性別を問わず誰もが幸せに生きるために「ジェンダー・ギャップ」を埋めよう!
「ジェンダー・ギャップ指数」という言葉を聞いたことがありますか?
ジェンダー・ギャップ指数とは、男女の間にどれだけの格差が存在しているかを、政治・経済・教育・健康の4部門で評価して数値化したものです。
日本がジェンダー不平等と言われるのはなぜ?
この図を見るとわかるように、2024年の日本のジェンダー・ギャップ指数は146カ国中118位で、特に「経済」と「政治」で大きなジェンダー格差が存在していることが分かります。
いうまでもなく政治分野では、より多くの男性が重要なポストについています。国会議員のうち、女性は11.5%で、今まで一度も女性が内閣総理大臣になったことはありません。これは、女性に能力がないためではありません。
例えば、政治家として政策の議論をするとき、力強くはっきりとした発言をするとします。それが男性政治家の場合は「勇ましい」「リーダーシップがある」というようにプラスに評価される傾向がありそうです(この常にプラスを求められる「しんどさ」については、「『ジェンダー差別』って何? 男にも関係あるの?」のセクション「男だから……の思い込み」でも触れました)。
一方、女性政治家の場合に「感情的」「ヒステリック」「怖い」「愛嬌がない」というように、マイナスに評価されることはないでしょうか。性別によって真逆の評価がなされるのです。このようなジェンダー・バイアス(ジェンダーを根拠とした決めつけや偏見)によって、そもそも女性が政治に参画しにくい環境があると考えられます。
ケア役割は誰のもの?
家事・育児・介護といった「ケア役割」(誰かの世話をする役割)は、永らく「女らしさ」と結び付けられ、女性の仕事とされてきました。その他に、共感したり気配りしたりすることも、「ケア」の中に含まれます。それは、看護師・保育士などの職業に女性が多いことにも表れています。
しかしこうしたケアの能力は、女性だけに備わっていたり、求められたりするものではありません。料理・洗濯・子育てなどの自分や周囲の人が心地よく過ごすためのケアする力は、女性か男性かにかかわらず必要な能力です。
またこのケアの話をするとき、忘れてはいけないのが、自分へのケアです。日頃から自分の心とからだの声に耳を澄ませられていますか?苦しいときや泣きたいとき、自分に問いかけてみよう、誰かに相談しよう、ひと休みしてみようと行動に移すことができれば、ストレスや悩みで押しつぶされたり、からだの不調が表れたりする前に、立ち止まって方向転換できるはずです。そして、より自分らしい選択肢を選ぶことにつながります。
性別にかかわらずケア役割を担い、自分のケアも含めて実施することは、人生に不可欠なライフスキルです。同時に、永らく女性が社会や家庭でケア役割を期待され、政治・経済への参加機会が奪われてきたことにも目を向けましょう。
ポジティブ・アクション
ポジティブ・アクションとは、特定のグループが不利な状況に置かれているとき、その不利を解消し、みんなが平等にチャンスを得られるようにするための一時的な取り組みです。
たとえば、ある職場で女性が少なく働きにくい状況がある場合、その職場で女性がもっと働きやすくなるようにサポートする、採用や昇進で女性を優先するような対策をとる、といった例があります。また理工系学部などの入試で「女子枠」を設けるのも、ポジティブ・アクションの一例です。これらは平等な機会を確保するための方法として、多くの国や企業で取り入れられています。
こうした取り組みは、性別や人種、障害の有無などで生じる不平等を減らし、最終的にはみんなが同じスタートラインに立てるようにするために行われます(図のように平等から公平そして公正に進むための、公平のステップのこと)。そのためには、個々人の努力だけでなく、法律や制度などを変えていく必要があります。
ジェンダー差別の話で、ポジティブ・アクションについて考えるとき、それは「逆差別だ!」という声や、「優秀な男性のパイ(取り分)が取られてしまう」という声がよく聞かれます。しかし、困っている人、生きづらい思いをしている人に必要なサポートをするために、対象を「区別」すること自体は、差別ではありません。視聴覚障害者の試験に点字や音声などで対応することや、修学旅行などの部屋割りでトランスジェンダーなど必要とする人に個別の部屋を用意することなどは、必要な区別をした支援です(これらを「合理的配慮」や「個別支援」と言います)。
「『ジェンダー差別』って何? 男にも関係あるの?」<<<<<<←リンク付け>>>>>>のセクション「男だから……の思い込み」で「差別」とは何かについて考えました。そもそも差別とは、「区別・蔑視・排除」が組み合わさったものです。この社会制度自体、男女という基準で人を「区別」しています。その区別にもとづいて、女性の方が「感情的」、「ヒステリック」だから「政治に向かない」という根拠のない決めつけで女性を「蔑視」し、政治から「排除」してきた現実があるということを、まず受けとめてみましょう。「優秀な男性のパイが取られてしまう」という考えも、もとをただせば、不当に「女性のパイを奪ってきた」ことかもしれません。
頑張れない男じゃだめなの?
さて、このような話をすると「やっぱり、男が責められる」と思ってしまう人もいるでしょう。しかし、ジェンダー・ギャップ指数から考えてみると、単に男性が優遇されてきたというだけではなく、男性自身の生きづらさも見えてきます。
例えばこの社会は、「優勝のためならシゴキに耐えられる」「残業は当たり前」など「男性は頑張り続けられる」という思い込みによってつくられています。逆に言えば「頑張れない男性」をサポートする制度が不十分であるということです。
「過労死」という言葉を知っていますか?仕事が忙しすぎて脳や心臓の病気になって亡くなることや、精神的に限界がきて死に至ることです。
この図からも分かるように、過労死にはジェンダーによって大きな差があります。この背景には、「頑張れる男性」像が存在します。「過労」という言葉にも表れている通り、過労死と、長時間勤務は大いに関係があります。男性だからタフという思い込み、あるいは男性は「大黒柱」だから弱音を吐いている場合ではない、というプレッシャーが、「頑張らない/頑張れない男性」を排除しているのです。
もし性別にかかわらず、十分に休みながら働くことができる社会であれば、性別による負担の偏りもなくなるでしょう。このように、社会にあるジェンダー・ギャップを考えることは、すべての人にとって生きやすい社会を目指すためにも重要なのです。
このページは、冊子『Men’s SRHR MINI BOOK for All 〜みんなで考える、男性の健康とジェンダー〜』の内容を、ウェブに対応するための編集を加えた形で掲載しています。(冊子の情報はこちらから)