みなさん、こんにちは。ザンビア駐在員の山口和美です。ザンビアでは2023年の4月から「コミュニティエンパワメントによるジェンダーに基づく暴力(GBV)対策事業」を実施しています。
GBVとは、ジェンダーを理由に個人に向けられる暴力のこと。夫婦や恋人などパートナー間でのドメスティック・バイオレンスや、性的暴行、性的搾取、言葉による心理的虐待などが含まれます。
2023年9月には、現地協力団体のザンビア家族計画協会(PPAZ)とともに、ジェンダー平等を推進し、ジェンダーに基づく暴力(GBV)を予防するとともに、GBVの被害に遭った人をケアやサービスにつなげる活動に地域で取り組むためのワークショップを開催。人々へ届けるメッセージや啓発活動を考える「コミュニケーション戦略」に取り組み、コミュニティで実際に使う教材のたたき台を制作しました。
相手の思いや考え方に働きかけて個人の行動の変容を促しながら、その行動変容が起こりやすい環境が作られるようコミュニケーションの力を通じて働きかけるアプローチを、「社会行動変容コミュニケーション(SBCC)」と呼びます。
ジョイセフはSBCC活動において、まず啓発活動の担い手となる住民の代表とともに、コミュニケーション戦略作りを行っています。今回も専門家としてジョイセフの吉留桂が派遣され、さまざまな形のGBVに関して、どのようなメッセージをいかに伝えるか、技術的なサポートを行いました。
研修はコミュニティ参加型で行われ、連日、朝から晩まで、熱い議論が繰り広げられました。参加したみなさんの感想をお届けします!
1.メルダ・チレベラさん(SMAG:保健ボランティア)
- 自己紹介
- カピリムポシ郡ルコンバ村で、保健ボランティア(SMAG)として活動中。コミュニティの人に、自宅ではなくヘルスセンターで出産するように伝えています。栄養のカウンセラーでもあり、バランスの良い食事や地元で採れた栄養のある食材を使うことを勧めています。家では農業もやっています。
- 研修の感想
- ジョイセフとPPAZによる研修は、2019年にSMAGのトレーニングを受けて以来でした。今回の研修では、メッセージの発信者と受信者が誰になるのかを話し合いましたが、このコンセプトは初めて知りました。今はあらゆる人がメッセージの発信者になりえると分かりました。
以前、夫から身体的な暴力を受けた女性が私の家に相談に来たことがあります。そのときはケアが受けられるクリニックを紹介しました。このように私がGBVのカウンセリングを行うにあたり、今回のワークショップで得た学びは、あらゆるGBVのケースを細分化して必要な情報を提供するために役立っていくと思います。
今後は村やヘルスセンターでのミーティングで、ポスターなどを使いながらGBVのことを話します。何がGBVなのか、GBVが起こりうる要因、危険なサインなど、包括的な情報を伝えていきたいです。
2.エスター・テンボさん(マリッジカウンセラー)
- 自己紹介
- カピリムポシ郡のルコンバ地区で、中等学校の栄養学の教師と、マリッジカウンセラー(コミュニティの結婚相談員)をしています。これまで8年間、結婚する前の若者に、どのように子どもを育てるか、家族やパートナーとの関わり方などをカウンセリングしてきました。すでに結婚している夫婦も、喧嘩や誤解があるとカウンセリングを受けに来ます。
- 研修の感想
- この研修はとても勉強になりました。コミュニティの様々な人が参加して、GBVのメッセージをどのように届けるか一緒に考え、アクションプランを作成したことには、大きな意味があると思います。研修チームの一員になれてとてもうれしいです。
これまで、小学校6年生(12歳)の女の子が、父親から19歳の男性との結婚を強制されて学校を中退したケースがありました。また、私の学校でも、つい先日2人の男子生徒がドラッグを吸って女性の先生や生徒に暴力をふるってしまい、今学校で話し合いが行われています。
2人の子どもがいるお母さんから「離婚した夫が食べ物や服を支援しなくなってしまった」と相談を受けたこともあります。
どんな形のGBVがあるのか、コミュニティの人たちは知りません。暴力は犯罪であり、家族を壊してしまいます。今回研修で学んだこと、そして「みんなでGBVを終わらせよう」というメッセージを、コミュニティの人たちに伝えていきたいと思います。
3.カリタ・チンゲンデさん(助産師)
- 自己紹介
- ルワンシンバ郡カクル地区のヘルスセンターで助産師をして12年になります。カウンセリングや看護ケアを行うこともあります。
- 研修の感想
- 研修のはじめは、Easy Plannnig Board(*コミュニケーション戦略作り用にジョイセフが開発したテンプレート)を使ってコミュニケーション戦略を考えましたが、内容を理解するのが難しかったです。でもステップが進むごとに各項目の内容とつながりを理解することができました。 グループワークがたくさんありましたが、とても楽しかったです。こうして作り上げたメッセージは「私たちからできたもの」で、私自身もコミュニティのみんなも助けてくれるものだと思います。
私が持っているこの絵は、コミュニケーションツールを作るワークで描いたもので、上から「夫から妻への暴力」、「少女への性的な行為」、「少女への身体的暴力」です。女性だけでなく、男性も暴力の被害者になりえます。身近では、離婚した夫が子どもに会いに来たときに、妻とその家族から暴力を受けたケースもありました。また研修では、身体的、性的な暴力だけでなく、心理的、経済的な暴力も深刻な問題であると学びました。
GBVを終わらせるには、①GBVについて理解を広めること ②被害者と支援先をつなげること ③学校、教会、バー、家庭など、あらゆる場面でGBVについて話せる環境を作ること ④政治家や伝統的リーダーなど影響力のある人にGBVについて伝えてもらうこと などが必要だと思います。
これからコミュニティの人たちに伝えたいのは、「自分の家族に責任をもって行動しよう、感情をコントロールしよう、平和な家庭を築こう」というメッセージです。すべては家庭から始まり、家庭が平和であればコミュニティが平和になります。この村が平和になったら、それはルワンシンバ地区、カピリポシ郡、セントラル州、ザンビア全体に広がっていくと信じています。
4.ジャストン・カムウェフさん(伝統的リーダー)
- 自己紹介
- カピリムポシ郡カクル地区で22年間伝統的リーダーを務めています。家庭や近所の問題を解決したり、壊れた橋を直したり、学校で教室を作る際に村の人々を組織するのが仕事です。
- 研修の感想
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研修では新しい知識を得ることができました。どのように暴力の加害者とコミュニケーションをとるのか、また、被害者がコミュニティでアクセスできる場所(相談先・避難先)についても知りました。
これまで啓発活動をする際は、すでに完成された教材をもらっただけでしたが、今回は他の地域の人とも経験を共有しながら、自分たちで新しくツールを作ったのが興味深かったです。最初はうまくできるか心配でしたが、なんとか形になってよかったです。私たちは作った本人なので、それを使ってコミュニティで何をすべきか分かっています。
ジェンダーに基づく暴力を防ぐための男性の役割は、友人や周りの人に「暴力をやめよう」と伝えることだと思います。また男性が暴力にあったとき、周りに笑われたり弱い男だと思われたりすることがあるかもしれませんが、恥ずかしがらずに他の人に助けを求めることが大事だと思います。
とくに私たちの地域では児童婚が多く、問題になっています。児童婚が子どもの将来にどのような影響を与えるのか、それが暴力の一種であることをコミュニティに伝えていきたいです。
ワークショップ担当者からのメッセージ 吉留桂(ジョイセフ)
これまで世界各地で50回近くにわたり、人々に働きかけるコミュニケーション方法を考えてメッセージを制作するワークショップのファシリテーションを行ってきました。その多くは産前検診や病院での安全な出産の推奨、意図しない妊娠や性感染症の予防など、保健に関する内容です。GBVをテーマとして扱うのは初めてのことで、いつも以上に時間とエネルギーを使いました。
例えば「夫が妻をたたくのは愛情表現」という考えを、「夫が妻をたたくのは暴力であり、犯罪」という認識に変えるには、どうすればいいのか。「ジェンダーに基づく暴力」を村の人に説明するのに、そもそも『ジェンダー』をどのような言葉で説明したらいいのか。「ジェンダー平等」もしかり。
このように抽象的で概念的な言葉を、ワークショップの参加者とともに、村の人たちが分かる具体的な内容に、それも現地で話されているベンバ語で置き換えながら、メッセージを作っていきます。その作業は、何から手をつけたらいいのかと、気が遠くなるような道のりに思えました。
ワークショップに参加しているのは、村に暮らし、それぞれの立場で、日々の生活の中で様々な形のジェンダーに基づく暴力を見聞きし、体験している人たちです。私たちファシリテーターの役割は、参加者一人ひとりが持っている経験を引き出し、整理して、戦略やメッセージ作りに変換していくプロセスをサポートしていくことなのだ、と腹落ちしました。私自身、これまでそのように説明してきましたが、今回「つまりこういうことなのかな」と気づいたのです。
ワークショップを一緒にファシリテートした同僚のアリスが、「暴力を受けた男性が、弱い人間だと思われるのが怖くて、暴力を受けたと言えない状況がある。今回、そのことに私も初めて気づいた」と言っていました。ザンビア人のアリス達も村に暮らしているわけではないので、コミュニティのベールを剥がした内側で、どのような形のGBVが起きているかを全部知っているわけではないのだ、ということも分かりました。
特効薬の様にすぐにGBVを解決する方法はないのかもしれませんが、このワークショップは、社会変革を起こす大事な一歩になると思います。
ジョイセフの活動は、マンスリーサポーター「ジョイセフフレンズ」に支えられています。
支援活動において、ジョイセフが最も大切にしているのは「人づくり」です。女性の健康や権利、ジェンダー平等を推し進める教育や啓発、技術支援など、一人ひとりの「エンパワーメント」をプロジェクトの柱としています。
人の意識や行動が変わると、その変化は周囲のコミュニティに広がり、根付いていきます。「人づくり」中心の支援は、モノやお金だけでは成しえない、持続可能な、地域の人々の手で発展していく成果を残すことができるのです。
支援地域の人々と信頼関係を築き、ともに良い変化を根付かせていくためには、長い年月が必要です。ジョイセフは多くのマンスリーサポーター「ジョイセフフレンズ」、協賛企業・団体の皆さまの協力により、地域の人々とコミュニティをエンパワーする支援活動を続けてこられました。
ジョイセフと一緒に現実を変えていく「ジョイセフフレンズ」に、ぜひご参加ください。
- Author
山口 和美
ザンビア事業担当として現地に駐在中。ジェンダーに基づく暴力事業や子宮頸がん事業を担当。学生時代から国内、タンザニア、ルワンダのNGOでインターンを経験。第7回アフリカ開発会議(TICAD7)では、日本とアフリカのユースの声を集めて政策提言活動やアウトリーチ活動を展開。とくに思春期世代の若者のSRHRに関心があり、ジョイセフのI LADY.やSRHRユースアライアンスでも活動。アフリカの子ども支援NGOで、ケニア・ウガンダのライフプランニング支援や生計向上支援、10代の妊娠防止事業に携わった後、ジョイセフに入職。好きな画家はニキ・ド・サンファール。