国際セーフアボーションデーに際し、2024年9月25日にオンラインイベント(ウェビナー)【~Safe Abortion is Our Right~経口中絶薬の導入から1年経過、今起きていること】をリプロダクティブライツ情報発信チームリプラとの共催しました。医療関係者だけでなく、このテーマに関心のある120名超から申込みがありました。
9月28日の国際セーフアボーションデーとは?
中南米とカリブ海で、中絶の非犯罪化運動が始まったことをきっかけに、国際セーフアボーションデー(International Safe Abortion Day)は誕生しました。これに共鳴する世界各国のNGOや国際団体が連盟でつながり、さまざまなアクションやキャンペーンが立ちあがっています。セーフアボーションは、日本語では安全な中絶・流産と訳されます。世界中で安全なアクセスと、「善」であるという認知が広がるよう、安全な中絶・流産について話し、当たり前化しましょうという運動が起きています。
人工妊娠中絶の権利は、米大統領選でも争点の一つ
米国では、2022年6月に憲法で人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」が覆されました。2024年8月現在、14の州で人工妊娠中絶が禁止されています。11月の大統領選では争点の一つとなっており、安全な中絶の権利を求める声が、性別を問わず挙がっています。
人工妊娠中絶をめぐる日本の現状と課題
2023年4月、ようやく日本でも経口中絶薬が承認されました。1988年、フランスでの世界初の承認から、30年以上遅れての承認でした。
日本には人工妊娠中絶をめぐって、以下のような制度的な課題があります。
- 刑法堕胎罪が1907年から残存する
- 原則、配偶者同意が必要である
- 母体保護法指定医師しか実施できない
- 費用が高額である
また、社会的なスティグマ(烙印)があることも課題として挙げられます。
経口中絶薬の承認後の状況は?
現在、日本における人工妊娠中絶の方法は、大きく分けて外科的な方法(手術)と薬物(経口中絶薬)による方法があります。
外科的な方法には搔爬(そうは)法と吸引法があり、妊娠組織を子宮から掻き出す搔爬法は、子宮を傷つけてしまう合併症のリスクが指摘されています。WHOや厚生労働省は、搔爬法よりもリスクが少ない吸引法を推奨しています。
しかし2023年の厚生労働省の調査では、人工妊娠中絶(36,007件中)において、搔爬法13.8%、搔爬・吸引併用22.4%であったことが明らかになっています。2012年の調査と比較すると割合は低くなっているものの、まだ日本では3割近く搔爬法が用いられています。
(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001294283.pdf)
経口中絶薬を用いる場合、日本では現在、以下のような課題があります。
- 妊娠9週0日までしか利用できない
- (この方法では2種類の薬を服用するが、)2剤目を飲む際には、入院を要する
- 2剤目を一度しか服用できない
- 流産には利用できない
- 費用が高額
他国では法律などにもよりますが、妊娠22週までや人工妊娠中絶可能な週数まで利用できる、遠隔診療やクリニック以外(自宅など)での服用が利用できるといった場合があります。また日本では2剤目を飲んで人工妊娠中絶が完了しなかった場合、手術への移行が必要となるということも特徴です。
さらに日本では、流産は保険適用となりますが、人工妊娠中絶は自由診療扱いです。そのため流産と同じ処置をしたとしても、費用が大きく異なります。経口中絶薬として用いられている薬は、現状日本では流産には使えない(諸外国では、稽留(けいりゅう)流産に使われることが多い)という、ところにもハードルがあります。
※入院必須という要件については、2024年9月現在見直しが検討されています
世界の状況、国際スタンダードな中絶ケア
WHOが2022年に出した『中絶ケアガイドラインエグゼクティブサマリー』(リプラと日本助産学会が翻訳)には、中絶と中絶後のケアを、女性の権利として実施していくことが書かれています。ここでは、当事者が中心に置かれ、中絶の制限や規制をしないことが謳われていますが、日本の刑法堕胎罪や配偶者同意などは、まさに制限や規制にあたります。
(https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/352342/9789240045163-jpn.pdf)
他にも、国際産婦人科連合(FIGO)が推奨し、Women First Digital (WFD)と国際家族計画連盟(IPPF)が作った『How To Use Abortion Pill』(リプラと日本助産学会が翻訳)e-Learning動画があります。このうちプロバイダー向けのものでは、人工妊娠中絶に関して「当事者を中心としたケア」「権利に基づくケア」「質の高いケア」「プライバシーと守秘義務」が原理原則となっています。
そして、セルフケア、どんな中絶を行いたいかや、中絶後の避妊の希望をするかしないかを確認する中絶前のケア、日常生活へ戻ることを含む中絶後のケアについて説明されています。当事者の希望、経験、判断、決定が中心のアプローチがとられていることが特徴です。
(https://vimeo.com/showcase/11016281)
安全な中絶・流産を「当たり前」に
ウェビナーでは、まずは中絶について話す機会、そして話す仲間を増やしていきたいというトークが繰り広げられました。参加者からも、「中絶について自己決定できる方が増えるよう、もっと中絶のことをオープンに話せる環境がほしい。中絶=いけないことという認識を変えていきたい」「中絶に対してネガティブな感情・価値観を抱かなくて良いよう、女性やその相手の男性の未来を決定する大切な権利であることを、義務教育で伝えていくべきだと思った」といった感想が寄せられました。
9月28日は「国際セーフアボーションデー」です。まずは私たちが、安全な中絶・流産についてオープンに語ることから始めてみましょう。
- Author
橋本望
民間企業2社で営業職を経験の後、2024年にジョイセフ入職。日本の若者向けの啓発事業を担当している。