知るジョイセフの活動とSRHRを知る

7月10日、ジュネーブでの第53回国連人権理事会で、日本政府のUPR勧告採択が行われました。

2023.8.21

国連人権理事会は、人権侵害を防止し、人権主流化のための総合的な政策ガイダンスを提供し、新しい国際規範を発展させ、世界のいたるところで人権順守を監視し、加盟国が人権に関する義務を果たせるように支援する機関です。(国連広報センター引用)

国連人権理事会では、全ての国連加盟国の人権状況を定期的に審査する仕組みがあります。この審査はUPR(普遍的定期的レビュー)と呼ばれ、4年半ごとに行われます。

2023年1月、日本は4回目となるUPR審査を受けました。日本は115カ国から合計300個の勧告を受け、そのうちSRHR(性と生殖に関する健康と権利)に関連しては、24の加盟国から、避妊薬へのアクセス向上や堕胎罪の撤廃、性的指向・性自認に基づく差別禁止に関するものなど、36個の勧告を受けました。

これらの勧告を日本政府が受け入れるかどうか注目される中、2023年7月の国連人権理事会において、被審査国が勧告を採択するための会合「UPR採択会合」が開催され、日本を含め13の被審査国が採択を行いました。

この記事では日本の採択結果をお伝えするとともに、日本政府の見解に対し、現地でジョイセフと8つの市民団体が出した声明をご紹介します。
採択会合では、各国1時間が割り当てられていました。冒頭、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の山﨑和之大使による15分の発言後、国連加盟国13か国*がそれぞれ90秒ずつコメント、市民社会からも約10団体が2分ずつ声明を述べました。

* インドネシア、ラオス、リビア、モルディブ、ネパール、ナイジェリア、フィリピン、韓国、中国、シンガポール、スリランカ、チュニジア、ウクライナ、タンザニア

【2022年7月~2023年7月】
国連UPR日本審査をめぐる動き

2022年7月
ジョイセフと国内外の8つの市民団体が、共同で日本国内のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の課題をまとめた報告書(レポート)を国連に提出。

2022年11月
ジュネーブで開催されたUPR審査のプレセッションにジョイセフが登壇し、国連に提出したレポートの内容を紹介。各国の代表部に向けたロビイング活動も実施。

2023年1月
国連人権理事会によるUPR日本審査が開催。UPR(普遍的定期レビュー)とは、すべての国連加盟国の人権状況を定期的に審査する仕組み。
日本はSRHRに関連して、24カ国から避妊薬へのアクセス向上や堕胎罪の撤廃、性的指向・性自認に基づく差別禁止に関するものなど、36個の勧告を受けた。

2023年7月
日本政府に、SRHRに関する勧告を「受け入れる」採択を求めるため、ジョイセフ・共同レポートをともに執筆した団体・ほか市民社会のメンバー・勧告を出した各国の大使館関係者などが議員会館に集まり、勉強会を開催。

2023年7月上旬
ジュネーブでの第53回人権理事会で、勧告採択会合が行われた。

採択会合に先立つこと約1か月、日本政府は1月末のUPR審査で受領した勧告に対する見解を、6月8日付で人権理事会に提出していました。

Report of the Working Group on the Universal Periodic Review* Japan- Addendum
※6月8日の時点では、日本ではLGBT理解促進法や刑法性犯罪の国会審議が進行中でしたが、国連加盟国および市民社会の声明は、この日本政府の見解に沿って行われています。

見解によると、115の国連加盟国から提出された300の勧告のうち、日本政府は180を「supports(フォローアップすることを受け入れる)」としています。
さらに「Partially accept to follow up(部分的に受け入れフォローアップする)」とした勧告は26。
「note(留意する)」は58。 「not accept(受け入れない)」を36としました。


SRHRに関わる回答は、「受け入れる」がわずか1つにとどまる

ジョイセフが8つの市民団体と共同で執筆した、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の課題レポートに関する勧告について、日本政府の回答および見解は以下の通りです。

・避妊薬(具)へのアクセス向上 → フォローアップすることを受け入れる

・安全でタイムリーかつ安価な中絶医療へのアクセス → 留意する

・母体保護法改正 → 受け入れない
理由:母体保護法は議員立法で制定された。これを改正するためには、国会での議論を踏まえて適切に対応する必要がある。

・堕胎罪撤廃 → 受け入れない
理由:堕胎罪を廃止し、一律に処罰できないようにするには、慎重な検討が必要だ。なぜなら、胎児は生物として保護される必要があり、胎児を軽んじることは人命を軽んじることに等しいからである。

・配偶者の同意要件廃止 → 部分的に受け入れフォローアップする
理由:母体保護法は、人工妊娠中絶を行う際の配偶者の同意の必要性を規定しているが、個人の倫理観や道徳観に深く関わる難しい問題である。政府は、母体保護法の適切な規定について、社会のあらゆるレベルで議論を深めることが重要であると考えている。

・性的指向・性自認(SOGI)に基づく差別禁止法制定 → 留意する
理由:日本国憲法第14条第1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、法の下の平等を定め、不合理な差別を禁止している。この原則に基づき、雇用、教育、医療、交通など国民生活に密着し公共性の高い分野では、それぞれの分野で関連法令が差別の禁止を幅広く規定している。例えば、教育については、憲法第26条、教育基本法第4条で、「すべて国民は、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地により差別されることなく、その有する能力に応じ、機会を与えられなければならない」と規定されている。
LGBT理解促進法案の提出を準備しているため、政府は立法プロセスを尊重し、その結論を待つ。

・同性婚 → 留意する
理由:日本の立場は、UPR審査会の中で発言され、報告書草案(パラ81)に記された通りである。
※報告書草案(パラ81)
同性婚を導入するかどうかは、日本の家族のあり方に関わる重要な問題であるため、慎重な検討が必要だった。
https://undocs.org/en/A/HRC/53/15

・性同一性障害特例法(GID特例法)(2003年)の改正 → 受け入れない
理由:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(2003年)の改正には慎重な検討が必要である。
LGBT理解促進法案の提出を準備しているため、政府は立法プロセスを尊重し、その結論を待つ。

・刑法性犯罪改正に関する勧告 → 留意する。
理由:性犯罪に関する法律については、2023年2月に法制審議会が法務大臣に答申した意見書に基づく法案が、2023年3月に国会に提出された。
注 7月10日採択当日の駐ジュネーブ大使の冒頭での発言で、以下のように言及。
「2023年6月、日本は性犯罪により適切に対処するため、以下のような刑法改正を行った:
1)性行為の最低同意年齢を原則13歳から16歳に引き上げる。
2)夫婦間の合意に基づかない性行為を明確に処罰する。」

・イスタンブール条約*の締結 → 留意する
理由:イスタンブール条約には、条約の意義や国内法との関係など、様々な検討すべき点が含まれている。したがって、日本はその内容を十分に精査する必要がある。
*イスタンブール条約:正式名称は「女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約」。欧州評議会の国際条約であるが、2011年5月にトルコのイスタンブールで署名され、2014年に発効したことから「イスタンブール条約」と呼ばれている。EU加盟国以外でも批准が可能。4つの「P」Prevention (予防)、Protection(保護)、Prosecution(訴追)、Policy(制度作り)を柱としてなる、現在もっとも包括的なGBV(ジェンダーに基づく暴力)対策法とされている。

・国際基準に見合った包括的な性教育へのアクセスに関する勧告 → 受け入れない
理由:我が国では、既に「教育課程基準」に基づき、児童生徒の発達段階に応じた多様な観点からのセクシュアリティ教育が行われている。一般的な用語としての「包括的セクシュアリティ教育(CSE)」も、ユネスコガイダンスが提唱するCSEも、政府としては容認できない。

ジョイセフと8つの市民団体による声明:日本政府に対して、今後SRHRを守る措置を取ることを求める

日本におけるSRHRの課題について、レポートを国連に提出していたジョイセフと8つの共同執筆団体は、これらの日本政府の見解に対し、採択会合中に声明を発表しました。

「私たちは、堕胎罪の撤廃、人工妊娠中絶の配偶者同意要件の撤廃、法的な性認定の手続きにおいてトランスジェンダーの人びとに不妊手術を強制する法律の改正、包括的なセクシュアリティ教育の実施について、日本政府が勧告を受け入れなかったことを深く遺憾に思います。
また、日本政府の、手頃な価格で安全かつ個人の尊厳が守られる中絶医療へのアクセスを確保すること、包括的なLGBT差別禁止法を制定すること、同性婚を認めること、イスタンブール条約を採択することに関する勧告に対する回答が「留意する」にとどまったことを遺憾に思います。

SRHRは人権です。

日本が議長国を務めたG7広島サミットで採択された首脳宣言には、G7諸国が包括的なSRHRのさらなる推進を約束することが明記されています。

日本はこの約束を遵守し、SRHRを守り推進する良い事例を示すことによって、世界をリードすべきです。

私たちは日本政府に対し、以下のことを求めます。

  • 中絶に関する刑法と母体保護法を見直し、堕胎罪を撤廃し、人工妊娠中絶を女性の健康と権利として保障すること。
  • 性的指向・性自認(SOGI)に基づく差別を禁止する実効性のある差別禁止法を立法し、同性婚を法的に認め、性同一性障害特例法(GID特例法)の強制不妊手術要件を廃止すること。
  • 日本社会から不同意性行為を根絶し、イスタンブール条約を批准すること。
  • 最後に私たちは、科学的に証明された包括的性教育の実施を求めるとともに、より近代的な避妊法、経口中絶薬や緊急避妊薬を必要とする、女性・少女・子宮を持つ人々の声に沿って、これらの承認やアクセス改善を要求します。

私たちは、引き続きSRHRが守られるよう、日本政府に市民社会の声を届けます。
日本政府のUPR勧告採択会合の録画映像はこちらからご覧いただけます。

日本政府のUPR勧告採択会合の録画映像

Author

草野洋美
シニア・アドボカシー・オフィサー。日本のSRHRとジェンダー平等の状況を改善するために、国連人権理事会のメカニズムを活用したアドボカシーに取り組んでいる。 G7の公式エンゲージメントグループであるW7の実行委員兼アドバイザー。 また、若者を中心としたアドボカシーグループ「SRHR ユースアライアンス」の事務局を務め、政策提言を通じて日本のSRHRを取り巻く問題の改善と認知向上を目指している。 2019年にジョイセフに入職する以前は、企業のCSR活動の一環として、2011年の東日本大震災の被災者に対する心理社会的支援プロジェクトを5年間統括した。