と品質管理の手法です。これをセンターに導入することで、保健サービスの質が大きく向上します。相賀さんが現地で見たのは、2017年から2020年にかけてジョイセフが実施した5Sの成果でした。
相賀さんは開発支援の指標づくりや評価にも携わっており、「年月が経ってもあのように成果が続くケースは珍しい」と言います。ジョイセフはプロジェクトの持続可能性を最も重視しているため、専門家から客観的な確認をいただいたのは非常にうれしいことでした。
資金がない。それでも、プロジェクトが続く仕組みはつくれる
保健センターで実施した5S研修は、整理整頓や清掃によってスタッフが快適に働ける環境を整えることで、よりスムーズに、利用者を長く待たせない親切な医療保健サービスを提供するのが目的でした。ここで大切なのは、資金がなくても続けられる「持続可能性」です。ジョイセフのサポートのもと、医療者から清掃担当者まで、スタッフ全員に「お金のかからないアイディア」を出してもらいました。
たとえば増えすぎたカルテを収納するために、新しい棚を買わずに廃材の段ボールで自作すると、自在にカスタマイズでき、使いやすい棚が完成しました。医療器具を入れる箱も段ボールで作り、使う順番に並べていくと、探す時間や取り間違いが減り、ぐんと作業効率がアップ。コツをつかんだスタッフたちは、それぞれ独自の整理整頓術を編み出し、働きやすい職場環境を整えていったのです。
さらに、せっかく導入した5Sが定着するよう、モニタリングと評価を取り入れました。年に一回程度、郡保健局によるモニタリングや再研修とともに、スタッフみんなで発表会を行うのです。工夫をこらした整理術や自作の収納、清潔さ、それによってスムーズに提供されるサービスを称えあい、優れた取り組みには表彰状が送られ、スタッフのモチベーションも再び高まります。こうして良い変化が維持されるだけでなく、年々新しく進化を遂げてきました。
「活動継続にはインセンティブが必要です。それは必ずしもお金とは限りません。人から評価されること、感謝されること、誇りが持てることで、皆さんのモチベーションが続いているのでしょう」(相賀さん)
このプロジェクトでは、郡保健局によるモニタリングが毎年続いていく仕組みもつくりました。そのためだけの予算を確保するのは厳しいですが、すでに定期的に行われている保健施設訪問のタイミングで、一緒にモニタリング等を実施してもらうのです。評価基準が曖昧にならないよう、各項目を客観的に数値化できるモニタリングシートも作成しました。保健センターの壁には表彰状が飾られ、そこで働く人々の誇りになっています。
ガーナで深めた知見を、より強靭で持続可能なプロジェクトづくりに生かしていく
ジョイセフが行う支援活動は、一方的に主導するものではありません。どのプロジェクトにおいても、地域の人々と協力して計画段階から立ち上げ、軌道に乗るまで伴走し、人々がみずから保健活動を維持・継続していくための「住民主体の仕組み」をつくっていきます。ガーナでは、郡および州の保健局とのパートナーシップのもと、活動をけん引していく地域保健運営委員会や若者諮問委員会のメンバーの能力強化、活動費にあてる収入創出活動の導入、優れた取り組みを評価してモチベーション向上につなげる制度づくりなどに取り組んできました。
そして2023年末、うれしいニュースが飛び込んできました。あのコウ・イースト郡の保健センターに、10年越しで専属の医師が配置されたのです。病院のない同郡で、医師が常駐する施設が初めて誕生しました。
センター設立時から医師の配置を希望し、手術室も整備しましたが、医師が足りないガーナのこと。なかなか叶わず、隣郡の病院から巡回を頼むのがやっとでした。緊急手術はもちろん、医師の診察が必要な患者や妊産婦も、隣郡まで行くしかありません。交通の便が悪い上、貧困層が多いコウ・イースト郡の住民にとっては難しいことです。
だからこそ、医師の配置は大きな喜びでした。10年以上前に私たちが望んだ「質の良い医療へのアクセス向上」が叶った瞬間です。実現に向けては、コウ・イースト郡のあるイースタン州保健局長の尽力があったといいます。長年にわたるジョイセフの実績が認められ、郡や州の保健局との間に信頼関係が築かれた成果でもありました。
12年前にコウ・イースト郡で始まったプロジェクトを通じて、ジョイセフは持続可能な開発支援の知見を深め、多くの教訓を得ました。それらを生かし、ガーナの他の地域で、またガーナ以外の国々でも、女性の命と健康を守るために、より持続可能で強靭な支援活動を進めていきます。
ジョイセフは、チャリティラン「ホワイトリボンラン2024」の収益で、ガーナの女性の命を守る新しい診療所を建設します。
ホワイトリボンランとは?
Healthy women, Healthy world.
女性の健康が、世界を変える。
ホワイトリボンランは、3月8日国際女性デーと連動させて、ジョイセフが2016年から発足したチャリティアクションです。ホワイトリボンが掲げる「すべての女性が健康で自分らしく生きられる世界」を目指し、ホワイトリボンの支援の輪を広げることを目的としています。 3/8 国際女性デーに向けて、「走ろう。自分のために。誰かのために。」というスローガンを掲げ、同じ公式Tシャツを着て世界の女性のためにみんなで走り、バーチャル(インターネット)でつながって世界中にホワイトリボンのムーブメントを起こします。 エントリー費は収益全額が寄付され、世界の女性の命と健康を守る活動に使われます。今回の支援先はガーナに決定しました。
“歩いて3時間かかる隣町の分娩施設に向かう途中、林でひとりで出産”
ジョイセフスタッフが現地を訪問中、一人の妊婦が隣町の保健施設にたどり着く前に林で出産し、そのまま気絶。翌朝、通りかかった農民に発見され、母親は一命をとりとめたものの新生児が亡くなったという情報が入りました。首都アクラからほど近い地域でさえ、物理的な医療アクセスの悪さで亡くなる命があります。この地域のすべての妊産婦にとってアクセスの改善は切迫した課題です。
ホワイトリボンランの支援で実現すること
集まった支援で、地域に寄り添う診療所や井戸、医療従事者の宿舎を建設へ
ホワイトリボンランをはじめとしたホワイトリボンムーブメントで集まった寄付金額に応じて、以下の支援を予定しています。
- 分娩施設のある診療所を村に建設
- 診療所に清潔な水を確保するための井戸の建設
- 診療所で働く医療従事者が24時間体制で医療を提供するための医療従事者の宿舎の建設
※支援金額により、支援活動が1もしくは1と2のみになる可能性があります
医療従事者が常駐し分娩も可能な、地域に寄り添った診療所を建設して保健施設へのアクセスを改善するとともに、清潔で安全な水を確保するための井戸も設置。また、町から離れたところに位置するため、医療従事者の宿舎もセットで提供することで常駐を可能とし、質の良い保健サービスの提供を目指します。
今すぐアクション 国際女性デーにできること
①公式Tシャツやパワーステッカーを購入して、ホワイトリボンアクション!
ジョイセフチャリティショップにて、ホワイトリボンラン公式Tシャツとパワーステッカーを限定数販売いたします。
*公式Tシャツおよびパワーステッカーの販売金額の収益全額が寄付となり、世界の女性の健康と命を守る支援活動に充てられます。
今年は人気ブランド、DANSKINとコラボレーション!
~empower myself~ をロゴにし、快適な機能素材と、爽やかな白地にブルーのロゴが目を引くクリーンなデザインで、ランやエクササイズだけに限らず、タウンユースにもおすすめです。
・ユニセックスサイズ1枚5500円、Kids 2000円
2枚以上の同時購入で、1枚あたり500円お得に!
*Tシャツの収益全額が寄付となり、アフリカ・ガーナの女性の健康と命を守る支援と能登半島地震で被災した女性や子どもたちの支援に充てられます。
鮮やかなブルーにホワイトリボンが映える、光沢感のある布製のステッカーは、ランTシャツはもちろんのこと、PCや、タブレット、携帯電話など、普段から目に入るお気に入りの場所に貼って、ホワイトリボンアクションをお願いします!
・ステッカーは1枚100円、5枚400円、50枚3,000円
②Instagram 1投稿につき100円が寄付に
〈目指せ5000投稿!〉 #ホワイトリボンラン2024 ハッシュタグチャレンジ
3月1日~31日のホワイトリボンラン開催期間中、「 #ホワイトリボンラン2024 」のハッシュタグをつけて公式Tシャツを着て走った様子をInstagramに投稿すると 1投稿につき100円が、皆さまに代わってホワイトリボンパートナー企業よりジョイセフに寄付されます。期間中はいつでも、どこでも好きに走って頂くことができます。投稿数に上限はありません。毎日投稿、複数投稿もOKです!
期間中は#ホワイトリボンラン2024ハッシュタグ投稿をカウントし、公式Instagramや ホワイトリボンランHPにて随時発表します。
国際女性デーや女性の健康週間のある3月の「ホワイトリボン月間」は、自分や身近な大切なひと、そして世界中の女性の健康のために、ホワイトリボンとともにアクションしていきましょう!
③イベントに参加する
EUと日本の経験から考える〜平等かつインクルーシブな女性の政治参画に向けて
④女性のSRHR支援に寄付
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コミュニケーション デザイングループ
ジョイセフ コミュニケーションデザイン室メンバーによる投稿です。様々なトピックの情報・写真・動画を紹介していきたいと考えています