ガーナでの過去のプロジェクト

リプロダクティブ・ヘルス向上プロジェクト HIV母子感染予防にかかる運営能力強化

 

イースタン州コウ・イースト郡ヴォルタ川地区 リプロダクティブ・ヘルス向上プロジェクト

課題と背景

イースタン州コウ・イースト郡はインフラの多くが未整備であり、医療施設も同様で、郡病院もなく、郡には医師が一人もいません。

さらにヴォルタ川流域地区には保健施設がほとんどなく、川で分断されたこの地区では交通手段も非常に限られています。
その結果、妊娠・出産に伴う合併症への対応の遅れ、医療従事者の立会いが無い分娩など、母子の健康が損なわれるリスクがガーナの他の地域に比べて非常に高いのです。この地区では住民の大部分が漁業に従事していますが、郡内でも特に貧しい地域です。

住民の間では、家族計画の情報やサービスも不足しており、望まない妊娠も多く、危険な中絶の増加につながっています。
地域住民の識字率の低さもあって、妊娠、出産、産後・子どものケアについての情報や知識を含め、リプロダクティブヘルス(RH)に関連した一般的な知識も行き届いていません。

プロジェクトの概要

ジョイセフは2011年11月からコウ・イースト郡保健局とガーナ家族計画協会の協力を得てこの地区で活動を開始しました。
2014年12月までの3年間は外務省の日本NGO連携無償資金協力事業として、1年目(2012年)に、プロジェクト地域の拠点となるコトソ村にリプロダクティブヘルス(RH)センター(ベッド数最大15床)を建設し、助産師が常駐して出産や産前健診、家族計画などのサービスを開始しました。
2年目(2013年)には、ヴォルタ川沿いの3つの村に診療所(CHPS)(*)を建設しました。草の根レベルでは、RHセンターを拠点とした周辺地域への巡回診療とともに、地域住民より選ばれ養成された87名の地域保健ボランティアによる住民の行動変容を促す啓発活動を開始しました。
3年目(2014年)には診療所をもう1カ所建設し、緊急車両やボートを配備して計4つの診療所からRHセンターへの緊急時における搬送体制を整備するとともに、プロジェクト終了後を見据えて、現地協力団体の連携体制を強化しつつ、保健施設やボランティアが継続的にサービスの提供や啓発活動を持続できる戦略・体制を整えました。
この3年間の事業の成果を持続し、さらに改善するため、2015年6月からの1年間は公益財団法人JKAの補助事業として活動を継続しています。
日本国内の支援者やヴィリーナジャパン株式会社をはじめとする企業のご支援も加え、地域保健ボランティアによる草の根の活動に焦点を当て、それをより一層強化するため、彼らの能力強化研修や、村内放送とFMラジオを活用した啓発活動を実施しています。

(*)CHPSとは
Community-based Health Planning and Servicesの略。ガーナ政府が2000年より国の政策として推進している基礎的な地域保健サービスを住民に届けるための政策。コミュニティに地域保健師が派遣され、診療所や家庭訪問を通したサービス提供や啓発活動を行うとともに、住民もその運営に協力・参加する。

目的 安全な妊娠・出産に焦点を当てた、質のよいリプロダクティブ・ヘルス(RH)サービスの提供と、
住民に対する草の根の啓発活動を通した、対象地域の妊産婦の健康の改善
実施地域 イースタン州コウ・イースト郡ヴォルタ川地区
現地協力団体 ガーナ家族計画協会(IPPFメンバー団体)・ガーナ国家保健サービス

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ガーナ国HIV母子感染予防にかかる運営能力強化プロジェクト

2011年現在、世界のHIV陽性者数は3400万人といわれています。地域別に見ると、サハラ以南と言われるアフリカの地域での感染者が最も多く、成人の約20人に1人(4.9%)がHIVに感染しています。世界で2011年の1年間にHIVに感染した子どもの数は33万人。そのほとんどがお母さんから感染しています。

このプロジェクトが実施されているガーナ共和国も、サハラ以南アフリカに位置し、成人のHIV有病率は1.9%(2010)と同地域では比較的低いものの、HIV陽性の妊婦の数が多く、母子感染予防は国を挙げて取り組むべき火急の要件です。

ジョイセフは公益財団法人日本結核予防会と共同で、JICAの委託事業として、2012年2月から「HIV母子感染予防(PMTCT)にかかる運営能力強化プロジェクト」をグレーター・アクラ州で実施しています。PMTCT(母子感染予防)カウンセラーを養成するための研修やカウンセラーの監督指導者を対象とした能力強化研修の実施、保健施設で使用するための啓発教材開発やPMTCTサービス実施ハンドブックの制作を行い、PMTCTサービスの質の向上を目指しています。

プロジェクトリーダーは開発協力グループの勝部、副リーダーは山口、業務調整は稲葉が担当し、技術移転グループより吉野、吉留が教材開発専門家として派遣されています。ジョイセフと共にプロジェクトを実施している(公財)日本結核予防会からは、小児科医の吉松医師が長期派遣され、事業にあたっています。

HIV母子感染は、子宮内、出産時、そして母乳の3つの経路から感染すると言われています。適切な介入がなければHIV陽性の母親から産まれた子どものHIV感染率は15-45%にも上ります。しかし、母子に対して適切な介入ができると、 母子感染はほぼ防ぐことが可能です。だからこそ、本プロジェクトでは、子どものHIV感染を防ぐために、保健施設で働くヘルススタッフおよび監督指導者の能力強化を図り、補助教材の制作を通じ、HIVの母子感染予防(PMTCT)サービスの提供体制の強化に取り組んでいます。

具体的には、まずプロジェクト地域であるグレーター・アクラ州で、対象地域のサービス提供能力や実施状況、またその監督体制や指導能力を調査。さらに既存の教材や今後必要な教材制作についての情報や基本データを収集しました。次に、保健スタッフを対象にPMTCTカウンセラー養成研修を実施し、PMTCTサービス実施手順を簡単にまとめたハンドブックや効果的な監督指導を実施するためのチェックリストをガーナ側のカウンターパート機関である国家エイズ性感染症対策プログラム (NACP)や州保健局と協議・連携しながら作成しました。

PMTCTサービスの対象である母親向けの啓発教材として、病院の待合室で利用できるビデオドラマとフォトドラマブック、母親が携帯できるカウンセラーからのメッセージカードなども企画され、それらの開発は技術移転グループの吉野と吉留が担いました。

産前検診でHIV陽性が判明した女性でも、抗レトロウイルス薬を適切に服用することで母子感染とエイズ発症を防げることを感動的に伝えたビデオドラマ「Mama’s Determination」は、フォトドラマブックと合わせて制作され、各施設の環境に合わせて使用できるようにしました。また、母親が携帯するカードは、母親が産前健診や母子感染予防などの保健サービスを利用しやすいよう、ヘルススタッフとの距離を縮めるため、スタッフからの一言メッセージが添えられるお洒落なメッセージカードとしてデザイン、制作されました。

これらの制作物には、ジョイセフが長年培ってきた母子保健分野での経験や、戦後から日本国内で家族計画を普及させる中で培ってきたBCC(行動変容コミュニケーション)の経験が活かされており、今後プロジェクト対象地区の保健施設の待合室で効果が発揮されることが期待されています。

プロジェクトは来年2015年1月に終了するため、現在は残り1年の活動について最終的な調整が行われています。特に昨年、プロジェクトの支援で改訂されたガーナの母子感染予防サービスガイドラインに合わせ、ハンドブックとチェックリストの改訂や、カウンセラーの再研修が急務となっています。プロジェクト活動の成果が根付き、制作した教材が今後持続的に活用されるよう、プロジェクト終了までガーナ側関係者とより一層の協働を進めていきます。

データ参考:unicef

目的 ヘルススタッフおよびその監督指導者の能力強化と補助教材の制作を通じた
グレーター・アクラ州におけるHIVの母子感染予防(PMTCT)サービスの提供体制の強化
実施地域 グレーター・アクラ州
実施期間 2012年2月~2015年1月
対象人口 グレーター・アクラ州のヘルス・スタッフ約200名および約14万人の妊産婦とその乳幼児
現地協力団体 国家エイズ性感染症対策プログラム、グレーター・アクラ州保健局<JICA技術協力プロジェクト>
HIV母子感染予防にかかる運営能力強化プロジェクト

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