知るジョイセフの活動とSRHRを知る

初出張で感じた、写真と映像の可能性と対面で仕事をする重要性

2022.11.14

ミャンマーのエヤワディ地域の2つのタウンシップで実施している「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト」の一環として、2022年8月23日から9月3日まで2名の職員を派遣しました。新型コロナウイルス感染症の発生と軍事クーデターの影響で、ジョイセフがミャンマーに職員を派遣するのは、2020年3月以来でした。

そのうちの一人、広報/コミュニケーションを専門にしている大森優太は、動画・静止画を撮影するための研修を実施。2022年4月にスタッフに加わった大森が、今回の出張の模様をレポートします。


河川が多いエヤワディ地域でのプロジェクト

今回の出張は、私にとって人生での初ミャンマー、入職後初めての出張となりました。私は幼少期の頃にタイに3年間住んでいて、学生時代はバックパッカーとしてラオスを陸路で旅をしましたが、隣国のミャンマーには行ったことがありませんでした。

ミャンマーではいまだに、妊娠・出産で亡くなる女性の割合が非常に高い状況です。日本、ミャンマー、タイの妊産婦死亡率を比較してみると、出生10万に対して、日本は5、ミャンマーは250、タイは37。つまり、妊娠や出産が原因で亡くなる女性の割合が、日本に比べてタイは7倍、ミャンマーはそれよりはるかに多く、50倍*なのです。特にプロジェクトを実施しているエヤワディ地域は河川が多く、雨期には氾濫により幹線道路の冠水などが頻繁に起こるために、医療が必要になっても、保健施設へと自力で向かうことができず、また搬送や助産師や医師が駆けつけることも困難です。このような状況で、多くの妊産婦の命が危険にさらされています。

今回の出張の主な目的は、本プロジェクトで進めている教材の作成と、事業の成果発表会で見せる成果物の映像制作に関する計画づくりで、関係者との協議を行い、事業評価について打ち合わせました。

私にとっては、オンラインでしか会ったことのない現地スタッフと初めて対面で活動する機会であり、現地で同じ屋根の下で一緒に仕事ができる特別な時間でした。

*出典:「妊産婦死亡の動向 2000-2017(Trends in Maternal Mortality:2000 to 2017)」、WHO他

ミャンマー事務所での集合写真

初出張で感じたミャンマーの空気

2021年2月に勃発した軍事クーデターから約1年半が経った現在も、ミャンマーでは緊迫した状態が続いています。2022年7月30日にはヤンゴン市内で日本人が拘束されたというニュースもあり、今回入国するにあたってあらゆるシナリオを想定し、現地スタッフと密に連絡をとりながら万全な状態で出張に臨みました。ホテルから事務所まで徒歩7分ほどの距離にも関わらず、現地スタッフに毎日車で送迎してもらい、普段リモートで働いているスタッフも、私たちの滞在中、毎日事務所に出社し、安全に現地で活動できるようにいろいろと配慮してくれました。

8月23日にバンコク経由でヤンゴン空港に着いて、飛行機から降りるとまず感じるのは日本の真夏よりも重たい湿気です。学生時代に日本で住んでいた半地下の物件は、湿気がひどく、家が常にかび臭かったのを覚えています。ヤンゴン空港はそれと同じ匂いがしました。先にヤンゴンを訪れていた職員が、空港は独特な匂いがすると教えてくれていましたが、飛行機を降りてからその意味が理解できました。

空港の中で最も緊張したのは入国と出国審査でした。外国人観光客が少しずつ増えていると言われてはいますが、ヤンゴン空港での入国審査の列の外国人の数は私を含めて5人ほど。何かしらの理由を付けて入国拒否をされる可能性もあり、無事に入国または出国できるまで、気を抜けませんでした。入国審査を通過した先には現地スタッフが待機してくれているのが見えましたが、今まで体験したことのない独特な緊張感がありました。

ミャンマーに着いてから1週間が経過したある日、教材作成のコンサルタントの一人が打ち合わせに遅刻しました。普段は時間通りに来る人なので「どうしたのですか?」と聞くと、家の近くの橋に検問所ができて、出入りする車を一台一台チェックしていて遅れたと。家の近くで軍人同士が撃ち合いになり、軍人の一人が銃を持ったまま逃げてしまったそうです。日本では見慣れない光景ですが、現地の人からすれば珍しくもない出来事のようで、事務所に着いてすぐ紅茶を片手に業務に励んでいたのが印象的でした。

動画・静止画を撮影するための研修を実施

プロジェクト地域での活動の様子を記録するために、フィールド・アシスタント(以下FA)を対象にスマートフォンで動画・静止画を撮影するための研修を実施しました。

FAとは、エヤワディ地域のエインメとワケマを拠点に私たちの活動をサポートしてくれる人たちのことで、プロジェクト地域に2名ずつで入って、細かく現場での活動をモニターしてもらっています。エヤワディ地域は、雨期の冠水やクーデターによる治安悪化の影響で、現地スタッフが居住するヤンゴンからプロジェクトの実施地区へ頻繁に移動するのが困難になっています。そのため、今回の研修の実施が決定し、2日間にわたって行われたのです。

1日目を終えた、翌朝のことです。FAの一人が、「写真撮ってきたから見てよ!」と声をかけてきました。習ったことをさっそく実践しているのだと思い、なんともうれしい瞬間でした。見せてくれた写真には、同じ部屋に泊まっているFAの寝顔が写っていました。事務所が笑い声に包まれました。

自分が撮った同じ部屋のFAの写真を見せてくれる様子

教材作成中の様子

体験して感じた「対面でスタッフと向き合う」大切さ

当たり前のことですが、実際にスタッフと対面で働き、一緒に食事をすることによって、その人の人柄をより良く知ることができます。仕事に対する思いや自身の生まれた国に貢献したいというような、普段聞けなかったことも聞けました。FAのみなさんについても、直接会った今となっては、一人ひとりの顔も名前も思い浮かべることができます。日本に戻ってきた後も、今、自分が関わっている業務がいろいろな人を通じて、最終的には受益者である村の女性たちまでつながっていることを感じています。

コロナ禍でリモート業務が浸透している現代社会ですが、今回のミャンマー出張を通じて、対面でスタッフと向き合って業務を進めることの重要性、厳しい情勢の中でも業務に前向きに励む現地スタッフを思い、写真と映像を利用して活動を記録し発信していくことの可能性を感じた初出張でした。対面で業務を進めることによって、お互いの理解が一気に深まります。オンラインで1週間かかる業務が、対面では1日で進みます。さらに、オンラインでは時間の制約や音声や動画の乱れもあり、分からないことをすぐに聞けない時もありますが、対面ではその場ですぐに確認しあえるのに加え、一つひとつの業務のゴールがお互いに明確にできます。共通の目標に向かって現地スタッフと共に並走しているのだということを肌で感じています。

まだジョイセフに入職して半年の私ですが、少しでも現地の活動に貢献できるように自分にやれることを一つずつやっていきたいと思います。

※ジョイセフは2019年3月から、ミャンマーのエヤワディ地域のエインメとワケマ・タウンシップでMSD株式会社のグローバルNGO支援プログラム「MSD for Mothers」のご支援のもと、「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト~社会・文化的バリアを越えて~」を実施しています。

Author

山口 悦子
2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。