性と恋愛 2023【性・セックスの意識】
性的同意について「絶対に大事だと思う」若者は9割を超えた(90.1%)。一方で、「性的同意を得ているつもりだが、本当に得られているか自信がない 」と男性の約2人に1人(49.1%)、女性の約3人に1人(36.0%)が回答。
「具体的に性的同意とはどういうものか、正直わかっていない」の回答も4割を超えており、性的同意の重要性はわかっていながらも具体的には理解していない現状が明らかとなった。
セックスに関連した困りごとについては、男性は「特に悩みはない」(24.5%)、女性・男女どちらでもない場合は「容姿や体形に自信がない」、「自分の性器の大きさや形・色・においなどが気になる」が上位にランクインし、性別による差とボディイメージに関する悩みが顕著に見られた。
恋人・パートナーとの経験
性的同意は絶対に大事だと思う
セックスってどんなイメージ?〈複数回答〉
セックスに関して悩みごとや困りごと、コンプレックスなどはある?〈複数回答〉
気が乗らないのにしたことある?
法学者・谷口真由美さんからのコメント
2019年、2021年に続いての今回の調査は、避けて通ることはできないコロナ禍という特殊事情があるために、これまでの調査との差異などを読み解くことが困難だということが、大きな特徴のひとつだと考えます。
コロナ禍において、どっぷりと自宅にいなければならない状況になりました。性にしても恋愛にしても、生身の人間と会うことで成立していることがほとんどです。出会いの入口がオンラインであったとしても、大多数の人の前提として、人とリアルで会うことを抜きにして、性と恋愛はできないということが、改めて言語化されたのではないでしょうか。もちろん、人によってはオンラインでセックスも恋愛も完結できる人もいるかもしれませんし、それを否定するものではありませんが、友人すらつくりにくい状況であった若者たちが、より親密な関係になる恋人をつくるということは、コロナ禍で非常に困難になったのではと思われます。 近年では、恋愛もセックスも結婚に対しても、ガツガツせずにしたい人がすればいいという若者が増えてきた傾向にあったように感じていますが、このコロナ禍がそれに拍車をかけた可能性は否めません。また、コロナ禍が及ぼした影響が、このあと数年にわたり、性と恋愛に影響が出ることが予想されます。今後、婚姻数などにも変化がでるのではないかと推察いたします。
その一方で、コロナ禍で、ジェンダー規範がより強化したともいえます。自宅でオンラインで仕事をする男女のカップルに子どもがいた場合、女性の方が家事時間が増えたというデータがあります(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/column/clm_01.html )。 最近ではジェンダーという言葉の認知度はあがっており、ジェンダーに基づく差別はなくなってきているように思っている人もいるかもしれませんが、実際はなくなっていません。差別はもうない、と思っている人たちは、いつまで女性差別があると思っているのかという認識になりがちですが、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数の日本の順位は146カ国中125位で、前年(146カ国中116位)からでも9ランクダウン。順位は2006年の公表開始以来、最低だったということが示しているように、女性差別は厳然として存在しています。
女性差別はあるのに、男性の方が「性による損をしている」と感じている傾向があるように出ているのが、「学校や職場で、自分の性別を理由に、役割や担務を誰かに譲った、もしくは辞退した経験」は、女性は2019年、2021年、そして今回とそんなに顕著な動きはないのですが、男性は2019年は18.0%、2021年は16.1%、そして今回は24.7%と大幅に上がっていることからも明らかです。このあたりは、近年、「現代的レイシズム(新しい差別)」といわれる言説と大変似ている状況と考えられます。「古典的レイシズム」は、わかりやすい、あからさまな偏見であるのに対し、「現代的レイシズム」の特徴は、差別なんかないのに、問題があるとしたら、マイノリティ側の努力が足りないからであり、(努力もせず)差別、差別と主張して過大な要求を行っている、それによって不当な特権を得ているというものです。このような言説の広がりと、今回の調査の結果は、とてもリンクしていると考えられます。
SRHRを含む人権教育が、これまで以上に日本で必要なことが、今回の結果からも改めてみえてきたといえます。例えば、「性的同意は絶対に大事」が90%を超えていても、「性的同意を得ているつもりだが、本当に得られているか自信がない」「具体的に性的同意がどういうものかわかっていない」が40%を超えています。大事であることがわかっても、どうしてよいのかわからないことが明らかになったので、今後の実践をどのようにしていくのかが課題ですね。
谷口真由美
1975年 、大阪市生まれ。 法学者。 専門は国際人権法、ジェンダー法、憲法など。 現在、佐賀女子短期大学客員教授で、過去には大阪国際大学、大阪大学でも教鞭を執っていた。 父が近鉄ラグビー部コーチ、母が同部寮母だったため、寮のあった花園ラグビー場内で育つ。 人権、政治はじめ様々な社会問題に、大阪のおばちゃん目線で鋭くつっこみ、問題提起し、誰にでも分かりやすく解説。 テレビ、ラジオでの情報・報道番組出演、新聞・機関誌コラム、講演会など多数。企業のハラスメント対策やESGコンサルタントも務める。 高校生の子ども二人の母。