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男らしさってなんだ?!~男性のSRHRについて考える~(2024年 国際男性デー記念イベントレポート)

2024.12.12

2024年11月17日(日)に【男らしさってなんだ?!~男性のSRHRについて考える~】を東京都内の会場で開催。プログラムは、以下の3部構成で実施しました。

  • 第1部:新ツールを通じて考える~「じぶんごと」としてのSRHR~
  • 第2部:若者と考える 「男らしさ」ってなんだ?!
  • 第3部:「明日できるアクション」を考えようSRHR NOTEワークショップ&SRHRトーク

第1部:新ツールを通じて考える~「じぶんごと」としてのSRHR~

この日発表した新ツール『Men’s SRHR Mini BOOK for All: ~みんなで考える、男性の健康とジェンダー~』の分担執筆・監修を担当した教育学者の堀川修平さんが登壇。本冊子の執筆にまつわる話や、ジェンダー差別をめぐる社会と個人の関係についてのお話がありました。

堀川修平(ほりかわ・しゅうへい)さん
1990年、北海道江別市生まれ。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。埼玉大学ダイバーシティ推進センター特定プロジェクト研究員。性教育や性の多様性、性的マイノリティ運動に関わる人々の歴史研究をしている。

【冊子の内容】
  • SRHR
  • 「ジェンダー差別」って何? 男にも関係あるの?
  • セックスは何のため? AVのセックスはお手本になる?
  • ペニスの勃起の仕組み
  • 性別を問わず誰もが幸せに生きるために「ジェンダー・ギャップ」を埋めよう!

男性の生きづらさは、男性であることではなく「男らしさ」の押し付けが原因ではないか

ー堀川さんが執筆した章の注目ポイントは
 
【「ジェンダー差別」って何? 男にも関係あるの?】
特に若者の間で生まれやすいピア・プレッシャー(仲間からの圧力/同調圧力)に注目してほしいです。ピア・プレッシャーは、「空気を読む」と言い換えることもできます。「自分もこうしないと仲間外れにされるかも」という思いから、意に反して「らしさ」を演じなければならないと思ってしまうことはありませんか。私自身にもそういう経験があります。一方で、自分が気づかぬうちに誰かに「らしさ」を押し付けてしまったこともあったなと思います。そういう思いから、この内容を入れました。
 
【性別を問わず誰もが幸せに生きるために「ジェンダー・ギャップ」を埋めよう!】
ポジティブ・アクションについて、図も入れて説明しています。ポジティブ・アクションは、ただ個別支援や合理的配慮をすればいいという話ではないと思っています。より生きやすい人が多くなる社会に変えていくために、まずは自分自身や社会のこと学んでいこうと問いかける構成を心掛けました。

「男性」という言葉で想定されているのは誰か

従来の教材で「男性」と書かれているとき、それが健常者である(障害がない)とか、日本人であるとか、シスジェンダー*1であるとか、ヘテロセクシュアル*2であるといった、限られた男性のことしか想定されていないことに「乗り切れない」と感じたことがありました。タイトルで男性と銘打ちながらも、多くの人が自分や自分と仲のいい誰かの話だと思いながら読んでもらえるものにしたいという思いで、この冊子を作りました。

【おわりに】に込めた思い

私は普段、性教育が進められてきた歴史の研究をしています。その中で、社会でなかなか理解を得られなかった問題にずっと取り組んできた人たちの存在が、社会を変えたのだということを感じています。そして、私自身の実感や、私の授業を受けた学生の反応からも、自分たちが変わると、人間関係が変わり、社会も変わっていくということを感じます。
これを手に取った一人ひとりが、まず「じぶんごと」として自分自身のジェンダー・セクシュアリティについて考え、周りの方に伝えていくことが、社会を変えていく一歩に繋がると思っています。

一人ひとりが今日からできること

①「らしさ」の押しつけをしないこと、②人に期待し続けることができると思います。
今は「らしさ」に凝り固まっている人に対しても、何度も語りかけることで、「こういうことだったんだ!」と気が付くときがくるかもしれません。期待して関わり続ける大変さもありますが、自分のことも大切にしながら、働きかけてみてほしいです。

*1 シスジェンダー:出生時に割り当てられた性別と性自認(ジェンダー・アイデンティティ/性同一性)が一致している状態
*2 ヘテロセクシュアル:異性愛者

第2部:若者と考える 「男らしさ」ってなんだ?!

登壇者紹介:

清田隆之(きよた・たかゆき)さん
1980年東京都生まれ。文筆業、「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。ジェンダー、恋愛、人間関係、カルチャーなどをテーマに様々な媒体で執筆。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。Podcast番組『桃山商事』『オトコの子育てよももやまばなし』も配信中。
 


 
Ken(けん)さん
26歳、会社員。大学在学中にサークル活動を通して、性的同意の啓発や、校内の生理用品設置に取り組む。大学卒業後、2022年11月に男性アクティビストを増やす会を発足。イベントや情報発信、コミュニティ運営を通して、男性がジェンダー課題に取り組みやすい環境づくりに努める。その他、現在はSRHRユースアライアンス、一般社団法人ソウレッジのメンバーとしても活動中。
 


 
りょうさん
都留文科大学教養学部地域社会学科4年。性教育サークルSexology代表。学校教育の中で性教育を受けてこなかった経験から高校2年生から性教育の活動を始めた。山梨で包括的性教育の学びの機会を広め、若者が性について話したり相談したりできる場所を作りたいと思い、大学1年生の時にサークルを設立。性教育、性的同意、ジェンダー・セクシュアリティについてSNS発信やワークショップ制作、冊子の作成等の活動をしている。
 


 
おだちゃん
地方の大学4年生でユースの保健室という団体を発足し、SRHRについての活動を行う。大学1年の時にパートナーの悩みをきっかけにSRHRに関心を持ち、ユースクリニック設立にむけて活動を開始。【大切な人に寄り添える社会】をビジョンに、女性の健康問題への男性向けの啓発やパートナーシップを中心としたSRHRの幅広い分野で金沢で活動中。
 


 
ファシリテーター:

橋本ゆき(はしもと・ゆき)さん
株式会社ツギステ代表取締役社長/渋谷区議会議員。東大生アイドルとして、アイドルグループ「仮面女子」に所属しインディーズ女性アーティスト初のオリコン1位を獲得。アイドル引退後は「誰もが挑戦できる社会」を作るため、渋谷区議会議員として、「スタートアップ支援/コミュニティ活性化/行政DX/女性の健康支援/エンタメ支援」に取り組む。23年、株式会社ツギステを設立し、「アイドルのキャリア課題」の解決を目指す。
 


 

活動始める前の自分との変化

橋本さん:第1部でも下ネタと性暴力の違いの話が出ましたが、私自身ももしかしたら「下ネタ」を嫌に感じていた人がいたかもしれない、止めなかった自分は加害者側だったかもしれないとジェンダーの問題に関心を持ってから気が付くことなどがありました。皆さんは、活動を始める前後でどんな変化がありましたか。
 
清田さん:ジェンダーの問題に関連して、性教育や人権のことも学ぶようになりました。子どもなど身近な人との関係性の中でも、相手との境界線を意識できているか、傷つけていないか意識するようになったと思います。
 
Kenさん:国の法や制度、生活、一人ひとりの言動など様々なレベルで、ジェンダーの課題があることに気が付くようになりました。例えば、結婚式で新郎の名前が上/新婦の名前が下に書かれているのを見て、並列でいいのになと思ったことがあります。自分自身もジェンダー差別にあたる発言を口に出す前に踏みとどまれたり、言ってしまった後に相手に謝ることができたりしたことがありました。
 
りょうさん:「男らしさ」や「男と女」に二分されることなど、日常生活で自分自身が感じるもやもやを、言語化できるようになりました。例えば恋愛リアリティ番組などでは、バラエティ番組として面白く見られる部分があることを理解しつつも、「男性はこうあるべきだ」という規範を、再生産している部分もあるのではないかなと感じることもあります。
 
おだちゃん:活動をしたり勉強したりするほど、自分は理解した気になっていないかというのが気になるようになりました。自分はジェンダーについて考えている、イコール、相手のことを理解しているということにはならない、一人ひとり違うんだと思うようになりました。

地域の中での活動の難しさ

おだちゃん:地域のお祭りで、性教育や月経教育の依頼をいただいたのですが、「オープンにやると不愉快に思う人がいるかもしれない」「性教育は学校を通してほしい」と行政に止められてしまったことがありました。また、政策提言に行った時には、「それは私の課ではない」とたらいまわしされたこともあり、まずはSRHRをインプットするところから始める必要性を感じました。
 
りょうさん:私は大学進学を機に山梨に引っ越したこともあり、ロールモデルや地元のつてがない中でのスタートが大変でした。今は、さらに自分がやってきたものを次世代の後輩につなげていくこと、地域で持続可能にしていくことに課題を感じています。
 
清田さん:全国の男女共同参画センターで、「男らしさ」や日常のもやもやから見えてくる性差別のお話をしたり、ワークショップをしたりすることがあります。SNSでのつながりはあっても、地域では「変なやつ」だと思われて、なかなか話をできる人が見つからないというような話を、参加者から聞くことがあります。地域における「孤立」や、家父長制的な風習が根強い中で「板挟み」になっている人、そして今日一緒に登壇している皆さんには「一緒に頑張ろう」と言いたいです。
 
橋本さん:ジェンダーの話をするとき、女性の権利が奪われやすい構造の中で、女性同士の連帯は生まれやすいと感じています。でも同じ構造の中で、苦しんでいる男性もいますよね。男性もおしゃべりをしたり、生きづらさをシェアすることから始めて、「一緒に頑張ろうね!」と連帯していけるといいですね。
 

SNS上の言説との付き合い方

清田さん:例えば今年の初め頃、SNSでスポーツ経験がない男性を断言口調で煽るショート動画がバズりました。ジェンダーや人権に関して、自身の加害性にも向き合いながら丁寧に発信していこうという思いがある一方で、「数字を稼げる」動画が家父長制的なものを再生産していることを目の当たりにしてもやもやします。皆さんはこういうものとどう付き合っていますか。
 
Ken:ちょうど昨日、モテを発信するアカウントをSNSで見て「しんどいな」と感じました。数年前には「論破する」が流行って、子どももたくさん真似をしていて、メディアの影響力を感じましたね。
団体としては、まず関心層にアプローチして仲間を増やしていくことに力を入れています。ジェンダー平等に取り組む人、共感してくれる人を増やして、束となっていい方向への影響を大きくしていきたいと思っています。
 
りょうさん:「モテる方法」的な投稿がSNSで流れてくると、「自分は自分らしくあっていいという」価値観と、社会でよいとかモテるとされる価値観との間でもやもやすることがあります。先日、国政政党の代表の「30(歳を)超えたら子宮を摘出する」発言を聞いたときには、家父長的な「男らしさ」に縛ら囚われた価値観を学び取ってきたことが、こういう発言に繋がったのかなと思いました。
サークルとしては、まずは同じ大学生に知ってもらいたいと思っています。本や動画コンテンツをきっかけとしてもらえるよう、各年代向けの性教育やジェンダー・セクシュアリティについて学べるブックリストを作っているところです。
 
橋本さん:そのブックリスト、大学のトイレに設置することとかができたら、よりいろんな人にリーチできそうですね!おだちゃんはどうですか。
 
おだちゃん:大きな主語で断定されると、怖いと感じてしまいます。団体としては自分の意見をちゃんと持っている人を増やしたいと思っています。自分の意見を持っていれば、SNSの言説の受け取り方も変わるかなと思います。
 
清田さん:顔が見える範囲の仲間を増やしてコミュニケーションを丁寧にしていこうというのは、皆さんに共通していそうですね。自分が皆さんの年の頃はジェンダーという言葉もよくわかっていなかったので、頼もしいです。煽るような言説が数字になりお金になりやすい、新自由主義的な構造がある一方で、皆さんのように丁寧に活動していきたいという思いを「大人」の世代として応援していきたいです。

今日から取り組めること

清田さん:いわゆる「マジョリティの男性」が学んで、反省して、価値観をアップデートしていこうというのは大事だと思いますが、自助努力や自己責任論だけではどうにもならない社会構造の部分もあると思います。
そんな中でも個人でできる小さなこととしては、男性がもっと自分の話をして、もっとあなたの話をして欲しいと伝えて、おしゃべりすることだと思います。自慢話や経歴・実績の話など役割にのっとった話だけではなくて、個人の内側にあるもやもやや、話したさ(Being)に耳を傾けて、開放していける環境や関係性があるといいなと思います。
 
Kenさん:今日から取り組める簡単なことのひとつは、情報収集だと思います。SNSのアカウントをフォローすると自分のタイムラインが変わっていくので、情報収集の習慣を生活に取り込んでいくことが、こうした問題に向き合うきっかけになると思います。
 
りょうさん:情報収集したことを、さらに身近な人にちょっとずつ話していくといいと思います。私自身一度ではなかなか伝わらないことも、少しずつ話していくことで、身近な友人や家族の新しい気付きや学びのきっかけになっていると感じます。そして、SNSでつぶやくなど、何か今すぐにでもできるアクションをしてみるのも、社会を変えるきっかけになると思います。やってみて、うまくいったこといかなかったことが見えることで、新たに学びたいことも見つかってきます。
 
おだちゃん:ただ話すだけではなく、相談して意見を聞いてみるのがいいと思います。それを通じて、自分の価値観も広がっていくと感じます。
 

今後の展望

おだちゃん:石川県にユースクリニックを設立したいです。さらに、地域で活動するピア・アクティビストの仲間を増やしたいと思っています。
 
りょうさん:サークルをどう後輩につないでいくかということが、今の課題です。もう一つ私もユースクリニックのようなものを山梨でやりたいと思っていますが、うまくいかないところがあるので、それも今後の目標です。
 
Kenさん:現在2カ月に1回の頻度で実施しているイベントの回数やバリエーションを増やしていきたいです。個人としては、イベントを考えるときにトランスジェンダーの男性、ゲイ男性、障害がある男性など、あらゆる男性を想定して、あらゆる男性を置き去りにしないようにすることも、今後さらに取り組んでいきたいと思っています。
 
清田さん:文筆の仕事を通じて、考えるべきことは抑えながらも、日常の話やくだらない話なども取り入れながら、「真面目な話」になり過ぎない空気づくりに貢献していきたいです。

第3部:「明日できるアクション」を考えようSRHR NOTEワークショップ&SRHRトーク

SRHRリレートークを実施。トップバッターの株式会社TENGAヘルスケアからは、イベント来場者にプレゼントしたスマートフォンのカメラに簡単に取り付けて精子が観察できるキット「TENGA MEN’S LOUPE メンズルーペ」や、セイシルの「デートDVチェッカー」などについて説明。会場に設置した、SRHRに関わるアイテムやツールの展示コーナーにも、多くの来場者が関心を寄せていました。
 

 
ICU Men’s Studies SocietyからはSNSや今後のイベントの予定、セクテルからは全国各地での講演実績やちかん防止キーホルダー「チカキー」、そしてジョイセフからは、2025年に10年目を迎えるホワイトリボンランを紹介。第2部でファシリテーターを務めた橋本ゆきさんからは、株式会社ツギステ主催でジョイセフが監修している「IDOL well being FES! 2024」を告知しました。
 

 
リレートークの後には、SRHR NOTEを用いたワークショップを実施。SRHRのキーワードを確認して身近と感じるものに丸を付けたり、「明日できるアクション」の欄を記入して参加者同士で共有したりしました。
 
このイベントや、新ツール「Men’s SRHR Mini BOOK for All: ~みんなで考える、男性の健康とジェンダー~」をきっかけに、みんなで男性のSRHRについて考え、すべての人がより生きやすい社会を目指していきたいと思います。
 
イベントで発表した「Men’s SRHR MINI BOOK for All: ~みんなで考える、男性の健康とジェンダー~」の配布にご協力いただける方は、以下よりお問い合わせください(※送料のご負担をお願いいたします)。
https://joicfp.shop/items/673c02b96c3f1e057f660088
 
また、こちらのページでも内容を公開しています。
https://joicfp.or.jp/srhr/whatis/srhr4men-01/
 

【協力】株式会社TENGAヘルスケア、サラヤ株式会社、塩野義製薬株式会社、ジェクス株式会社、わかもと製薬株式会社

Author

橋本望
民間企業2社で営業職を経験の後、2024年にジョイセフ入職。日本の若者向けの啓発事業を担当している。