カンボジアプロジェクト 3つの主な活動

カンボジアの性教育とピア・エデュケーター

  • カンボジアの性教育は小学校高学年から始まりますが、体の成長や生殖器の機能について生物学の授業で取り上げられるのが通常です。包括的性教育(*)をカリキュラムに導入した学校では、生理や妊娠の仕組み、避妊などの保健教育や、ジェンダーや権利について考える内容が授業に取り入れられるようになってきましたが、子どもたちが知っておくべき内容をまだ十分にはカバーできていないのが現状です。

    モデル校として選んだネットヤン中高等学校(生徒数2600人)では、性教育の授業を補完する重要な役割を担うピア・エデュケーターを、受験の学年を除く中高校の1、2学年の各クラスから2名ずつ選びました。包括的性教育の研修を受けたピア・エデュケーターは、授業の一部の時間を使い、毎月、各自でテーマを決め、グループディスカッションを行います。

  • 包括的性教育
    (Comprehensive Sexuality Education (CSE))

    性を人権の視点で捉え、若者が性行動の選択場面に有効な自己決定能力、自己肯定感を含めたライフスキルを身につけることをめざす性教育。ジェンダーとは何か、リプロダクティブ・ヘルスやライツ(性と生殖に関する健康と権利)とはどういうものか、人間関係をどのように構築していけばいいのか等について、多角的に学びます。2017年初めにカンボジア政府が決定した全国での包括的性教育の学校カリキュラムへの導入は、IPPFカンボジアによる政府への働きかけにより実現しました。

    薬物について話をする中学2年のピア・エデュケーター。時折質問を投げかけながら、クラス全員で問題を議論します。

    2カ月に一度のピア・エデュケーターの集まりで、コミュニケーションスキルを磨くために、決められたテーマについて模擬発表を行うピア・エデュケーター。この日のテーマは、「見知らぬ大人が近づいてきたらどうする?」。

    プロジェクト現場からの声

    • 「ピア・エデュケーターには、生徒たちの健康を守るリーダーに育ってほしい。」と語るネットヤン中高等学校教務主任のイン先生。ピア・エデュケーターの活動が始まってから、シャイだった生徒たちが性や自分の体のことについて人前で話すようになってきたそうです。

    • 中学2年生のピア・エデュケーターの女の子たち。
      「自分の体のことをもっと知りたくてピア・エデュケーターになりました。研修で学んだことを友達に伝えたい。」とピア・エデュケーターになったきっかけについて話してくれました。

    ピア・エデュケーターが使用する包括的性教育マニュアル

    ピア・エデュケーターが使用する包括的性教育マニュアル。IPPFカンボジアとカンボジア教育省が協力して作ったもので、全国で包括的性教育の授業を取り入れている学校でも活用されています。
     


     

    村で活動するピア・エデュケーター

    学校に行くことができず働く若者や出稼ぎに行く予定の若者を対象に、村で活動するピア・エデュケーターも育成しました。コミューンから推薦を受けたのべ46人のピア・エデュケーターは、思春期の男女や若者を集めてグループディスカッション活動を行ったり、個別に若者の悩み相談を行い保健サービスの利用を促します。

    思春期の少年少女を対象に、子どもから大人への体の成長について話すピア・エデュケーター。

    プロジェクト現場からの声

    • プレイコンセック村のピア・エデュケーターとして活動する大学3年生のコンさん。授業がない時に、グループディスカッションの活動を行います。
      「活動を始めてから、これまでなら人には話せなかった悩みについて相談に来てくれる若者たちが増えたことが一番うれしい。女の子からは特に月経についての相談が多くて、深刻な場合はIPPFカンボジアのクリニックで診療を受けるように勧めます。」


    • コミューンの女性と子どもの問題を担当しているサリさん。若者支援プロジェクトに対する住民の理解を得るために奔走してくれました。村で活動するピア・エデュケーターの推薦にも関わります。
      「プロジェクトが始まった当初、セックスについて話をするピア・エデュケーターはけしからんと誤解する住民がいましたが、今ではみんなこの活動を応援してくれています。コミューンの若者に実際に起きているHIV/エイズや薬物乱用の問題を取り上げるピア・エデュケーターは頼もしい存在。健康を守るためには継続が大切なので、これからも活動を応援していきたい。」

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      若者向けウェブサイト

      近年の若者のスマートフォンの利用増加を背景に、プロジェクトでは、性と体に関する知識や情報を伝える手段として、シャイな若者でもアクセスしやすいように、また性と体について包括的に学べるリソースとして、若者向けウェブサイトを立ち上げ、ピア・エデュケーターやイベントでのPR活動を通じて、利用を促しています。

      ウェブサイトでは、体の成長、性と生殖に関する健康と権利、性感染症、HIV/エイズ、薬物乱用、ジェンダー、対人関係、自己決定権など、学校では十分に学べない若者の関心テーマについて、図や写真も使ってわかりやすく説明しています。また、カンボジア全国に15あるIPPFカンボジアのクリニックが提供する若者向けの保健サービスについても紹介しています。

      ウェブサイトには、サイト内のメール機能を活用し、若者が匿名で性の悩みを相談できるQ&Aコーナーも設置しました。2016年の12カ月間では約2000件の問い合わせがあり、一つ一つの質問に対して、IPPFカンボジアの専門家が丁寧に返信し、情報を提供しました。

      2015年1月に立ち上げたウェブサイトには、今では毎月5000件を超えるアクセスがあります。10代、20代の若者に加えて、30代や40代からのアクセスや問い合わせも多く、若者に限らず、幅広い年齢層の人々が性と体に関する知識や情報を求めていることがわかりました。

      今後に向けて

      2014年4月から実施してきたバッタンバン州オチャーコミューンでの若者支援プロジェクトは、2017年3月をもってジョイセフからの技術支援を終了し、今後は、IPPFカンボジアとオチャーコミューンが運営を行います。ネットヤン中高等学校でのピア・エデュケーターの活動も、今後はIPPFカンボジアが中心となり、先生と協力しながら継続していきます。

      3年間のプロジェクトを通して得られた成果と教訓は、IPPFカンボジアがバッタンバン州の他のコミューンに拡大展開を考えている若者支援活動や大学生を対象とした新たなプログラムにも積極的に活かしていくことにより、将来のカンボジアを担う若者の健康を守り続けていきたいと考えています。

      ジョイセフフレンズをはじめとする支援者の皆さまのこれまでのご支援に心より感謝いたします。