2016年に活動をスタートしたジョイセフのI LADY.プロジェクト。その活動の先頭に立ち情報発信に取り組んでいるのが、「ピア・アクティビスト」と呼ばれる15〜29歳の人たちです。彼らはSRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights:性と生殖の健康と権利)を学び、同世代に働きかける活動を通して、周囲をエンパワーメントしてきました。
SRHRとは、恋愛や性と生殖に関わることについて、自ら決めることができ、必要な情報や医療を得られる権利のこと。ジョイセフでは、ピア・アクティビストを養成するとともに、ワークショップやイベントを通して、性と生殖に関する正しい知識や最新の情報を発信しています。
会社員として働くまりこさんも、ピア・アクティビストとして活動したひとりです。イギリスの大学院に留学していた2021年にオンラインで養成研修を受け、活動を開始。当時はコロナ禍により、ピア・アクティビストの活動はオンラインがメイン。SNSやYouTubeを活用した情報発信を行って大きな反響を得ました。現在も、ピア・アクティビストの経験を活かし、自身のSNSでの情報発信やイベントへの参加を通してSRHRに関する活動を重ねています。
まりこさんがピア・アクティビストに興味を持った経緯や活動を通して得たこととは。たっぷり語っていただきました。
“お守り”となるような情報を届けたい
もともと私は、大学と大学院でジェンダー論を学び、その過程でSRHRを知りました。
なかでも興味を持ったのが「避妊」の分野です。パートナーシップや妊娠への不安といった悩みを持つ人たちに「お守りになるような情報を発信したい」と思うようになりました。自分はどんなことができそうか調べてたどり着いたのが、ジョイセフのI LADY.プロジェクトでした。
ピア・アクティビストに興味を持ったのは、「SRHRを発信するための知識やコツを身につけて、多くの人にSRHRについて考えてもらうきっかけを作れる存在になりたい」という気持ちだったことを覚えています。イギリスからオンラインで養成研修を受けることを決めました。
I LADY.のツールで思いがけず自分と向き合う大切さを知る
「周りの人にSRHRについて向き合ってもらえるように」という気持ちで申し込んだピア・アクティビストの養成研修でしたが、想定外に自分と向き合う機会になりました。
研修の前に、事務局から「I LADY.ノート」というツールをもらいました。そのノートには、「自分自身を愛せていますか」「自分が望むように行動できていますか」といった、自分を見つめ直す問いが書かれていたんです。そのころの私はメンタルが落ちていて、過食に悩んでいました。ノートにあった問いを見て、自分を後回しにしていたことに気づいたのです。
養成研修では、SRHRについて学ぶほか、メンバーとディスカッションをする時間がありました。ほかのメンバーの話を聞きいろいろな考えに触れ、さらに自分の気持ちを言葉にすることで客観的に自分を見つめることができました。
I LADY.ノートをきっかけに自分に向き合い、養成研修のディスカッションを通して自分の気持ちを話すというプロセスは、当時の私にはとても大きな出来事でした。まさにI LADY.の指針である「Love Yourself(=自分を大切にすること)」です。I LADY.の活動に共感し、活動にも興味が一層湧いてきました。
いろいろな視点を想定した情報発信に取り組む
研修後は4人でグループを組み、情報発信を行いました。
そのひとつがInstagramの投稿です。投稿はメンバーで順番に担当し、内容を考えたら、他のメンバーに共有して意見をもらいます。「表現を少し調整したほうが伝わるよね」「この言い方は、特定のセクシュアリティの人が疎外感を感じるかもしれない」など、アドバイスをしあい、ブラッシュアップを重ねます。さらに事務局の方に確認いただくステップも取り入れ、いろいろな考え方や視点を踏まえた投稿を心がけました。
この投稿をInstagramで見る
SRHRの捉え方や取り入れ方、考え方の基準は、人それぞれです。私にとっての当たり前はほかの人の当たり前ではありません。その意識を持ってメンバーと話し合うことで、自分ひとりでは気づけなかった考えに触れることができました。
また、YouTubeで動画を使った発信にも挑戦しました。動画を活用しようと思ったのは、私たちの生の言葉や気持ちを届けることができるから。「SRHR」と聞くと身構えてしまう人もいますが、決して特別な話題ではなく日常で気軽に話したいテーマだと思います。「もっとSRHRをフランクに話せたら」という思いもあり、自分たちが楽しく話す動画で発信しようと決めました。
YouTubeで公開後、「すごく勉強になった」「周りで話せない話題だからありがたい」などの感想をもらいました。ニーズを実感しましたし、嬉しかったです。一方で、私たちの足りない部分も見えてきました。
それは、動画を見た男性からいただいた「すごく勉強になる反面、男性として申し訳ない気持ちになった」という声でした。男性にSRHRについて知ってもらえたことは収穫でしたが、申し訳なさや罪悪感を抱かせたままではいけないと思いました。いろいろな反応をいただくのは、これからの発信を考える学びとなります。もっと多様な視点で考えなければいけない、と思った大切なできごとでした。
次の世代が生きやすい社会を作りたい
ピア・アクティビストの活動を活かし、いま挑戦していることがあります。
ひとつは、避妊に関して正しい情報が集まるお守りのようなサイトを作ることです。イギリスの大学院で「避妊」をテーマに研究したとき、日本は避妊の情報が集まるサイトがなく、正しい情報を得る機会そのものが少ないことを知りました。ご縁をいただいて、今まさにサイトの立ち上げを進めているところです。
そして、もうひとつは避妊の「選択肢(アクセス)」を増やすことです。この秋に緊急避妊薬の薬局での販売がようやく始まりましたが、避妊に対する認識や情報共有が、日本はまだまだ遅れています。緊急避妊薬をはじめとする選択肢を増やしていきたいという思いから、私はジョイセフのSRHRユースアライアンスでも活動をしています。政府への働きかけなど、具体的な行動に移しながら頑張っています。
ピア・アクティビストを経て、I LADY.は私の生きがいで情熱を注ぐ存在になりました。もっと生きやすい社会を作りたいという思いはもちろん、次の世代には同じ思いをしてほしくないという気持ちも芽生えています。
SRHRに取り組む団体はほかにもたくさんありますが、ジョイセフのI LADY.プロジェクトは「自分を大切にする」ことにフォーカスを置いているところに魅力を感じます。次の世代のためにも、ピア・アクティビストの経験を活かし、活動を広げていきたいです。
聞き手・執筆:鈴木ゆう子
- Author
JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします