前略
ヴァレリーさま
あちらでも精力的に人助けをしておられるのでしょうか。
こちらにいらした時、あなたは国際家族計画連盟(IPPF)で重要なポストについてバリバリと出張し、IPPFにとっての資金提供元である各国政府との関係構築に勤しんでおられました。
私はまだ20代で、ジョイセフでIPPF東京連絡事務所として果たすべき役割のうち、IPPFの事務局長が年に2回来日するミッションの受入をしていました。夢だった国際協力の職についたものの、まだ何もできず、何者でもない自分が不甲斐なく、必死にもがいていた時期でした。
あなたに最初に出会った頃からすでに15年以上経っているということに、少々びっくりします。
あの頃は、私たちにとってとても重要な国際人口開発会議(ICPD)行動計画が採択されてから10年というランドマーク的な時期でした。
性に関することには常に道徳と宗教と伝統や慣習、人々の信念と数多くの課題が入り混じって、せっかく1994年に国連で合意できた文書が、各国の思惑によって、特に米国の大統領選の行方によって大きく左右されていました。その時も同様に国連は揺らぎ、記念すべき10年の節目に国連主催の会議は行わないことになりましたね。
でもNGOはその時頑張りましたよね。国連に代わることはできなくても、市民社会の声をひとつに、ということでロンドンで世界中の人を集めて会議をして、行動計画の実現を目指すという共通目標にみんなで声を上げる機会を作りました。「飲まなきゃやってられない!」と言ってバーに闊歩していった姿が思い出されます。たくさんの人の意見を取りまとめる必要があったので、きっと数えきれないほどの苦労があったろうと思います。
この世界は、狭いけれども小粒でも大粒でもピリリと辛い個性の光る人の集まりなので、みんなの力を集約して何かひとつのことをやり遂げるのは並大抵のことではないでしょう。それをやり遂げたのは凄腕ということでしょうか。
「私の原点は、マイアミの家族計画協会にいた時に。ハリケーンの避難シェルターで保健サービスを提供するために奔走した…あの時の私の経験」と言っていましたね。そんなあなたを私はひたすら尊敬のまなざしで見上げるしかなかったのですが、あなたが初夏の頃に来日した時のこと覚えてますか。
前を歩いていた女性が素足にパンプスという姿だったのを見て、「ねえねえ、ガールトークしていい?(前を歩く)彼女、なんであんなので靴擦れしないの?」と私に聞きましたね。私が何と答えたかはもう覚えていないのですが、いつもシャキッと仕事をしている姿からは想像がつかなかった質問だったので、自分の頭の中を切り替えるのに苦労した記憶があります。
でも私の中で一番深く胸に残るのは、「自分の夢は口に出して言いなさい。それであなたの世界が開けるかもしれないから。あなたはもっと自分のやりたいことをやっていい」というあなたの言葉です。その時咄嗟に出た私の答えは「アフリカに行きたい」でした。
そしてあなたが逝ってしまう前に、「あなたの言葉に従ったおかげで私は今こうしてアフリカで仕事をすることがかないました」、と報告できたことは本当に良かったと思っています。
ご家族が残してくれたあなたの写真の裏にあった詩のように、いつか私も向こうへ行ったらお酒を飲みましょう。あの頃のように。
“And if I go,
while you’re still here…
Know that I live on,
Vibrating to a different measure
Behind a thin veil you
cannot see through.
You will not see me,
So you must have faith.
I wait for the time when
we can soar together again,
Both aware of each other.
Until then,
live your life to the fullest
And when you need me,
Just whisper my name in your heart,
…I will be there”
Ascension — Colleen Corah Hitchcock
話したいことがたくさんあります。
(2021年)
- Author
矢口 真琴
開発協力グループにおいて、タンザニア、ミャンマー、ネパール、ガーナ、スーダン、ザンビアのプロジェクト実施に関わる。現在は、保健サービスの質の向上に寄与するため 5S-KAIZEN分野を担当している。