世界のSRHRニュース:9 チェコ、イラク、ガーナ、イギリス、アフリカ
2024.5.29
- 世界のSRHRニュース
世界で起きているセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)関連のニュースをお届けします。
News1: チェコで同性カップルの権利拡大、イラクは同性間の交際を犯罪化
【出典】
2024年4月29 日 France24 “Czechs expand rights for same-sex couples ”
2024年4月27日 アルジャジーラ ”Iraq criminalises same-sex relationships with maximum 15 years in prison”
2024年4月24日、チェコのパベル大統領は、同性カップルが結婚と同等の権利を享受できる法案に署名した。この新法案は、同性カップルに共有財産と相続の権利を与えるものであり、生物学上の親のパートナーがその子どもを養子にすることも認められる。ILGA(国際レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス協会)によれば、現在は欧州、北米、南米を中心に世界37カ国で同性カップルが養子を迎えることが認められている。
一方、4月27日、イラクの議会は、同性間の交際に対し最高15年の懲役刑を科す新法を可決した。「売春と同性愛の撲滅に関する法律(The Law on Combating Prostitution and Homosexuality)」は、同性間の関係を禁じ、明らかになった場合は最低10年、最高15年の禁固刑、同性愛を擁護したり売春に関わったりした者にも最低7年の禁固刑を義務づけた。法案の主な支持者は、議会で最大の連合を形成している、保守的なイスラム教シーア派政党。新法は、社会の「道徳的構造を守る」ことを目的としていると、マンダラウィ国会議長代行は述べている。
News2: ガーナにおける母子の命を守る日本の取り組み
【出典】
2024年4月25日 The Japan News ”Protecting Lives of Mothers, Newborns in Ghana: Japanese Cross-Sector Efforts to Tackle Mortality Rates in West African Nation”
ガーナでは、複数の日本の企業や団体が、知見と技術を活かして母子の健康改善に取り組んでいる。ユニセフ「世界子供白書2023」によると、ガーナの新生児死亡率は、出生1,000人あたり23人、妊産婦死亡率は、出生10万人あたり263人だった。(国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」では、2030年までに出生10万人あたり70人未満にすることを目標としている)
死亡率が高い理由の一つは、医療施設へのアクセスの悪さだ。ガーナ東部に住む女性は、5人の子どものうち3人を、保健センターまで2時間近くかかる向かうボート上で出産、そのまま自宅に帰り、薬草などを使って自分で止血した。歩いて保健センターまで辿り着けず道中の茂みで出産し、赤ん坊が死亡するケースもあった。
この状況を改善するため、ジョイセフと塩野義製薬が協力し、出産を控えた妊婦を対象とした「マタニティハウス」を、今年2月に開所した。ジョイセフは、これまでザンビアにも同様の施設を開設している。マタニティハウスには、妊婦が2人ずつ宿泊できる部屋が5つあり、出産予定日の2〜4週間前から産後72時間まで滞在できる。両者は、分娩棟の建設も計画しており、将来は地域で自立運営できるよう、スタッフのトレーニングを行っている。
ガーナのエジス政府病院では、NECが開発した妊婦健診用問診アプリが活用されている。また、NEC、医療危機メーカーのシスメックスと味の素財団は、2022年から共同プロジェクトを開始、ガーナの5歳未満の子どもの17%が発育不良であることから、健康診断や栄養指導、医療ケアまでをシームレスに提供することを目指している。
さらに、豊田通商が出資する米スタートアップ企業ジップライン・インターナショナルは、2019年からドローンで医療物資を遠隔地に届けるサービスを提供している。ガーナは未舗装の道路が多く、医薬品やワクチンの輸送が長年の課題だった。現在は1日に100機以上のドローンが、車なら4時間かかるところを、1時間以内で、緊急出産時に必要な血液製剤を届けたり、医療施設から離れた地域に物資を配送したりしている。
【参考】
ジョイセフのガーナにおけるプロジェクト:
2023年6月1日「コミュニティエンパワメントによる母子保健推進プロジェクト」
2023年7月28日「ガーナの現場から。首都に近いクロボの村に建てる診療所」
2024年1月29日「ガーナ初マタニティハウスのペインティングワークショップ」
News3: アフリカにおけるジェンダー平等の状況
【出典】
2024年5月6日 allAfrica ”Africa: Get Gender Equality Right in Africa, and Prosperity Will Follow”
2024年5月6日 アフリカInstitute for Security Studies(ISS)の最新調査によれば、アフリカ社会におけるジェンダー不平等を改善すると、2043年時点の経済規模が2,590億ドル拡大する可能性がある。
アフリカでは、気候変動や新型コロナウィルスのような感染症に対し、女性は男性よりも影響を受けやすい。また、ジェンダー不平等が社会的・文化的規範や伝統に根ざし、改善されにく、特にサブサハラ(サハラ以南の地域)の国々は、国連開発計画(UNDP)のジェンダー不平等指数(GII)が高い。また、アフリカの女性はHIV、結核、マラリア、栄養失調などで死亡する確率が男性よりも高く、サブサハラが世界の妊産婦死亡のおよそ70%を占めているのも、医療アクセスにおけるジェンダー不平等が主な原因とされている。
アフリカの女性と女児は、介護や家事などのケア労働の負担も大きく、GBV(ジェンダーに基づく暴力)を受けるリスクも高い。2019年の平均労働力人口に占める女性の割合は男性73%に対し、女性は56%だった。議会における女性の議席占有率は平均24%、幹部職の割合は7%にとどまっている一方、ルワンダ、ナミビア、南アフリカ、セネガルの4カ国は、女性議員数で世界トップ10に入るなど、国による隔たりもある。
ISSによると、ジェンダー不平等対策によって、女性の活躍が促され、特にサービス分野の収益が増大し、一人当たりのGDPが12%増加、極貧人口が通常の予測よりも8,000万人減少するとのこと。
アフリカにおける開発と繁栄を促進する策としては、
- 農村部における差別的慣行についての啓発キャンペーンや教育に、宗教・伝統的指導者も参加
- 中等教育までの無償化、結婚年齢を18歳以上とし、包括的性教育の実施
- 土地所有権の男女格差を是正するための法改正
- 家事の負担を軽減するインフラ整備
- クオータ制の導入、メンター制度の採用
- GBV、サバイバー支援についての教育と、加害者に対する法的措置の徹底
などが挙げられている。
News4: イギリスの月経トラッカーアプリの脆弱性
【出典】
2024年5月15日 BBC ”Period trackers ‘coercing’ women into sharing risky information”
2024年5月15日、英キングス・カレッジとユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの共同調査によると、女性の月経管理アプリでは、非常にプライベートなデータが集積されるにもかかわらず、開発側の管理が甘く、データが悪用される危険性も高いことが明らかになった。
調査は、Google Playストアからダウンロード可能な、米英で人気の高い女性の健康アプリを対象とし、そのプライバシーポリシーおよびデータの安全性を確認した。こうしたアプリの多くでは、性行為、避妊、生理の停止や開始日などを記録できるが、月経周期や流産などプライバシー度の高い情報を削除不可能であったり、データ管理の不備があるものが散見された。月経管理アプリは世界で数億人が利用しているという。
キングス・カレッジのルバ・アブサラマ博士は、「リプロダクティブ・ヘルスに関する個人情報の杜撰な管理や漏洩は、女性に対する恐喝、差別、暴力という事態につながりかねません」としている。さらに、法執行機関や治安当局がこうしたデータにアクセスし、許可なく利用する可能性も否めないと調査では結論づけている。
近年、フェムテック*業界は急成長しており、2025年までに市場は750億ドルを超えると予想されている。調査の共同研究者であるリサ・マルキ氏は、業界全体で利用する女性の保護対策にもっと力を入れるべきだと述べている。
*女性の健康の課題をテクノロジーで解決する製品やサービス
(編集後記)
ニナ・メンケス監督の「ブレインウォッシュ(BRAINWASHED: Sex-Camera-Power)」は、「Male Gaze=男性のまなざし」を切り口に、ハリウッド映画をとことんSRHR的に検証しているドキュメンタリー作品。ヒッチコックからタランティーノ、アベンジャーズ作品まで、監督自身がバサバサ斬っていくのに圧倒されながら、作品の見方が180度変わります。名作も多いだけに「ガーン」とショックもありますが、自分がいかに男性目線に慣れてしまっているかにも気づけ、視野が広がりました。ちなみに、(数少ない)良作とされた「燃ゆる女の肖像」(セリーヌ・シアマ監督)は私も大好きで2回観ました。(すなみ)
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